1-1 異世界に転生した女性
初めて投稿します。
不慣れな点がございますが、よろしくお願いします!
なんで?
頭が靄に包まれたようにぼんやりして、記憶がまるで水面に浮かぶ泡のようにはかなく消えていく。
重いまぶたをゆっくり開くと、目の前に広がったのは見知らぬ天井だった。
太い木の梁が天井を横切り、中心には金属製の豪奢な照明。
窓から光がこぼれ、レースのカーテンが風に揺れていた。遠くで、鐘の音が低く響く。
(ここ……どこ?)
疑問が浮かぶと同時に、体の感覚が徐々に戻ってきた。柔らかなベッドに横たわっているが、身体がひどく重い。まるで自分のものではないような違和感が全身を覆う。
恐る恐る手を目の前にかざす。
細く、透けるように白い指。繊細な爪。動かすたびに手首の骨が浮き上がる。
(私の手……こんなだったっけ?)
混乱する頭で、必死に自分の名前を呼び起こす。
——佐倉結衣。26歳。看護師一年目。新人で、いつも慌ただしくて……
仕事終わりにロッカールームで着替えて、病院を出て——それから?
何か大事なことが頭をかすめたのに、霧のように消えてしまう。
(思い出せない……)
身体を起こそうとすると、筋肉の動きが普段と違うことに気づいた。
長い間寝たきりにされたような、ぎこちない動き。
ベッドから足を下ろすと、絹のネグリジェがふわりと広がった。足元に触れる床は冷たく、磨かれた木の感触がリアルすぎる。
部屋を見渡す。広々とした空間に、大理石の壁と精巧な木彫りの装飾。高級そうな家具が整然と並び、まるで中世ヨーロッパの貴族の館のようだ。
だが窓の外には、赤色に染まる空と、沈みかける太陽。
(これ……夢? 現実?)
頬を軽く叩いてみる。鋭い痛みが走り、夢特有の曖昧さはない。
「え、なにこれ……意味わからない……」
自分の声が広い部屋に小さく響く。
確かなのは、ここが私の知る場所ではないということ。
そして——私は、もう「佐倉結衣」ではないかもしれない、という恐ろしい予感。
震える手でネグリジェの裾を握りしめ、深呼吸する。
(落ち着いて……まず、状況を把握しなきゃ)
そう自分に言い聞かせるが、心臓はますます激しく脈打っていた。
その時——。
ギィ、と扉がわずかに軋み、誰かの気配が差し込んだ。
急に不安が押し寄せ、ベッドに座り込む。胸の鼓動がさらに速くなる。
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