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第32話:命って軽いんだよ

 ソラナから離れて周辺の様子を伺っていたところ変なローブを来た集団がいた。

 その中で一番強そうな奴の足を狙って狙撃すると、なぜか僕は心臓に引き寄せられた。


「もしかして、そういう能力なのかな?」


 リーダーの死体を抱えて奴らが撤退していくのを見ながら僕は神様の言葉を思い出していた。

 神様は確か「見えない距離にいる者の心臓を撃ち抜く力」を僕に与えてくれたと言っていた。


 これまでは遠くの敵を狙撃する力を僕はもらったと思っていたんだけれど、その力は「遠くの敵の心臓」を攻撃するときに最大限発揮されるのかもしれない。


 また、これまで魔物を倒したときに増加していたのとは比較にならないほど多量の魔力が増加したように思う。


 これも心臓を撃ち抜いたことによるボーナスのようなものではないかというような気がしてくる。


 今の所、敵を倒した時の経験値として魔力の増加と魔力操作能力の向上を経験しているんだけれど、これは僕に固有のことなのか普遍的なことなのかは分からない。

 機会があったらソラナに聞いてみても良いかもしれない。


「僕が人を殺したのか⋯⋯」


 奴らが遠くに消えていくのを確認したので僕はセミに戻り、木から降りた。

 そしてソラナの元へゆっくり帰りながら人の命を奪ったことについて頭を巡らせていた。


 人を殺したという手応えが十分にあった。

 増加した魔力はあの男から僕が吸収したもののような気さえしている。


 この能力の物騒なところは、狙撃でありながら結局セミの僕が敵を貫いているというところだ。

 銃殺だったら引き金を引いた感触しか残らないんだろうけれど、僕の場合は人間の体を通過したという感触が今も残っている。


 人によってはそれがトラウマになってしまうのかもしれない。

 だけど僕は大丈夫だった。

 何度か手術をして自分の臓器を見たことがあるし、あの温かみがむしろクセになるような気さえしている。


 人を殺したことに対しても想像以上に思うところがなかった。

 それは僕が魔物に生まれてしまったからかもしれないけれど、僕が根本的には命は軽いものだと思っていることも効いているんじゃないかと思う。


 命は重いとか、命は平等だとかいう言葉がある。

 ある意味ではその言葉は正しいと思うんだけれど、ずっと病院にいる僕にとって命は軽いものだった。


 テレビでは生命力の強そうな人たちが活躍していて、いつもきらめいていた。

 病院では生気の薄い人たちが毎日を消費していて、最近見ないなと思っていたら死んでしまっていたという人もいた。


 この世は弱肉強食、その言葉の正しさを僕は病院で学んだ。

 病気で苦しむ人がいたら助けてあげたいと思う反面で、弱い者はこの世から去っていくという価値観を強く持っている。そんな気がした。


 でもこの考えが危険なことも分かっている。

 だって自分より強い生物がいたら生きることを諦めなきゃいけない訳だし、殺されることに文句言えないもんね。


 やっぱり僕は矛盾した生き物だと哲学的なことを考えるふりをしながら、人化してソラナの方に戻って行った。





「ケイダさん⋯⋯さっきの音って何かあったんですか?」


 元いた場所に僕が近づくとソラナが顔を出し、僕の方に走ってきた。

 かなり心配した顔だ。

 あれだけ大きな音を鳴らしたのだから仕方ないのかもしれない。


「近くに敵がいたので遠距離から攻撃しました。リーダーと思われる男に傷を負わせたので撤退したようですよ。あれがソラナさんを襲った男達だと分かりやすいのですが⋯⋯」


 ソラナにはいくつか情報を伏せて伝えることにした。

 いきなり殺したと言うのは引かれてしまうかもしれないので、今後のソラナの様子を見ながら考えていきたいと思う。

 もちろん僕がセミの姿で潜伏して奴らの情報を得たというのも言う訳にはいかない。


「ローブを着た魔術師みたいな奴らが六人いたんですけれど、そんな格好している奴らって普通じゃないですよね?」


「はい⋯⋯。確かにこの辺りにそういう人たちがいるのは不自然ですが、そんなに怪しかったのですか?」


「そうですね。しばらく様子を見ていましたが、辺りを執拗に捜索していたようですよ。護衛や守護をするにしては探るような様子だったので怪我を負わせて撤退させました」


「⋯⋯ありがとうございます。もしかしたら私を追っている者達かもしれません。そもそもこの辺りにはほとんど人がいませんし、今は冒険者もいないはずなのでこの地にいるだけでも怪しい人になります」


 僕が来たときには少し興奮状態に見えたソラナも話すうちに落ち着いたようだった。

 攻撃を仕掛けたという話をするだけで引かれるかと思ったけれど納得してくれたみたいでよかった。


「遠くから攻撃したという話ですが、ケイダさんはどれだけ離れたところから攻撃できるんですか?」


「具体的には分からないんですけど、体感では一キロくらいですかね。それぐらいなら敵の行動を観察できますし、ある程度精密に攻撃することができます」


「そんなに離れたところから? そんな魔法使いがいるだなんて聞いたことありませんよ!」


 ソラナは感嘆した様子だった。

 それからも僕のことをすごく褒めてくれるので流石に気分が良くなってしまった。

 あとキロとかの単位も通じると分かったので面倒がなくてよかった。


 ひとまずの脅威が去ったということで僕らは再度移動することになった。

 ソラナは革製のリュックを背負っているが、重そうなので僕が持つことになった。


 リュックを背負い直して、さあ出発だとなったとき、僕はふと気になったことをソラナに言ってみた。


「そういえば連中のローブに菱形の刺繍が入っていたんですけれど、そんな模様が最近は流行っているんですか?」


 何気なくソラナの顔を見ると彼女の顔が青ざめ出した。


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