002-はじめてのダンジョン
駅内に向かって歩るく。
スマホの画面には、さっき上げたスレの反応がずらっと並んでいて、妙にウキウキしてしまう。
──《なんだよこの写真》《ホラー映画か?》《モンスターいるだろこれ》──
「へへへ……じゃ、初のダンジョン探索といきますかね!」
テンションは軽い。けど、足取りは重い。
写真を撮ったときは“違和感”だったのが、近づくにつれて“異常”になってきてるからだ。
駅の入り口は、まるで巨大な口。
吐き出す息のように、冷たい風がゆっくりと吹いてくる。
そして一歩足を踏み入れた瞬間──空気が変わった。
重く、冷たく、威圧的な空気。
コケに覆われた構内は完全に暗く、天井は見えない。
遠くでポタ、ポタと水の滴る音がして、風が足元をなぞるように通り過ぎる。
「うわ、なにこれ……
ダンジョンっていうより、心霊スポットみたいじゃん」
俺は周囲を撮りつつ、慎重に歩を進める。
けど、どこかおかしい。
いつもなら反応するはずの“植物”がない。
スキルが沈黙してる。芽吹きも、匂いも、気配もない。
──命が、消えている。まるで、死んだ土地。
そして、違和感はさらに強まる。
誰かに見られている。
音はない。でも、いる。“何か”が、この空間のどこかに。
「やっぱり、やばいかも……でも、このまま何もなしってのも……」
電波が途切れている。スレにメッセージを送ろうとしても、送信がクルクル回るだけ。
現実の質感がどんどん曖昧になって、足元の地面すら信用できなくなる。
そして──
「うわッ!」
ヌチャリ。
思いっきり、何かを踏んだ。
足元がぬるっと沈んで、靴の裏から奇妙な感触が這い上がってくる。
「なにこれ!? 生きてる!?」
慌ててスマホを向けると、粘ついたゼリー状の物体がぐにゃりと動いた。
それは無音で、意志もなく、足元からぬるりと這い上がってくる──
──スライムだ!
俺はその感覚の気持ち悪さと、あまりの突然さに思考を放棄して、反射的にスキルを起動してしまった。
「地中変質ッ!!」
即座に地面が爆ぜた。
土と岩が膨れあがり、俺の体を弾丸のように飛ばす。
ボンッ!!
「ぬわああああああ!!?」
ただ、あまりに急な出来事だったため、体勢もなにも取れず──
俺の体は駅構内の奥へと豪快に吹き飛ばされていく。
天井にぶつかり、ツタを巻き込み、くるくると回転しながら、
地面や壁を柔らかくして衝撃を逃がしたが、それがまずかった。
消しきれない運動エネルギーは俺をそのまま、闇の奥へ運んで行った。
──うん、完全にやらかした。