第2話 『裸の王様』 ③
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「何しとるんですー?」
それの捨て台詞を防ぐかのように、今度は警官姿の男の低い声が、周囲から反響する。自転車でここまで訪れたのか、背後には茶色の線が出来上がっていた。
この地には意外にも人が多くいるのか、そんな感慨を持った男だったが、それ以上に老婆の酷く長い溜息に意識を持っていかれる。
「はあああ……糞タイミングの糞中年が」
「え、私なんかやっちゃいました?」
なるほど、この中年警官を日頃相手にしているからこそ、老婆は男への当たりが強かったのか――と、普通ならそう気付くであろう場面で、男は勘づくことさえしない。
つまるところ、この男と中年は奇遇にも内面的によく似ている。
「コイツから逃げおおせる所やったんやワシは」
「その言い方、あんまり自分に対して使わないっすよ。いつまで役者気分なんすか」
「……あああああ! ったくよおお!」
ついにしびれを切らした老婆が、正気で発狂する。
その行動に同時に身を引くのは、男と中年だった。そして同時に、目を見開く。
「なんだ、アンタ、少し怖いぞ」
「そうですよ! 半裸男と叫ぶ老婆……ナニコレ事案ですか? 通報もんですか? まぁ、ここにはほとんど人居ないし、私が警官なのでその必要もないですけど、ね!」
「死、ね!」
ド直球、それこそ男の無礼さを超える勢いぐらいの豪速球。それを捌くことなぞ男二人組にはできやしない。代わりに、無意識に躱しはするが――、
「冗談ひどいなぁ、曽根子さん。なんすか、苛ついてんすか?」
「おかげさまでな! しかし、ここまでくると阿保らしさなんぞ、もはや無い。一周回って、なんとやらってやつだよ。ホンマにダルイで、アンタら」
「で、君。ここで何してるのかな?」
「おっけ、殺す」
甲子園――いや、寂れた高校のグラウンド上でも許されない、試合放棄という中年の立ち回りに、老婆は球場から立ち去る選択を取る。阿修羅の顔は三度目からだ。
男はその老婆の応対と、それに対する中年の無関心具合に少々戸惑いが生じたが、それよりも重要な事柄を頭に据え、その言葉に続く。
「ミナ――ソイツが大変な状況なんだ。だから俺は助けるため――」
「なになに、警察官としては見過ごせないような事柄じゃないか。女の子を助ける為に生まれたような存在だからね。任せな、この高橋警視総監様に」
「助かるよ」
「今の盛大なフリなんだけどなぁ……そんだけ余裕ないってことか」
ボケをかました中年は、あっけなくスルーされ傷心気味。そんなことが言ってられない状況なのだと理解していても、やはり辛い。
――ってことで、切り替えて美奈さんとやらの顔を拝ませてもらいますか
そんなことを中年が考えた矢先だった。
「――――」
「あれ、もしかして美……ヒエッ」
「どうした、おっさん」
男の背後に――鬼か、悪魔か。とりあえず化け物らしき人影がゆったりとこちらへ近づいてきてる。それを見た中年は、言葉を紡げない。
文字通り、殺されてしまうだろう。命が危ういのだ。
「曽根子さん、なんかヤバい人もう一人増えたんすけど」
「…………」
「なんか喋ってくださいよ!」
死んだふり、じゃないはずだ。いやこの冗談は洒落にはならないのだが。
――ああそっか、私が怒らせたんだ
そんな思考に中年が必死になり、男の方とはいうと未だに天然っぷりを際限なく発揮中でしたとさ、これにて話は終幕――、
「おしまい、おしまい……ってそんな事で済む状況じゃないでしょ! あれを解決しろって? 冗談じゃない! 君、私は一旦帰らせてもらうことにするよ。できれば金輪際、私には関わらないでくれると助かるよ。それじゃ!」
「おい! アンタまで俺から逃げるのか!」
老婆でダメなら、この中年なら――と、そう思っていたというのに、全てが打ち砕かれる。
自分には運が無いのか、そもそも世界の殆どがこの結末に落ち着くのか。考えるのさえ辛抱と呼べるくらいに、現実は残酷であった。
「くそっ」
「……ねぇ」
「――ミナ?」
男が彼女の存在にようやく気付き、背後を振り返る――その瞬間だった。
「いっで」
「何してるの! 勝手にどっか行っちゃダメでしょ!」
鬼の金棒が、男の頭上へと振り下ろされたのは。
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