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1-11

部屋の空気が一瞬で重くなり、窓から差し込む柔らかな光すら冷たく感じられた。


その原因であるオレムの雰囲気は、今までとはまるで別物になったと思う。

今までが、温かみや優しさあったのに、今は真実を暴こうとする人のような感じだ。



「ユリアス……いや——お前は、誰だ?」

その問いは、鋭い刃のように胸を突き刺した。



この体は、ユリアス・フォン・フローレンスのもの。

でも中身の意識?は、佐倉結衣、26歳、職業:看護師一年目。


なので、今の私はユリアスではない。

別の世界から来た、まったくの別人だ。


(こんなこと、信じてもらえる?)


突拍子もない話を、誰が信じるというのだろう。私自身だって、最初は夢だと思い込もうとした。

けれど、目の前の現実——この豪華な部屋、ルーシャの笑顔、セレナの温もり、オレムの視線——すべてが確かに「生きた現実」だった。


(候補としては、①黙る ② ごまかす。 それ以上の対処方法が思いつかないよ。。)


例えごまかしたとて、それでいいの?

事実をこのまま隠し続ければ、オレムの疑念は消えない。疑い続けるだろう。


私自身、ずっと「ユリアス」として生くことになると、嘘を積み重ねて生きていくことになる。それは息苦しいし、生きにくい。


(嫌だ……私は、嘘をつきたくない)


いいように考えると、今の間に話すことで、オレムを味方につけられないかな?



私はゆっくりと、魔力感知石から手を離した。その瞬間、薄い青と銀金の光はふっと消え、真っ白な紙面に戻る。開かれたページは、まるで何もなかったかのように——けれど、私の心はもう決まっていた。





「オレム……あのね……」

声が震えないよう、必死に抑え込む。


深呼吸をひとつ。赤い瞳をまっすぐに見つめる。そこには、疑念と、ほんのわずかな期待のような光が混じっていた。


「察してる通り。私は……ユリアスじゃない」



オレムは、瞬きを一度だけし、黙って私の発するであろう次の言葉を待っていた。部屋は静まり返り、遠くの鳥のさえずりが異様に響いている。



「身体はユリアスって子のものになる。でも、私の意識……心っていうのかな? この世界とは異なる所で生きていた私が、この世界のユリアスの身体に入った感じ。信じられない話だってこともわかってる。でも、目が覚めたらこの身体で、知らない部屋にいて……ユリアスって子になっていて…………」


私が話している間、オレムの表情はほとんど変わらない。だが、その瞳の奥で確かに何かが揺れているようにみえた。それは、驚きか、困惑か、それとも……


「……じゃあ、お前は誰だ?」

低く、慎重な声。


私は喉を押さえるように息を吸い込み、名を告げた。


「私は、佐倉結衣。この別の世界で生きてた、ただの社会人。貴族でもない魔法も使えない一般人です。」


沈黙が長く感じる。オレムの視線が私を射抜き、まるで魂の奥を見極めようとしているように感じる。


(どうなるだろう、、怒られる? 追い出される?)




彼にとって、ユリアスは大切な存在だったはずだ。今まで触れ合った家族のセレナの涙、ルーシャの喜び、オレムの気遣いなど——それが何よりの証拠。そんな家族の一員であるユリアスを「奪った」私が、許されるはずがないと思い、胸が締めつけられる。



嘘はつきたくない。本当のことを話さなければ、私はずっと自分を偽って生きることになる。

それだけは、どうしても耐えられなかった。



「……お前は、その『サクラ・ユイ』として、ユリアスの体で生きている、そういうことか?」


オレムは静かに尋ねた。それは、怒りも非難もなく、ただ事実を丁寧に確認するように思えた。



「……うん」


私は小さく頷く。それが、今の私にできるすべてだった。




オレムはしばらく黙り込み、視線を机上の本に落とした。視線の先にある魔力感知石のページは、ただ白く、静かにそこにあるだけ。

その沈黙の中で、彼が何を考えているのか、私にはまったく読めなかった。


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