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私は無意識に唾を飲み込み、頷いた。指先に力が入り、掌がじっとりと汗ばんでいる。

(本当に魔法が使えるんだよね? 失敗したらどうしよう……)


「この石に軽く触れるだけでいい。何も考えず、自分の内にあるものを感じてみるんだ。」


言われた通り、私は恐る恐る石に指先を伸ばした。

冷たい感触。微かなざらつきを指先が触れると、不思議な感覚が全身に広がっていく。


心臓がドクドクと脈打ち、部屋の空気が一瞬だけ止まったように感じられた。



——そして、その瞬間。



真っ白だったページに、ふわりと色が広がった。

薄く澄んだ青がページ全体を染め、銀の糸のような光が水面を走るように描かれる。

ところどころには、金色の粒が舞い散るように輝きを放っている。


なんだか、夜明け前の湖面に月光が映るような、神秘的で息を呑む光景だった。



(これが……私の魔力!?)


魔法が使えたという喜びと安堵が広がる。

もし「魔力なし」だったら、この世界でどうやって生きていけばいいのだろうと心配したくらいだ。


けれど、反応した。

私はこの世界で「魔力を持つ存在」なんだ。




だが、喜びはオレムの一言で、一瞬で崩れ去った。


「これは……」



オレムの聞いたことのない低い声。

恐る恐る顔を上げると、彼の表情が一変していた。


穏やかさは消え、眉が深く寄せられ、唇が硬く結ばれている。

瞳には驚きと疑念の光が宿っていた。



(え、なに!? 私、なんかやっちゃった!?)


沈黙が落ちる。

その沈黙がさらに部屋の空気が重く感じた。



やがて、オレムがゆっくりと口を開く。

「ユリアスの色とは……違う」



「え?」


「本来のユリアスの魔力は、もっと濃く、深い青だった。例えれば、湖の底のような色。だが、これは……薄い。それに、銀や金の光が混ざっている。こんな変化は、あり得ない。」



「あり得ないって……成長によって魔力は変わったりしないの?」


ファンタジーでは、そのようなことよくあるけど、、


「魔力量が増減することはある。だが、属性の色が変わることは——絶対にありえない。」



その視線が私を貫く。

兄というより、真実を暴こうとする監察官の目ようだ。



「ユリアス……いや——お前は、誰だ?」



その言葉が胸を突き刺す。

私の心臓は冷たい手で鷲掴みにされたように、激しく跳ね上がった。


頭の中が真っ白になる。


(どう答えればいい!? 私、自分でも説明できないのに……私の意識は佐倉結衣で、ユリアスの体の中にいるなんて、どう説明すればいいの!?)


視線をオレムから外し、本のページに落とす。

だが、言葉はひとつも浮かんでこなかった。



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