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今はもうふさがっている自身で傷つけた所を、反対の手で触り観察している。彼は驚きと困惑を混ぜた声でつぶやいた。


「……完全に塞がっている」


私は、純粋に傷が治ったこと、魔法が使えたことで嬉しさがあり、彼の様子に気が付けなかった。

彼は、今の現象を“信じがたいものを見た”という感じで驚いていた。


「治癒魔法の適性を確認するだけ、魔法の感覚をつかんでもらうために、行ったつもりだったんだけど、初めてで“完全治癒”をするなんて……——しかも“無呪”でやってのけるとは驚きだ。」


えっ、そうだったの?説明なさすぎだよ!それにしても

「むじゅ……って?」



「呪文を唱えずに魔法を発動させるという意味だよ。」


オレムはわかりやすく説明してくれた。


「熟練の魔導師でも、無呪で魔法を使いこなせる者は少ない。魔法は本来、言葉によって形を与えられ、世界や自然と結びつき、魔法が発動する。呪文は枠組みであり、暴走を防ぐための“制御装置”でもあるんだ。——だが君は、その規定にとらわれずに完全な治癒を成した。」


彼の声は静かだったが、その奥には確かな震えがあった。

ってか、先にオレムが見本見せてくれてもいいじゃん!魔法を使うのにそんな規定があるなんて、ちゃんと説明してほしかったよ。

実際、私は何も唱えていないし、この世界の理を知らずに魔法を使った。少し怖くなり、私は自分の手を見つめた。ただ「治したい」と思って願って、傷の治る仕組みを頭に思い浮かべただけ。


「浅い傷とはいえ、完全治癒にはそれなりの魔力と精密な制御が必要だ。不慣れなものが、治癒魔法を使うと、魔力がそれて皮膚が焼けたり、逆に状態が悪化することもあるほどなんだ。なのに、君の治癒魔法は、制御されているし——まるで、自然の修復そのものだ」


オレムは一歩、私に近づいた。真剣な眼差しで。

「君は、何をしたんだい? どうやって魔力を動かした?」


「えっと……」

彼の視線や雰囲気が少し怖くなり、私は目線をそらした。彼の質問にたいしてどのように答えたらいいのかわからず、少し考えてからありのままに答えた。


「傷が塞がるイメージを頭に描きました。人間の身体が傷を治す仕組みを、順番にたどってそのようになるようにしただけ……」


私は、止血期から成熟期までの治癒の流れを、

血が止まり、炎症が収まり、皮膚が再生し、組織が整う——その段階を説明した。



オレムは腕を組み、しばらく黙り込む。


「……その考え方は、聞いたことがない」


「え?」


「まず、そのような医学的な知識はこの国にはない。君は、この国以上に発展した世界での知識を有していることになる。」

まぁ、元生きていた国はここより教育はしっかりしていて便利だったからね。


「次に、“意志”で魔法を発動させることはできない。一部例外はあるが、基本感情や願いは、魔法を使う上でのあくまで導火線にすぎない。」

だから、治したいと願っても魔法は使えなかったんだね。じゃあ私の魔法の発動条件ってなによ……


「もはや、君の使う魔法は、“理論外”だ。まるで、この世界の魔法に関する理を自ら書き換えているかのようだよ。君がこの世界に来ていること自体がありえないことだから、あり得るのかもしれない……」


私は息をのんだ。そんな大事なことだとは、私がこの世界で生きていることを考えると、確かにこの世界の理を逸脱していると思うんだよね。


「とにかく、無呪で発動し、失敗も暴走もなく、完全な治癒を果たす。そんな例は、王国の記録にもない。……どうしたものか」


静寂が降りた。


(記録がない、か……)私は小さく息を吐いた。

私にとっては、“人を癒したい”という、当たり前のこと。

学校で習った知識に沿ってイメージしただけなんだけど、それがこの世界では、異例なんだ。


彼が発した言葉の余韻が残るなか、オレムは再び私に視線を向けた。

彼の瞳が、今度は探るようではなく、何かを確かめるように揺れている。

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