D20.侍女長ロリスへの催眠尋問
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ああ、事細やかに艶ごとの一部始終を語るのは野暮なこと。
されとて一切ナイショというのも酷なこと。
侍女長ロリス様とわたくしの閨調教がいかに夢中になれる甘美な一時であったかを端的に申せば、一段落つきはたと時計を見やれば軽く一時間も過ぎていたことで言い表せましょう。
わたくしは切り裂かれてたり脱がされれたり濡れてしまったりで無事な衣類は靴下のみ。
アレサ王女殿下の無知攻めおあずけで欲求不満に悶ていたカラダを、その保護者であるロリス様にたっぷりと責任を取っていただき、忘我の余韻に浸っております。
いやはや、はじめから最後まで、いかに女を攻めればよいか心得のない年上のお姉さんを導いてあげながら立派にわたくしをメス犬調教してていただくのは苦労いたしました。
いろはを知らぬ堅物を手玉に取って戯れる愉悦ときたら、ああ、たまりません。
もちろん、お返しも十分に致しましてございますので、さぞご満足いただけたことでしょう。
ロリス様の、無防備に脱力して隣で仰向けになり、乱れた侍女服を直す暇もなく、興奮しすぎた息をはぁはぁと整えるさまの何とあられもないことか。
もはや冷たいナイフ等という印象はかけらもございません。
遅咲きの白き花でございます。
「なにを、んんっ、おかしい……? こんなの、はじめてなんだから仕方ないじゃないの……」
「おかしくもあり、愛しくもあり。ロリス様のはじめてのお相手を務めさせていただけて光栄です」
「……慣れてるのね。すこし、くやしい気分です」
「えへへへへ」
わたくしは反対側に顔をそむけようとするロリス様を逃すまいと顔を近づけ、キスをせがみます。
ここまでくれば以心伝心というもので、初々しく少々ためらいがちに、ロリス様は接吻をなさってくださいます。
かちっ、と歯と歯が軽く当たってしまう不器用さがまた面白くてなりません。
賢明に求めてくださる様は、誠におぼえたての生娘のようで、ちょっと不思議でなりません。
一体、この方はどういう……。
いざ閨を共にして感じるに、自称三十すぎというにはどこか反応技量も肌艶も若すぎる印象……。
「はっ!」
そうです、そうでした、すっかり忘れておりました。
エロいことに夢中になりすぎて、わたくし、当初の目的を忘れておりました。
黒幕の侍女長ロリスを籠絡して秘密を解き明かせば、この混迷した本件の解決の糸口が見つかるのではというのがそもそも今に至る経緯でした。
ご清聴の皆さまはおぼえていらっしゃいますよね?
ああ、それをすっかりわたくしときたら忘れて調教に没頭して……。
いやぁ、仕方ありませんよね? ね?
だってわたくし悪堕ち洗脳快楽調教おあずけプレイの被害者ですからね。不可抗力でございます。
わんこ服従のポーズで「どうかお慈悲を♪」とおねだりしたって不可抗力なのでございます。
ああ、恐ろしや、恐ろしや。
しかしながら流石に思う存分に楽しんだおかげか、こう、こころなしか“支配する力”の弱まりをおぼえます。せっかくのいぬみみしっぽも消えかかっているような……。
我慢せず、欲望をスッキリと、しっぽりと、ぐっちょりと満たすことで悪の誘惑に打ち勝つ。
我ながら見事な対処療法ではないでしょうか。
ムラっときたらヤる!
これに尽きますね、ええ。
……なに、いいから秘密を聞き出せ? むう、もうすこし余韻に浸りたかったのに。
「時にロリス様、わたくしに秘密を教えていただけませんか?」
わたくしは魅了の魔声を意図して強く働かせ、それこそ催眠術のように強制力を以って問います。
これでもかと快楽と愛欲を注がれて、ロリス様の頑なな心の蕾は今や大輪の花を咲かせております。
恍惚とした表情、虚ろで媚びた眼差し。
もはやロリス様はわたくしの妖しき甘いささやきに疑念を抱くことさえできません。
「……秘密? いい、けれど」
「そうですね、では……」
わたくしは他者を自在に操る昏くおぞましく後ろめたい願望の実現に昂ぶってしまいます。
ああ、いけない事ってどうしてこうやってみたくなるのか。
わたくしは一番に気になっていた秘密を、忘我のロリス様にお聞きいたします。
「夜伽のご経験はこれまでにいかほどで?」
……あ。
失敬、つい自分の興味に素直になりすぎてしまいました。
いやだって、あの初心な不慣れさはいかなることかと気になります。自称三十過ぎとなれば、一度や二度の経験くらい本当はあるのかと。
「……ゼロですが、質問はそれだけですか」
意識が薄弱としているために淡々と答えるロリス様。
正気であれば大変に恥じらい言葉にするか迷ったであろうに、洗脳、すごい。
「質問はまだまだございますとも! そうですね、人に言えない秘密を教えてください!」
だれしもエッチな秘密の十や二十あるものでございます。
ここだけの話、わたくし、じつはまぞひずむの気がありまして……。
え? よく知ってる? いやぁでも初恋や弱点についてはそれこそ秘密のままでお願いしたく。
「……私は、人間ではありません」
「……ん? あれ? もしやエッチな秘密ではない?」
痴的好奇心。
いえ知的好奇心に任せてのエロ質問のつもりが言葉足らずで重大な尋問になってしまうとは。
「私はアレサ様を見守り、お育てするために遣わされた……」
「心の準備が!? 重大な告白をされる心の準備がまだでして!?」
わたくし、大変に焦りました。
皆さん推理小説や物語をご覧になったことがおありにでしょう。
ああいうのを楽しむ時はまずヒントが掲示され、真相の予想を立て、種明かしに至るものです。
わたくし閨事に夢中になりすぎて全然なんにもロリス様の涙の秘密について、予想を立てずに今に至るのです。ああ、なんてことでしょう。
なんにも回答を用意せぬままもうすぐクイズの正解発表に至ることになろうとは。
賢明なる皆さまは予想の合否に一喜一憂できるというのに、ああ、わたくしときたら……。
しかし無情にも、ロリス様の口からは考える暇もなく、告白がなされます。
「ペルセフォネ様の自動人形です」
「……え、あ……や、やっぱり! わたくしの予想通りでございますね! やはりそうでしたか!」
見事に予想的中ですね。不正はなかった。
皆さん、よろしいですね? ナイショですからね?
……ところで、はて、さて、えーと、今、ロリス様はなんとおっしゃいましたかね。
「……ロリス様が、ペルセフォネ様の自動人形!?」
つまり敵側の黒幕が、味方側の元締めの操り人形だったということになってしまいます。
わたくしは謎が謎を呼ぶロリス様の告白に衝撃を受けるのでした。