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第53話:敵の正体

 ソラナを危機から救ったあと、僕たちは森の中で抱きしめ合っていた。

 このままこの時間が永遠に続けば良いと思っていたんだけれど、僕の魔法が炸裂した気配を感じてロルスさんが見に来てくれたのだ。


 僕がかなり遠くから敵を倒したことを知るとロルスさんは大きなため息をついて項垂れた。


「ケイダさんのことは初めて見た時から規格外だと思っていましたが、その認識すら甘かったようです。あんなところからここまで気づかれずに攻撃できるのだとしたらほとんど無敵ではないですか⋯⋯。常に防御を張っていれば対処できるのかもしれませんが、生半可なものでは効果がないでしょうし、力を込めすぎると持続できません」


 小声だけどはっきりと聞き取れる発音でロルスさんは話している。ちょっと早口だ。


 街で分かれた時は元気いっぱいな様子だったけれど、今は少しくたびれたようにも見える。

 捜索の指揮を執るのはかなり大変だったんじゃないかなぁと思う。

 A級冒険者とはいえ、僕と歳もあまり変わらないように見えるしね。





「——それで犯人は結局あの商人だったという訳でしょうか」


 ひとりごとか話かけられているのか判別しにくい様子でロルスさんが喋っているのをしばらく聞いていると、今度こそ間違いなく僕宛だと分かる言葉をかけられた。


「そうです。あの丘から様子を伺っていたら大きな天幕があったので調べていたらソラナさんが逃げているのを見つけたんです」


「それはタイミングが良かったですね。というよりケイダさんはこれだけ暗い森の中にいる人をあの距離から見分けることができるんですね⋯⋯」


 ロルスさんの言葉に僕とソラナは頷いた。

 だんだんとロルスさんが僕を呆れたような目で見るようになってきたんだけれど、やっぱりこの力ってかなり強力ですよね?


 僕の力ってどうですか?

 というかもっと褒めてください! って言い出したい気持ちを必死に抑えつけながら僕は説明を続ける。


「あっちの方に天幕があるのですが、そこから出てきた大男も同じように倒しました。『団長』って呼ばれてましたから、盗賊団かなんかのお頭なんですかね?」


「その可能性が高いでしょうね。案内していただけますか?」


「もちろんです!」


 僕たちは天幕のある方向に歩き出した。

 僕の右側にはロルスさんがいて、反対側には僕の腕をしがみつくように抱くソラナがいる。


「ソラナさんはやはり街であいつらに捕らえられたんですよね?」


 僕がそう聞くとソラナはゆっくり頷いて、か細い声で話し始めた。


「はい、そうです⋯⋯。買い物をしていたら誰かにつけられている気配がしたので万が一に備えてリュックを小道に隠してから逃げました。ですが、次第に追い詰められてしまい、気づいた時には馬車の中にいたんです」


「そうでしたか⋯⋯。少し衣服は乱れているようにも思いますが、あまり乱暴はされていないようですね?」


 今度はロルスさんが気の毒そうにソラナに聞いた。

 さっきからロルスさんのいろんな表情を見ているけれど、どんな顔してもこの人は様になるなぁ。


「気を失っていたわりには怪我もしていませんし、身体にも異常はありません⋯⋯」


「それは運が良いというか⋯⋯。救出が早かったのも良かったのだと思いますけれど、相手はどんな目的でソラナさんを攫ったんでしょうねぇ」


 ロルスさんは唇に指を当てて考え始めた。

 そんな様子でも夜の森の中をひょいひょいと進むことができるんだからやはり彼は熟練の冒険者なのだろう。

 僕とソラナはちょっともたついている。





 少し歩くと天幕が見えてきた。

 近くにはたくましい馬がいるけれど、こちらを見て怯えた様子だ。

 ロルスさんの覇気に当てられたんだと思うけれど、ほんの少しだけでも僕にビビってくれてると嬉しいね。

 僕ってビビる側しか経験してこなかったから⋯⋯。


 三つの天幕のうち、真ん中に立てられた大きなものの前に団長と呼ばれる男の死体があった。

 僕はそれを指さして「あれが団長です」とロルスさんに言った。

 するとロルスさんは血相を変えて走り出した。


「まさか⋯⋯マスクル・ヴォイド?」


 ロルスさんは仰向けに倒れている死体を起こし、男の顔をまじまじ見ている。

 もしかして知り合いをやってしまいましたか?


「間違いない⋯⋯。この男はロゼンジ帝国第四騎士団の団長マスクル・ヴォイドです。ケイダさん⋯⋯本当にこれをあなたがやったのですか?」


「僕がやりました。も、もしかしてロルスさんのお知り合いですか?」


「いえ、知り合いというほどではありません。ですが遠目に何度も見たことがあるんです。彼は帝国にマスクル有りと呼ばれるほど精強な騎士として有名ですからね」


 ロルスさんから鋭い眼差しを向けられて僕はちょっとたじろいだ。

 帝国っていま僕たちがいるスパーダ王国と争っているんですよね?

 その団長がなんでここにいるんだろう。


 有名な人だと言われてもなんと言ったら良いのか分からない。

 僕の隣にいるソラナもさっきから俯いたまま黙っている。


「マスクルは攻撃力も高いですが、何より防御魔法に優れていて数十人規模の魔法隊の攻撃を一人で防ぐと言われています。そんな彼をケイダさんは打ち破ったんですね⋯⋯」


 思い返すと確かに一瞬で防御魔法を展開していた気がする。

 でも手応えなかったですよ?

 どちらかといえば胸当ての方が固かったようにも思う。

 だけどそんなことは口に出さず、僕はゆっくりと頷いて答えた。


 戦いの記憶を必死に思い出していると、ロルスさんはマスクルの胸当てを外し始めた。

 追い剥ぎでもするんでしょうか。


 不思議がって僕がマジマジと見ているとロルスさんは自分の行動を説明してくれた。


「マスクルの胸当ての裏には彼が命を捧げた帝国の印が刻まれていると言われています。死ぬまでは誰にも見せるつもりはないと言って、部下でさえ手を触れさせなかったそうですよ。それが見られるチャンスなので⋯⋯」


 カチャカチャと音を立てながらロルスさんは金属製の胸当てをマスクルの体から取った。


「倒したのはケイダさんですので、まずはあなたが見てください」


 そう言ってロルスさんは胸当ての裏側をこちらに向けて見せてくれた。

 そこにあったのはソラナの馬車を襲った男たちが着ていたローブについていたのと同じ菱形の印だった。


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