第1話(全7話)
「くしゅん!」
少女の部屋にくしゃみが木霊した。
煌めく朝日が白いカーテンを貫いて部屋に差し込んでいる。
朝だ。季節は初夏。もういい加減にシーツに汗がにじんでくる頃だ。
トントン。
扉を叩く音がする。
こんなことをするのは誰だ? 部屋の主である弓良ゆらは訝しんだ。といっても、思い当たる人物は一人しかいない。父親だ。
少女は大きな声で、扉越しの父親に声をかけた。
「入るな~!」
「わかった~!」
すぐに父親の返事が聞こえた。……と思ったら、部屋の扉が開けられた。
なんということだ! 言ってることとやってることが全く違う!
「さいってー!」
そんな父親に軽く腹を立てたゆらは、枕を乱暴につかむと、彼に投げつけた。
父親は軽くそれを受け止めた。
なんてことはない。彼らの家では、よくある光景だ。
「ゆら、起きなさい。もう時間を過ぎているよ」
「え? うそ!?」
今から寝るところなのに!? あのやろ~! と悪態をつく弓良ゆら。
少女は現状に頭を抱えている。
父親はそんな娘の様子に顔を顰めた。
「おい、まさか寝てないのか? あの野郎って? ずっと通話していたのか? 誰と?」
年頃の娘のこととはいえ、悪い虫がつくのを黙って見過ごしてはいられない。鬱陶しがられるとわかっていても、つい追求をしてしまうのが、父親の性だ。
あ、これはまずい。
父親の悪い癖が始まったことを予感したゆらは、慌てて彼を押し退けると、居間に向かおうとする。
べちん! ごちん!
寝不足でふらふらの頭ではうまく物事が進まないようだ。
ゆらは、そんな間抜けな音を立てながら、たいして広くもない廊下をジグザグに通り抜けていった。