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砂竜使いナージファの養女  作者: 平本りこ
黒の章

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2 族長会合①


「状況は(かんば)しくない」


 かつ、かつ、と硬質な音が響く。陰気の権化(ごんげ)のような表情で、例の如く小瓶を机に打ち付けるのは、紫の族長ニダールである。


 中身は毒か薬かわからぬが、なぜ今も小瓶を持ち歩いているのだろう。病がちな奥方は連れて来ていないようだから、ニダール自身も何か持病があるのかもしれない。


 青の集落、集会場として利用される、ひと際巨大な天幕内。長机と椅子が並べられ、砂竜族というより、帝都のお役人が遠征の際に利用する天幕のような、洗練された内観となっている。


 慣れぬ椅子に腰掛けて、アイシャは息を潜め耳を傾ける。


「帝都を覆う瘴気(しょうき)は風が吹いても薄まることはなく、むしろ時と共に濃度を増しているようだ。都は今やもぬけの殻。このままでは荒廃し、遷都(せんと)を余儀なくされるだろう」


 ニダールの言葉に、青の族長クトゥーブが顎を撫でる。


「避難民が周囲の町の人口を圧迫しているね。一番哀れなのは、打ち捨てられた診療所や孤児院だ。もちろん、ほとんどが適切に誘導され避難を終えたが、中には世話をするべき医師や寮母らに見捨てられ、行く当てもない人々もいる。ひとまず、うちの集落で世話してるけど、ずっとこのままにはできないし」

「瘴気の増殖も気がかりです」


 本物の族長らを前に、名代であるサクールは怖気づくこともなく、口を挟む。注目を集めても、その堂々たる振舞いは変わらない。サクールは言葉を続ける。


「瘴気の出どころは宮殿の泉。全ての聖地に繋がる水脈の源泉です。今はまだ、水は汚染されていないようですが、いつか聖地から瘴気が溢れ出すことがあれば、その時は帝都のみならず、砂漠全体が人の住めない地域となります」


 クトゥーブが頷く。


「ああ、そうだね。聖地だけならまだしも、水が循環することで、砂漠に(とど)まらず世界中の水が瘴気を帯びるようになったらと考えると……ぞっとするよ」


 吐き捨てられた言葉が胸を刺す。全ての根源たる慈悲深き水が、生き物に害をなすものになり果ててしまったら。どんな種族も生きてはいられまい。太古の昔、竜族が天変地異で絶滅したように、人間がこの大地の支配権を手放す時が訪れる。


 アイシャは人知れず腕を(さす)り、粟立つ肌を抑えようと試みるが、一向に改善しなかった。


 やがて、隣で腕を組み黙り込んでいたファイサルが、重い口を開く。


「だけど気になることがある」

「気になること?」


 首を傾けたサクールに、ファイサルは険しい視線を向けた。


「アイシャの話では、集落を焼いたのは、姉ちゃんの砂竜だった。アジュルと同じ方法で妙な力を手に入れて、炎を吐いて赤の集落全てを燃やし尽くした」

「残念だけど、きっとそれは真実だ」


 サクールは言葉を選ぶような間を空けてから、言った。


「あの晩、村から出ていた白き砂竜はいなかった。青や紫の砂竜も、目撃情報はない。となればきっと、火柱と同時に響いた竜の咆哮(ほうこう)は、赤き砂竜のもの。仲間内に裏切り者がいて、その結果故郷が全滅した可能性があるだなんて、あの時のファイサルとアイシャの耳に入れる訳にはいかなかった。父上はそう言っていた」


 ファイサルは、そうか、と呟いてから、雑念を振り払うように頭を振る。


「とにかく、妙だ。あの時の砂竜が炎を操り、人間を焼き尽くすことができたのなら、どうして黒い天竜は泉に籠り、ひたすら地味な霧を吐き出しているんだ」

「力が不完全、ということはないのだろうか。小娘が言うことには、聖地を巡礼して、腕輪に力を蓄える必要があったのだろう。赤と白の聖地は、()()はしていない」


 ニダールの言葉に促されるように、一同の視線は机の上、噛み噛みトビネズミさんの隣に安置された金色の腕輪に集う。


「水が、水神マージと繋がることで、願いを叶えるという言い伝えは周知のこと。世界中の水には神聖な力が宿るが、天竜の泉や四氏族の聖地の水は段違い。さらに、小娘の話では皇家の血液にも、強き聖なる力が宿る。水の力は単体ではさほど強大ではないが、幾重にも重なり合うことで、願いと共鳴して大きな奇跡を起こすのだ。天竜の泉が生み出した腕輪が、力を蓄積する媒介となっていたが、しかし」


 巡礼が未完だったがために、アジュルは半端な覚醒をしたのではなかろうか。


 だがこの推論には、クトゥーブが反駁(はんばく)する。


「いや、それはない。アイシャの腕輪が光り、あの竜が覚醒して火を吹いたのをこの目で見たんだ。正式な巡礼は不要なのかもしれない。行くだけで良いんじゃないかな。ほら、赤の聖地には竜生(りゅうせい)の儀で行っただろうし、白の聖地に関してはすぐ側に住んでいただろう。腕輪が水の力を吸い込むのだとしたら、別に俺達が祭壇の前で歌おうが歌うまいが、大差ないと思うけどね」

「ではなぜ」


 束の間、天幕内を沈黙が支配した。やがて口を開いたのはファイサルだ。


「もしかしたらアジュルは、迷ってるんじゃねえか?」

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