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13.嘘の発案者

 土曜日の授業が終わり、長い1週間が漸く幕を下ろす。

 今週は鈴木さんと挨拶を交わした以外は会話らしい会話もなかった気がする。

 自分自身が望んだ事なのに、その事を考えるとなぜか胸が痛んだ。それと同時に、ふとカラオケの件を思い出した。

 

 モヤモヤした気持ちを追い出す様に軽く頭を振る。こんな事をしている場合ではない、美織を迎えに行かないと……。


「あー、嶺田君ちょっといい?」


 席を立ち上がったタイミングで、鈴木さんに声をかけられた。


「どうかしたか?」

「話したい事があるんだよね。今から大介を迎えに行くから、良かったら保育園まで一緒に行かない?」

「行かない」


 素っ気なく返したせいで、鈴木さんが身を竦めてしまった。


「そこをなんとか……お願いっ!!どうしても(・・・・・)話したい事があるの……」

「…………」

「お願いします!!」

「…………わかった。保育園に向かうまでの間だからな」

 

 告白とでも思ったのだろうか?教室がざわめき出す。

 周りからの視線が気になり、結局押しに負けてしまった。非情になりきれない自分を恨めしく思う。


 話があると言いながら鈴木さんが口を開いたのは校門を出てからだった。ここまでの無言が気まずかった。


「最近、亜依の元気がないの気づいてた?」

「いや、特には……」

「見るからに落ち込んでたの分からなかったの!?」

「…………」


 極力視界に収めない様にしていた。そんな状況だったので聞かれたところで答えようがない。

 『これは難しいかもしれない……』と小さく呟く声が聞こえた。


「それで?話したかったのはそれだけか?」

「そうだよ!!大体何が不満なの!?亜依可愛いじゃん。嶺田君にはくだらないかもしれないけど、亜依にとっては恋愛ってくだらない事なんかじゃない。もう少し言い方ってもんがあるでしょ?」

「またその話か……いい加減にしてくれ」


 先日終わらせたはずの話をまだ引き摺っていたのかと、憂鬱な気持ちになる。


「頭に来たから勝手に話すけど、嶺田君って合格発表の日に痴漢されてる女の子助けたでしょう?」

「…………ああ」


 すっかり忘れていた事を指摘され、一瞬答えに戸惑った。


「その助けられた人が亜依なの。覚えてる?」

「確かに助けはしたが、志岐さんとは正反対の容姿をしていたはずだ。大人しそうなイメージだったが……」

「だ・か・らっ!!引っ込み思案だった亜依が頑張った結果が今のあの子なの」


 過去と今の志岐さんの面影が重ならないのは、顔をしっかりと見ていなかったせいだろう。

 泣きじゃくる女の子にどう対応したらいいか、それしか頭になかったからだ。

 

「隣の席になれたのが嬉しくて、勇気を出して話しかけたんだよ。それにあの自己紹介だってふざけてなんかない。緊張し過ぎて言っちゃったってずっと後悔してる」

「それが俺に何の関係がある?」


 一目惚れではなかったというのは本当だった様だが、それは俺にとってはどうでもいい事だった。


「あーもうっ!!」


 そう言って彼女は鞄から鏡を取り出し俺に向けた。


「ならなんでそんな顔してるのよ。言いたくないなら別にいいけど、もっと上手く誤魔化すか、次の恋に進める様に上手く振ってあげるぐらいしなさいよ」

「…………っ!?ふざけるな!!もう次に進もうとしてるだろうが!!」

「な、な、何の話よそれ!?」


 さっきまでの勢いが削がれたと思えば、とぼけ始める鈴木さんに苛立ちを覚える。

 俺が知らないとでも思っているのだろうか?


「こないだカラオケに行くって話してただろ?盗み聞きするつもりはなかったが聞こえてきたんだよ」

「あー、それね。あれさ、実は嘘なんだよね……」

「は?」


 この嘘の発案者は鈴木さん。

 彼女はこないだの俺の様子から本心では志岐さんと距離を取りたい訳ではないはずだと感じたらしい。

 もう1人いる相談者も同じ見解だったらしく、自分の意見は正しいと判断しこの嘘を思いついたとの事だった。

 志岐さんは乗り気ではなかったが、他の男子と遊びに行くと聞いたら、俺が本心話してくるかもしれないと説得され賭けに出た。

 これが一連の流れの真相だった。


「くだらない……。鈴木さんとそのもう1人の協力者が蒔いた種だろ?俺に責任を押し付けるな」


 鈴木さんに罵声を浴びせながらも、どこか安堵している自分にムカついた。


「そうだよね……本当にごめん。でもさ?これは言い訳になるかもしれないけど嶺田君に全く関係ないとは言えないんだよね……」

「いや、関係ないだろ」

「協力者に、嶺田君の身内が居ても?」


 そんな馬鹿な…と思いつつ、そこで美那さんが思い浮かんだ。

 今までなかった突然の残業……普段は言わない気遣いの言葉……部屋での電話……。

 思い当たる節がありすぎて、額に手を当てる。


「その態度からして思い当たる節があったんだね。想像してる人で間違いないと思うよ」

「悪かった、帰ったらキツく言っておく」

「いや、キツく言わないでいいから。もう一回だけでいいから亜依と話してあげてくれないかな?」

「…………考えてみる」


 俺は即答できず、言葉を濁すのが精一杯だった。


 話がちょうど終わったタイミングで保育園に着いた。

 鈴木さんと一緒にいると、美織が駄々を捏ねそうだと思い時間差で迎えに行く事にする。


 鈴木さんが保育園から出るのを確認し迎えに行くと、大介君より遅かった事に対してご不満なお姫様の姿。

 正解なんて最初から無かった様だ……。

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