第1話 『秒針は折れた』 ①
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――不特定人物銃撃事件 三日前
あの悪夢のような日から、一体どれだけの年月を過ごしたのだろう。その瞬間に秒針は折れ、時の流れというものが私は分からなくなってしまった。
あれをやって、これをこなして――その繰り返し。実際のとこは人間の一生も超えてはいないだろうが、自責の念がそれを千年へと感じさせる。
あの日、私――中野美奈は全てを奪うことで、全てを失った。あろうことか、生涯を与えてくれた人を、この手で殺めたのだ。ただ厳密な話をするのならば、現在は昏睡状態に陥っている状況で、目を覚ます保証はない、というだけ。で、済ませられる訳がない。
――私は極悪人の殺人犯だ
人が誰かを殺すとき、そこには必ず動機というものが付きまとって、必ず理由があるらしい。その人が嫌いだから、好きだから、何処にも行って欲しくないから、うるさいから、自分が快楽を覚えるから、みたいな感じで。
それなしに起きる事象のほとんどは、事件ではなく事故として処理され、そもそも『殺した』とはならないし、案外、多くの人は責め立てたりしない。
ただ、私にそんな理屈は無かった。それは別に事故だった訳でも無く、殺すと考えて彼を殺していたのだ。でも、やはり理由は無かった。
『殺す』という動詞がいつの間にか先行していて、気づいた時には彼が血に塗れていて――どうやら、私は人間では無かったらしい。
しかし、訳が分からなかった。何故、この手は焼けるほどに熱くて、何故、傍らに居た少女が絶望に染まっていて、何故、周囲が阿鼻叫喚に包まれていて、
――なんでなの
答えを教えてくれるはずの彼は、眼前で今か、今か、と空へ飛び立とうとしていた。
だから、私なりに頑張ったはずで、己の白髪が血に染まろうとも、必死でその羽をもがこうとし、彼の世界からの離脱を防いだ。精一杯だった。それしか私にはできない。
その結果、悪運が私は良かったというのか、頑張りを認めてくれたとでもいうのか、彼は折衷案を取ることを選択してくれた。
羽を失くした鳥は空を自由にできないのと同じように、彼もまた、意識の自由を失くした。おかげで命を注いでやらなければ、世界との枷を外し、空へと簡単に身を投げ出してしまう。そのため、今になっても彼への奉仕を欠かさないでいる。
かといって、これが贖罪となる、なんていう安直な発想を私は持ち合わせてはいない。あと、一億年こうしていても、罪が完全に晴れることなどないのだろう。彼を殺したということはそういうことなのだ。
だから、私は一生涯を極悪人として生きていく――と、理解はしていても『安直な発想』と言ってしまった手前、きまりが悪くはあるが、心の奥底では多少の褒美があってもいいのでは、とも考えてしまう。例えば、
――彼が『おはよう』と一言笑ってみせてくれる
とか、そんなこと考えていても意味なんてないというのに。
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