003-骨ホネBORN
「痛ってぇ……」
床に仰向けに倒れたまま、天井を見上げる。
いや、正確にはもう天井じゃない。無数のツタと、ねじれた金属の梁。見たことのない構造。
あんな勢いで吹っ飛ばされて、よく無事だったもんだ。
「ってか……どこだよ、ここ……?」
ゆっくりと体を起こして、あたりを見渡す。
薄暗くて、冷たくて、やたら広い。構内の一部どころか、地下施設みたいな巨大空間が広がっていた。
さっきまでいた駅の構造は、跡形もない。
どう考えても現実に存在し得ない広さと造り。
“ダンジョン”って単語が、ようやく現実味を帯びてくる。
「はー……マジでやらかした」
スライムからは逃げられた。が、その代償として奥まで吹っ飛んだ。
これは完全にソロで来る場所じゃない。
「とりあえず、報告だけでもしとくかぁ」
スマホを取り出す。電波は、かろうじて通じている。
せめて現状だけでもスレに投げとこう。
> 【現地報告】スライム出現、びっくりしてスキル誤爆→ダンジョン奥まで吹っ飛ばされた。
現在位置不明。怪我なし。一度外に出る予定。
「……さて、帰るか。てか出口どっちだよ」
軽口を叩いて、歩き出す。
スキルは問題なし。地面に触れれば変質も感知も反応してる。
ただ、やっぱり植物の気配はまったくない。芽吹きも、香りも、命も。
「……やっぱここ、死んでるわ。土地が。」
不気味なほど静かだった。風も、水音も、まるでない。
──カラン。
「……ん?」
乾いた金属音が、遠くから響いた。
反射的に身を低くして、音のする方へ耳をすます。
──カラ、カラカラ……カラン。
何かがぶつかってる? 引きずってる? いや、歩いてるか……?
そして、暗がりの奥から現れたのは――骨だった。
剣を持った、人型の骨。肉も皮もない、まぎれもない骸骨。
「……うっそだろ……」
こっちを認識すると、剣を構えてゆっくりと歩いてくる。
赤く光る目。殺意のある動き。“敵”だ。
──スケルトン。
「ど、どうもー……失礼しましたー」
思わず頭を下げながら後ずさる。
が、当然そんな言葉が通じるわけもなく、スケルトンは一歩、こちらへ踏み出す。
──カラン。
「いやマジで、帰るだけなんですって。ね? ごめんね?」
──カラン、カラン。
「いや、いやいやいや」
──カラカラカラカラカラ!
「ぅわああああマジかよおおおお!?」
背を向けて全力疾走。
スキルを叩きつけて地面を柔らかく変質、跳ねるようにして逃げる!
風を切る音。
背後から迫る、カチャカチャという足音。
最悪すぎる。
本気で、帰れないかもしれない。
「くそっ……出口、どっちだ……!」