表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

001-壁の向こうへ

──2035年4月22日。避難区域・桐生市。


自宅の床下に開いた黒い穴を見下ろしながら、タカヒロは軽く背伸びをした。


コンクリートと地盤をぐにゃりと柔らかくして空間を押し広げ、地下トンネルを作るのは、いつもけっこうな集中力を要する。

しかも今回は一晩で仕上げた。疲れた。


「……まあ、バレなきゃ勝ちでしょ」


警備の目をかいくぐって避難区域の外に出るには、これしかなかった。

正面ゲートには赤外線センサーと自動監視ドローンが常駐。

通行証がなければ、問答無用で拘束。

だけど、外には“面白いもの”があふれている。


タカヒロのスマホには、昨夜の掲示板のログが残っていた。


-------------------------------------------------------------------------------------------

【緊急】ダンジョンの状況って結局どうなってんの?

スレッド No.304 / 避難区域・桐生板


54:名無しさん@桐生生存

スレ保持してるけど、あいつ戻ってこないなぁ。やっぱ口先だけか。


55:名無しさん@桐生生存

いや、まだ準備してるだけかもよ? 避難区域から出るのって通行証いるし。


56:名無しさん@桐生生存

通行証なんて基本、他の避難区域に移動するときぐらいしかもらえん。

見に行くとか言ってる時点でムリゲー。


57:名無しさん@桐生生存

だな。ダンジョン見に行くなんて許可出るわけない。

期待して損したわ。

はい解散解散。


58:名無しさん@桐生生存

お ま た せ

準備できたから今から避難区の外に出ます。


59:名無しさん@桐生生存

お、マジ!?


-------------------------------------------------------------------------------------------

タカヒロは、苦笑した。

勢いで書き込んだ自分のスレッドが、まだ残っていた。


ずっと気づいていた。

ダンジョンが現れて半年。スキル保持者たちは戦力として前線へ引っ張られ、

“役立たず”は壁の中に押し込められる。


そして自分の「異能」は、そのどちらにも当てはまらない。

限りなく灰色。踏み出せば、きっと黒と見なされる。


でも、それでも行く。

この目で確かめたい。この力が「何に使えるのか」を。


地下の闇に吸い込まれるように、タカヒロは身を滑らせた。

掘ったばかりの土の匂い。ぬかるんだ床。根の張った壁。

その中進み数十分。


数十メートル先に、崩れかけの金網フェンスが見える。

その向こうは、もう、誰の管理も届かない世界だ。


一歩、また一歩。

壁の中で失われたものすべてが、この先にあるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ