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エピソード1

 この物語は、高校2年生の山本翔平が、退屈な日常から突然の大きな出来事に直面し、心を揺さぶられる一日を描いています。歴史の授業中に抱く日常の疑問や、同級生・早川麻由への淡い恋心。そして父の突然の訃報と、予期せぬ遺産相続の展開――。翔平の感情や戸惑いを通して、日常の一瞬が劇的に変わる瞬間と、予測できない人生の不思議さを感じ取ってください。

 退屈で、長い授業だった。翔平は、二階の窓から、校庭を眺めていた。そこでは、体育の授業が行われていて、準備体操をしている風景が見られた。なんで、高校2年に、歴史なんか勉強しないと行けないのだろう?いったい、歴史を学んで、なんの得になるのだろうと考えていた。黒板には、安土桃山時代の文化について、講義がされていた。長い・・いったい、いつまでやるつもりだ。教師の顔をぼんやりみつつ、翔平は、右に顔を転回し、右隣の机の早川麻由を見ていた。麻由はいつも周りを明るくする笑顔を持つクラスの人気者だった。

 「麻由がこのクラスにいなかったら、絶対、この学校には来ていない。授業は、無駄だ・・」と声が出そうになったが、なんとか、我慢した。それでも、やっと、授業終了のチャイムが鳴り、やっと、退屈な授業から解放された。

 麻由は、女友達とたわいもないおしゃべりをしていた。麻由の周りには、誰かしらの視線が絡み合っていた。野球部の小林、サッカー部の鈴木、それに、生徒会長で学業優秀な白幡も、麻由を見ていた。麻由は、そんなことは、知りもせず、マリアのような顔で笑い、翔平もその笑顔のおかげで、華やいだ気持ちになった。「今日、告白する!俺が、麻由を射止めるんだ。」と、心の中で密かに作戦を練っていると、学年主任の原子が、急に、教室に入ってきた。

 「山本翔平はいるか?」原子の声は、心なしか甲高い声であった。翔平は、めんどくさそうに「ハイ!」と、手を上げると、原子は、「山本か?急いで、職員室へ来い。」と、肩を叩かれ、二人は、職員室へ移動した。原子は、翔平を引き連れ、職員室の応接間に通してくれた。原子は、一息吐き、翔平へ「翔平、いいか、落ち着いてきけよ。今、警察から連絡があって、お前のお父さん、北海道で落盤事故に逢い、残念ながら、死亡したそうだ。なんて言えば良いか。翔平、しっかりしろ、困ったことがあったら、俺が相談に乗る。」と、ひどく緊張した声で、翔平に話した。翔平は、職員室の窓から、外を眺め、「ああ、そうですか・・」と答えた。原子は、焦ったように、「翔平、今日はもう良い。気を落とすな、今日は早く帰れ。明日、気をつけて学校へ来い。」と、翔平を追い出すように、職員室から玄関口へと、誘導した。翔平は、廊下で原子と別れると、玄関口で、下駄箱でスニーカーに履き替えた。一瞬そばに、麻由が通るのが見えたが、女友達と一緒だったし、話かけるのも、告白するのもやめることにした。だいたい、「今日、親父が死んだのですが、俺と付き合ってください。」と、言っても、まず、うまくいかないことは明白だ。

 仕方なく、方円寺高校の校門を抜け、交差点を曲がり、大きな川の川岸を自宅方向へ歩いていった。その日は、晴天で、初夏の太陽が空高く上がり、少し歩いていただけで、翔平は汗ばんでいた。不思議と親父が亡くなったことに対して、悲しみの感情は湧かなかった。こんなものなのかと翔平は思った。母は、翔平が3歳のときに病死した。父親は、体の大きい、豪快な方だった。翔平は、長身でスリムであったので、親子にはとても見えない感じであった。そんな父は、年に何回か、自宅に戻り、まとまった生活費を置いていった。父の仕事は、昔で言えば、山師の様なものだった。日本全国の金とか、銀とか、はてまたウランとかの貴重な金属を探し、商社へ採掘権を渡すという、少々、うさんくさい仕事であった。翔平は、一人っ子で、兄弟はなく、大きな家に、一人で住んでいた。朝にお手伝いさんが来て、食事、洗濯をやってくれていた。父は、翔平に家業を継げとも言わず、ただ、学校にはしっかり行けと言われていた。他の様々な世話は、弁護士の竹蔵がいろいろとやってくれた。この竹蔵は、昔からの父の友達らしいが、詳しいことはよくわからない。

 弓状の吊り橋を渡り、もう少しで、家に着くときに、不意に、翔平のスマホが待ってましたとばかり着信音がなった。スマホの画面を見ると、発信者は、竹蔵であった。「なんだ、竹蔵か?」と、翔平が無造作に話すと、「翔ちゃんですか、話は聞きましたか?お父様がお亡くなりになられたこと・・ご愁傷様でした。」と、また、長々と話すので、翔平が「今日は、何?竹蔵?」と、ぶっきらぼうに言うと、竹蔵が、「今日は、是非、顧問弁護士として、お話がありまして・・」と、いうと、黒いアルファードが翔平の目の前に走ってきて、電動ドアがビーンと開く、なんと、竹蔵がでてきた・・なんか、お化けでも見たなと思っていると、竹蔵が、車へ入れと手招くものだから、仕方なく、翔平はアルファードへ乗り込み、ふっくらとした座席に腰をかけた。竹蔵は、翔平が幼いときから、翔平を、陰に日向に支えていた。昭和初期のような背広に、ちょび髭を生やし、戦前の人物を彷彿させた。

 その竹蔵が、事務的に淡々と、車の中で、翔平へ説明をはじめた。前席の運転手とは、ガラス扉で、会話は遮断されて声は聞こえないようになっていた。室内灯が竹蔵の顔を照らし、脂ぎった竹蔵の顔は、夏のお化け屋敷のお化けにも見えた。竹蔵が続ける、「翔平様、この度は、お父上の訃報に接し、心からお悔やみ申し上げます。ご愁傷様でした。つきましては、事業継続の為に、翔平様には、お屋敷、事業資金1億5千万の相続をお願いししたいと思っております。」、翔平は、無言で頷いた。そして、「相続につきましては、翔平様のほかに、もう一人、法定相続人がおりますことを申し伝えます。」、翔平は「え?もう一人?俺って、一人っ子だったはず・・」と、言うと、竹蔵は、「もう一人おります。」と、素っ気なく言う。翔平は、「誰?誰?聞いたことがないな?」と、怪訝そうにたずねると、「翔平様が、知っておられる方です。」というので、すかさず「隠し子でもいたの?」と、問いただすと?竹蔵は、「翔平様がよく知っておられる方です。」と、じらすので、「竹蔵だれだ!もう一人の相続人は?」と、叫ぶと、竹蔵は、にやりとした顔になり、「早川麻由様でございます。」と、ゆっくりいった。翔平は、車の座席から、転げ落ちそうになり、「早川麻由?麻由って?」、「はい、その早川麻由様でございます。」と、言い終わると、翔平は、本当に座席から、転げ落ちていた。


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