Ep.3:開戦
日本時間2199年4月1日。
太陽系外縁部に突如現れた異星文明のエイリアンの船団。これに対し国際連邦平和維持管理理事会、通称IPEはIPE直轄第十遊撃艦隊を編成し出撃させた。やがてエイリアンとの交渉が始まったが即座に決裂。一方的な宣戦布告とともにIPE第十遊撃艦隊は強襲を受けていた・・・
side.N/A(日本国防衛省国防軍幕僚監部・作戦会議室)
一方、IPE第十遊撃艦隊が攻撃を受けた少し後。日本の国防を担う国防軍、その組織のトップたる幕僚監部。それが置かれているのが防衛省地下深くに建設された国防軍統合幕僚監部地下司令部である。
そしてそんな場所の一室にて陸海空宙統合防衛計画会議が行われていた。
「空宙軍をメインにした防衛計画だな。まぁ、これしか無いだろうな。」
「陸軍も可能な限り協力できるようにしよう。非常時には対空・宙特科部隊を臨時的に宙軍指揮下に置けるように行動を始めよう。」
「海軍も協力しよう。だが、規模から別の軍の指揮下に置くのは難しい。だが、こういう時のために艦載式の戦艦用対宙大口径レールガンの開発や対空砲弾を開発してきたんだ。いざという時には頼りにして欲しいところだ。」
統合幕僚長を除く各軍幕僚長までもが集まった会議であり、異様な緊迫感が流れていたがむしろ現場の最高責任者たちが集まっているからこそスムーズな会議が行われていた。その時だった。
「失礼、します!至急電が・・・はぁ、はぁ・・・入りました!参謀長は・・・いらっしゃいますか!」
「なんだ、騒がしい。少し落ち着いてから来たらどうだ。」
「気が立ってるのはわかるがやめろ、海風海幕長。みっともないぞ・・・それで、なにがあった。誰に用があるのかよく聞こえなかった。一度落ち着いてゆっくり話せ。」
1人の男が息を切らしつつ部屋に飛び込んでくると、少し冷ややかな目を向けつつ冷静に日本国国防軍海上幕僚長海風 湊海幕長がそう告げ、一方で日本国国防軍陸上幕僚長東雲 雅和陸幕長が咎める。
「はっ・・・申し訳、ありません・・・東雲陸幕長殿、海風海幕長殿。八洲宙軍参謀長殿に、至急電です。」
「私にか?」
「はっ、こちらです。内容は・・・我々には開示権限が設定されておりませんでした故、不明です。」
「・・・ふむ。・・・む、秘匿通信コード2-8-0だと?何故今更これが・・・ま、まさか。」
「どうかしたか、八洲くん。」
男からデータパットを受け取った男・・・日本国宙間幕僚監部・参謀のトップ、八洲 遼宙軍参謀長がデータのセキュリティを解除していくと彼の顔が驚愕の表情に染まっていく。それを見た宇津野 弘樹宙幕長が聞くと、八洲は手を小さく震わせつつも会議室に響くように声をはりあげる。
「2件通信が入っており、そして・・・2つ非常事態が起こっています。1つは・・・エイリアンとの交渉が決裂し、戦争状態に入った模様です。IPE第十遊撃艦隊の国防軍所属艦より救援要請が入りました!」
「嘘だろ・・・国連からはなにも来てないのか!?」
「そんなもの確認してない。くそっ、秘密主義者の役人どもめ!」
「待て待て、冗談じゃないぞ!」
「八洲くん、本当なんだろうな?」
「はい。この方は嘘を付く方ではありません。」
八洲の声に一気に会議室がざわめき始め、どうするべきか、こうするべきだとあちらこちらで話し出す。
しかし、次の一言で場は凍りつくこととなる。
「その言い方、差出人は誰だ。派遣したのは君と認識のない艦長の、それに旧式巡洋艦だったはずだ。なぜそんなに信頼を置いている。」
「それが、もう一つの非常事態です。・・・この秘匿コードを使えるのは・・・そして、この艦は・・・」
八洲は1つ息を呑んだあと、即座に吐き出す。
「日本国防宇宙軍所属宇宙巡洋艦、阿賀野型3番艦・矢矧!艦長は東雲葵二等宙佐です!」
その声に、幕僚監部の者たちの視線が一気に東雲陸幕長に集まる。しかし、その一方で東雲陸幕長、海風海幕長、航空幕僚長の大空 翔空幕長、宇津野宙幕長の四人の視線は八洲に集まっていた。
「・・・そんなばかな!本当なんだろうな!?」
「なぜそんなことが起きたのですか?先の統合幕僚監部の会議にて天龍型宇宙巡洋艦1番艦”天龍”の出撃を決めたはずですが。」
「八洲くん、冗談だとしたら洒落になっていないぞ。」
「・・・本当です。これを。」
海風海幕長、大空空幕長、宇津野宙幕長の3人にそう聞かれた八洲はデータパットを宇津野宙幕長に渡す。そしてそこには間違いなく矢矧からの通信だという文言があった。
「・・・嘘だろ。・・・くそっ!なぜこんなことに!」
「宙幕長、叫んでる暇はないぞ。戦争状態に入った以上、さっさと手を打たねば。」
宇津野宙幕長が拳を机に打ち付けると、東雲陸幕長が冷たいと感じるほどの声で言い放つ。
「東雲陸幕長、貴方の息子が前線にいるのですよ!?なぜそんなに落ち着いて・・・」
「だからこそ!落ち着いているのだ。」
東雲陸幕長の感情を露わにした叫びが響くと会議室に氷が落とされた水のような冷たい空気が流れる。
しばらくは場の全員が凍りついていたが宇津野宙幕長が突然祈るような姿勢を見せた後に、降ろしていた頭を上げる。
「陸幕長・・・すみません。仕事を果たしましょう。」
「それでいい。有事の際には各幕僚長権限で直轄の各軍を動かせる。国会内閣の事後承認は必要だが・・・宣戦されて動かんわけにもいかん。さっさとやるぞ。いざという時には私も首を共に括ろう。」
「・・・はっ、承知しました。直ちに横須賀で即応状態にて待機させていた宙軍第一艦隊を出撃させます。・・・宙幕長権限で命じる!直ちに即応待機中の山南司令率いる第一主力艦隊並びに即応待機中の富士第122航宙戦略打撃戦隊、第174打撃戦隊は出撃!IPE第十遊撃艦隊を救援せよ!我々は司令室に移動する!」
その宇津野宙幕長の指示が飛ぶと同時に宙間幕僚監部の人間が一斉に動き出す。その一方で各軍幕僚長が東雲陸幕長の元に集まる。
やがてほとんどの幕僚監部の人間が去り、会議室に残った人が各幕僚長と、彼らと親しい幕僚監部の一部の人間のみとなると東雲陸幕長が俯き、その前で組んだ腕が小さく震えだす。
「陸幕長・・・」
「・・・すまない。最悪の事態を考えると・・・な。」
「大丈夫ですよ、東雲陸幕長。葵くんは・・・あの地獄を生き抜いた、いや、我々の手で捨て駒にされて生き抜いた数少ない1人なんです。・・・必ず、帰ってきます。」
「そう、だな・・・よし、そこの君。広島からこっちに呼び寄せていた者達と・・・第一独立混成連隊の例の者達を呼んできてくれ・・・頼んだ。」
そう指示を出しつつも、東雲陸幕長の手の震えが止まることはなかった。
side.N/A(アメリカ合衆国宇宙巡洋艦アストレア艦橋)
時は戻り、最前線。交渉の中、突如エイリアンに宣戦布告されたアストレア艦橋は大混乱に陥っていた。
「エイリアン、通信途絶!」
「エイリアンシップより高エネルギー反応!」
「・・・司令!指示を!」
そして、宣戦布告を真正面から受け止めた・・・いや、受け止めきれなかった艦隊司令、ジェームズ・スミス大佐の頭は真っ白になっていた。
「司令!指揮を!」
「・・・そ、総員戦闘配置!反撃用意!」
「エイリアンのエネルギー弾、直撃コース!」
「か、回避しろ!」
「最大戦速!回避行動!艦底スラスタ全開!」
「反撃しろ!エネルギー弾を撃て!」
「射程外です!」
「牽制でいい!撃て!」
混乱した艦橋にスミス大佐の指示が響くが、エイリアンの艦隊から放たれた光線は、狂いなくアストレアへと突き進んできていた。
「だ、駄目です!直撃します!」
「回避間に合いません!」
「シールドは!?」
「今からでは展開が間に合いませんっ!」
「だ、だめだ・・・たすけっ」
「Shit!・・・合衆国、万歳!」
各所からの叫びが聞こえる中スミス大佐が目を閉じた、次の瞬間。
アストレアの艦橋に一寸の狂いなく突き刺さった光の奔流が艦橋とその中にいた人間を1人残らず溶かし尽くす。
そして奔流が収まる頃にはアストレア艦橋は一切の痕跡を残さず溶け消え、刹那の後に艦橋を失ったアストレア艦体も誘爆を起こし、核融合機関による小さな核爆発とともに灰燼と化すのだった・・・
side.日本国防宇宙軍・東雲 葵
くそっ・・・何が起こった・・・
頭が痛い、目の前が真っ暗だ。だが、声は出る、か?
「ぐっ・・・ゲホッ、ゲホッ・・・各員、被害状況を、報告・・・!」
・・・よし、呼吸器系は問題無し。若干ぼやけてるが視界も戻ってきた。
・・・だが、状況は芳しくないな。
見えた景色は一部砂嵐の走るホログラムスクリーンと、各機材の上に倒れ込んだ艦橋要員の皆。
だが、僕の声で皆も起きたらしい。秋島くんや東くんは頭を抱えていたがなんとか起き上がってくれる。・・・怪我は、なさそうか。ならいいんだが・・・
「うっ・・・武装システムには異常ないです。攻撃は可能。」
「機関、航行システム共に異常ないようです。戦闘機動はまだいけます。」
「いってて・・・艦長、なんとか艦体は無事ですしシールドは持ちました。ですが艦体前方のシールドコイルの6割がトビました。すぐに交換に移りますわ。」
「・・・レーダー、問題無し。通信、異常なし。全システム復旧完了。ホログラムスクリーン、再展開・・・よし。」
「皆、生きていたようで、なによりだ!・・・エイリアン、いや敵艦の状態と本艦隊の状況を知らせろ!」
静かではあるが、僕の後ろで山室くんも立ち上がって定位置についている。だが、不安なのはホログラム越しに見える外が・・・恐らくさっきまで味方だったスペースデブリに塗れている。
「敵艦、こちらを観察するように行動中。どうやら様子見中の模様。こちらが沈黙したためかと。」
「IPE第十遊撃艦隊は・・・壊滅状態です。ログを見るに第一分艦隊はル・トリオンファン、トライバルを除き轟沈もしくは爆沈。第二分艦隊も直撃を受けたと思われる長春がこちらもログを見るに7秒前に大破轟沈。各艦生存者なし。本艦始め、直撃を免れた艦は助かったようです。」
となるとスミス大佐も死んだのか・・・くそっ、現場で臨機応変に動けるよう、実戦経験さえ手に入れば頼りになる指揮官になれたかもしれんが・・・
いや、それどころじゃない。さっさと指揮を継承しなければな。・・・ったく、なにもかもあの時に似ている。なんでこんなことばっかり起こるのやら・・・
「・・・やられたな。反撃準備を進めるぞ。戦闘機動用意!だが、まだ動くな。シールド展開して相手が攻撃してくるか修理終了まで待機だ。・・・東くん、相手にバレると困る。相手に通信をキャッチされない古臭い予備通信機の出番だ。近距離モールス無線用意。」
「了解、内容を。」
「発・艦隊臨時旗艦矢矧。宛・IPE第十遊撃艦隊残存各艦。旗艦アストレア轟沈に伴い艦隊を再編、反撃を開始する。各艦、まだ動くな。敵艦が攻撃を開始する、もしくはこちらの攻撃指示で一斉攻撃を開始する。各艦それまでシールドを展開し、修理に全力を尽くせ。」
「了解、送信開始。・・・完了。・・・各艦より返信確認。問題無し。」
よし、これで時間は稼げる。これが傍受されたらいっかんの終わりだろうが・・・まぁ、相手さんがこんな古臭い通信機積んでないことを祈るしか無い。そして、根本的解決には至っていない。・・・今からIPE第十遊撃艦隊の残存艦6隻で未知のエイリアン6隻を相手しないといけないのか。
中々厳しい状況だが・・・打破しなければ生きて帰れない。やるしかないだろうな。
「すぐに軽くでも戦闘計画を立てるぞ。東くん、宙域マップを。」
「了解。」
さて・・・10年近くぶりの作戦立案といきますかね。
side.N/A(日本国防衛省国防軍幕僚監部・作戦会議室)
矢矧艦橋で作戦立案が始められ、国連議会では宣戦布告が通達され、今後の方針を決める緊急会議が国連IPEにて行われる一方で、日本国の幕僚監部会議室では異様な空気が流れていた。
長机を囲むように、まだ若いが一尉以上の階級章を身に着ける者達が席につき、長机の端には東雲陸幕長が座り、エイリアン発見からこれまでに起きた事の顛末を語っていた。
「・・・と、いうわけだ。既に救援艦隊はワープ準備中だが・・・」
「どういうわけなのさ!幕僚監部のせいでおにいがまた捨て駒にされたってことでしょ!?」
「・・・司令、いえ陸幕長。我々の戦いはあの作戦で終わったはずです。隊長を息子としたというのに未だに我々、いえ隊長のことを捨て駒として見ておいでですか。」
東雲陸幕長の話が終わると、一等宙尉の階級章を付けた赤色混じりのショートの髪をした少女が机を叩きながら立ち上がり、三等陸佐の階級章を付け腕の装備ベルトに数本の小型ナイフを差す青年が冷ややかに言う。
「・・・流石に庇いきれませんよ、陸幕長殿。むつ・・・失礼、東雲一尉に深瀬三佐、それだけじゃない。ここに集まってる人間は葵に借りがある上に深い縁をもってるやつばかりだ。また葵が捨て石同然の任務に放り出されて”はいそうですか”と納得できる面々じゃないのは重々承知でしょう?」
「・・・無論だ、桐生三佐。」
そして、眉間にしわを寄せて腕を組み、怒りの表情を隠しきれていない男・・・桐生 圭三等陸佐が東雲陸幕長を見つつ言うと東雲陸幕長が頷き返す。
「・・・先も言ったが、東雲二佐・・・いや、ここではいいか・・・葵が出撃する予定など無かった。この状況自体ありえないのだ。」
「・・・それはわかってるよ、さっきも聞いた。で、結局なにをすればいいの?もうボクたちをどう使うか、考えてるんでしょ?」
東雲陸幕長が、その歴戦の国防軍人としての顔に似合わない、どこか苦しげに聞こえる声を紡ぐが、一等宙尉の階級章を付けた黄色混じりのツインテールの少女が冷たく言うと東雲陸幕長は頷く。
「あぁ・・・ここにいるものに報復をお願いしたい。」
「・・・なるほど、確かに人選は完璧ですね。大企業のネットやサーバやらを潰せるようなハッカーも、レンジャー以上の戦闘技能を持つ、化物染みた人間もいる。部下は使わないほうがいいんですよね?」
「うむ、任務内容が内容だからな。ここにある人間だけで遂行してくれ。各員に任務を伝える。」
東雲陸幕長がそう言うと、ここにいる者のうち3人の手元に指令書が書かれたデータパットを滑らせる。
「東雲皐月一等宙尉、西園寺詩織一等陸尉、桐生 渚一等陸尉、君たちはハッカーとして裏工作をした連中を突き止めろ。」
そう言い終わると今度は先の3人以外の人達の手元にデータパットを滑らせる。
「東雲睦月一等宙尉、深瀬 昴三等陸佐、葉川柚希一等陸尉、桜 結一等陸尉、南宮涼人一等陸尉、桐生 圭三等陸佐、君たちはハッカーの仕事が終わり次第、何者であろうと裏切り者を逮捕、抵抗され逮捕が不可能なら排除せよ。誰を殺してもいいように手は回しておく。」
東雲陸幕長は指示を終えると立ち上がり、集まった全員を見回した後に口を開く。
「皆、裏切り者には鉄槌を下してやれ。誰に喧嘩を売ったのか、それを教えてやれ!」
その言葉に座っていた全員が立ち上がり、東雲陸幕長に敬礼を返す。そんな彼らの目には静かだが激しい炎が宿っていた・・・
side.日本国防宇宙軍・東雲 葵
さて、と・・・
だーめだこりゃ。作戦を立てて確実に、と行きたい所だったけど3分悩んでなにも思いつかない。向こうがどう動くかも、周辺に使えそうなものも中々無いしな・・・
やっぱり宇宙と陸じゃ違いすぎて話になんないな。
「・・・ちなみに東くん、敵艦の状況は?」
「少しずつ地球方向へ離れつつも、未だこちらを睨んできています。・・・相手はなにを考えているのでしょうか?」
「わからないねぇ・・・だが、止まっていても助かる保証はない・・・相手を倒せるなら、戦闘に発展するのが確定的なら先手必勝、なんとしてでも先制点をとりたいところだ。・・・なんだが」
そう、相手からの攻撃が確定なら先手を取れば多少有利になる。これは宇宙戦でも変わらないだろう。だがもし、相手がこちらが死んでると誤認し戦闘とならないなら・・・
「もし、相手が撃沈したと誤認し立ち去るなら援軍を呼んで待機、追撃して数を頼みに殲滅するか、一旦相手が撤退するなら一時的とはいえ追い払えるからそれはそれで良い・・・というわけですね。」
「そうだね。犠牲は減らしたいし、僕もこんなところで死ぬつもりもない。・・・さてさて、どうしたもんかな。」
うーむ・・・予想より状況判断が難しい。下手に動けば全滅しかねん。でもなぁ、相手が僕たちのことを大破して戦闘能力喪失、実質撃沈と判断とかならこっちとしては都合がいいんだけど・・・相手の顔が見えないと全くわからない。まぁ見えてもわからない奴はいたが・・・
山室くんと話しつつ、そんなことを思っているとホログラムスクリーンの一点が一瞬眩く光る。この光はシールドを集中展開した時の光か!?
「報告!」
「駆逐艦トライバルのシールドが暴発した模様。」
「あの感じ、多分エネルギーを流し込みすぎましたかな・・・大方、機関が故障でもしてたんでしょう。」
てことは修理で事故ったか。・・・くそっ、仕方ないとはいえ中々厄介な・・・しかも、これをエイリアンが見逃すとは思えない。
「・・・バレたかな、これは。」
「そのようです。敵艦、戦闘態勢。こちらに突っ込んできます。先の攻撃から考えて敵射程まで40秒。」
やっぱり敵艦はこっちを撃沈か戦闘能力喪失と誤認してたか?とはいえ、こうなってはしまっては・・・もう賽は投げられたんだ、やるしかない。
「各艦とのリアルタイム通信回線開け!対艦戦闘用意!戦闘機動始め!機関回せ!」
「了解、通信接続・・・よし。そちらに回します。」
「了解。対艦戦闘用意、主砲、副砲、魚雷、対空砲、全火器システムオールグリーン。やれます!」
「了解!各種推進システムの制限解除!」
「あいよ!機関、全力運転!ですがシールドコイルの交換が終わっとりませんわ。航海長、被弾は可能な限り避けるようにな!」
「了解です、機関長!」
各科長が自分の仕事を始める一方で、艦長席のモニタに東くんが各艦との通信をつないでくれる。
トライバル艦長のミッチェル大尉の顔が真っ青になってるが・・・彼の心境は複雑だろうが・・・それでも申し訳ないが気にしてる暇がない。
「こちら東雲。皆、状況はわかってるね?砲撃戦は不利だ、機動戦闘を行う。各艦、各個に分散し攻撃。連動システムは全て切断して戦闘する。フレンドリーファイアと衝突に注意してくれ。作戦もなにもないが・・・やるしかない。各艦戦闘開始!」
「敵射程まで10秒。敵艦よりエネルギー反応。」
「よし、永山くん。操艦は任せる。敵弾を全て回避してみせてくれ、それとできるだけ距離を詰めて欲しい。秋島くん、主砲射程に入り次第主砲は照準、対空兵装は自由射撃を許可する。」
「了解!・・・やれるだけやってみます!」
「了解。CIC、対空兵装自由射撃!」
「よし、最大戦速を出せ!高速機動戦闘始めっ!」
「ヨーソロー!最大せんそーく!」
その永山くんの声とともに矢矧が一気に加速して敵艦隊に近づいていく。艦長席モニタに接続しっぱなしにしてもらってるレーダーを見ると少し遅れつつもIPE第十遊撃艦隊の各艦もついてきてくれているようだ。
「敵弾来ます。」
「面舵で回避、接近しつつ同航戦に近い状態に持ち込んでくれ。近接砲雷撃戦でかたをつける。秋島くん、左舷砲撃戦よーい。」
「了解!おもーかーじ!」
「主砲、左舷へ旋回・・・光学弾、射程に入った!照準よし!」
「自由射撃!撃ち方始め!」
「うちーかたーはじめー!」
そして今度は秋島くんの声とともにホログラム越しに見える矢矧の第1砲塔、第2砲塔が旋回の後に50口径203mm3連装砲が一斉に88式光学弾・・・わかりやすく言うなら光線を放つ。
周りにエイリアンからの攻撃が飛び抜けていき若干心臓に悪いが・・・細かくスラスタを使って絶妙な回避機動を続けてる永山くんを信じるだけだ。
そして矢矧の放った光線はたしかにエイリアンの船を撃ち抜き・・・まて、撃ち抜いたか?
「88式光学弾全弾命中!・・・されど、こ、効果なし!」
予想はしてたがやはり・・・ならば!
「シールドで相殺されたか・・・主砲次弾装填!雷撃戦よーい!」
「了解。CICへ、雷撃戦ッ、よーい!」
『こちらCIC、了解しました!雷撃戦、よーい!敵先頭艦に照準、補正よし、ロックよし、誘導システムよし!対艦ミサイル装填確認、射撃用意よし!』
「雷撃戦始め!撃て!」
「雷撃始め!全発射管、撃ち尽くせ!」
『了解、全発射管うちーかたーはじめ!』
そのCICから聞こえる号令とともに、今度は潜水艦のように艦体に埋め込まれた魚雷・・・魚雷とは名ばかりで実際は宇宙用の対艦ミサイルだが・・・発射管と、甲板に2基だけ装備された5連装魚雷発射器から次々とバックブラストの爆煙が排煙されつつ魚雷が発射されていく。
『発射成功・・・誘導開始、弾着まで1分!』
「主砲装填よし!射撃します!」
そして一瞬直進した後に誘導システムの指示に従いスラスタで軌道を変えつつ艦速をゆうに超える雷速で航行しはじめる魚雷と、また敵シールドに相殺されている88式光学弾を見つつ、矢矧後方にある程度の艦列を組みつつ砲撃を加えるアヴローラ、Z7、リベッチオ、ル・トリオンファン、トライバルをちらと見ると、そのタイミングでリベッチオに1発敵弾が掠り、シールドが攻撃を相殺した光と爆炎が瞬く。そしてみるみる速度が低下し艦列から落伍していき、通信のモニタ越しに見えていた艦橋も砂嵐が走り、見えづらくなる・・・が、どうやら轟沈は免れたらしい。すぐにマイクを入れつつ手に取る。
「リベッチオ!被害状況を報告しろ!」
『・・・ぐっ、こちらリベッチオ。被弾により左舷デッキが貫通されました!被害甚大です、酸素漏洩ならびに電装系故障が発生し、戦闘継続不能!』
くそっ、思ったよりまずいな・・・掠っただけでそれとは、駆逐艦のシールドと装甲では耐えきれないってことか。
「離脱はできるか?」
『機関と推進系のほとんどは無事なので、なんとか・・・泣き言を言うな!復旧急げ!』
「・・・離脱を許可する。ただちに宙域から離脱せよ!」
『・・・了解!地球でまた会いましょう!』
マスダーナ大尉がそう言うと即座にリベッチオが反転して戦闘宙域から離脱する航路を取る。・・・どうやらエイリアンも戦闘中に追撃する愚策はとらないらしい。
・・・だが、あの損傷状況で無事に帰れるか・・・。
いや、人の心配してる場合じゃないな。永山くんのお陰で敵の攻撃を喰らわずに敵に着実に近づいているが・・・その分危険が増える。だが、もう少し近づけば88式光学弾だけでなく徹甲弾が実用的に使える範囲に入る。エネルギー弾が駄目でも、実弾なら、もしかしたら・・・
「敵艦、副砲射程に入った!」
「副砲の自由射撃を許可する。それと、そろそろ実弾もまともに当たる頃だろう。主砲弾種を88式光学弾から74式噴式徹甲弾へ。」
「了解。主砲弾種換装、オートローダーを切り替え。3発射撃後に弾種換装されます。CIC、副砲射撃開始。撃ち方始め!」
『こちらCIC、了解!副砲射撃開始!うちーかたーはじめー!』
「ミサイル弾着まで1分前・・・いえ、反応ロスト。直前で対空火器にて迎撃された模様。」
「流石にそう簡単に当たってはくれないか・・・」
中々、厳しいな・・・。今のところ、こちらの光学弾による砲撃は効果なし、そして雷撃は不発・・・シールドの特性的に74式に託すしかないが・・・
「主砲弾、切り替えよし!」
「撃ぇ!」
その指示と共に秋島くんがトリガーを引くと203mm砲の砲身の先が加速用スラスタで照らされつつ、20cm徹甲弾が3連装3基から9発一斉射される。
「主砲装填、弾着まで秒読み・・・」
「敵艦の攻撃、トライバルに命中の模様。」
「なっ、トライバル!状況知らせ!」
秋島くんの秒読みを遮るように東くんが静かに告げる。まずいぞ、駆逐艦では・・・!
『こちらトライバル!損害軽微!機関に軽微な損傷が・・・ですが、なんとか復旧は』
ミッチェル大尉の報告が唐突に途絶え、画面が砂嵐に包まれる・・・まさか。
そう思い後ろを見るとトライバルの速度が少しずつ落ちていき、艦体から次々と花火が上がるように爆炎が上がり始め、数刻の内に爆散する。
「トライバル、爆沈・・・艦外のガイガーカウンター反応増大、放射線量が異常値。機関誘爆の模様。」
「くそっ・・・秋島くん、74式徹甲弾はどうだ。」
「・・・現在敵艦に向けて飛翔中。弾着まで10秒、うわぁ!?」
秋島くんに飛翔している徹甲弾の様子を聞いた、と思ったら矢矧が大きく揺れる。この感じは1発食らったか!
「すみません、回避失敗!1発被弾!」
「回避行動継続!被害知らせ!」
「シールドコイル破損、左舷シールドコイルが8割は破損し耐久が83%低下。掠っただけみたいですが・・・もう1発も持ちませんな。それに左舷前方は全滅ですわ。」
嘘だろ?先に攻撃を貰ってたとはいえ修理を進めてほぼ全快だったっていうのに・・・それに駆逐艦のシールドならともかく、こっちは最新式の巡洋艦だぞ。シールドコイルも最新式だっていうのに・・・
「・・・ぐ、弾着、今!」
その秋島くんの声が聞こえると、衝撃のためか若干砂嵐の走るスクリーン越しに見える敵艦が一瞬光る。
なにが起こった・・・?
「敵艦に4発直撃確認!」
「・・・敵艦に直撃の模様、敵艦に貫通痕あり。」
これは・・・狙い通りにいったか?
「敵艦、速力低下。」
「敵艦の艦体に貫通痕らしきものを確認!炎上中の模様!」
東くんと秋島くんが報告するのを聞いていると、光った敵艦がこの距離でもわかるレベルで失速していき、突然爆散する。
「・・・て、敵艦、撃沈しました!」
「よしっ、僕たちでもやれる。引き続き攻撃しよう、主砲射撃用意!」
「了解!再装填、よし。照準変更、敵2番艦を照準!」
秋島くんが主砲操作を続行するのを見ていると、山室くんが口を開く。
「狙い通り、という顔ですね?」
「あぁ、シールドの原理が一緒という条件付きだが、上手くいった。後で詳しく話してもいいけど、僕らの使ってるシールドは物理弾にあまり効果がない。・・・なら、いくら向こうが高い技術力があっても、というわけだ。」
「なるほど。」
「さぁ、反撃の時間だ。主砲、射撃よーい!」
「射撃用意よし!照準、よし!」
「撃て!」
再び矢矧の砲口が火を吹く。
そして致命の一撃は流星の如く尾を引きつつ、敵艦へ向かっていく。
ー砲撃戦は、まだ始まったばかり。