D19.侍女長ロリス様とふたりっきりで……♪ 2/2
「私を襲おうとしても無駄です」
「ちがいます。あなた様がわたくしを襲うのでございますよ」
甘く囁き、誘惑します。
わたくしのカラダに目を奪われて、息を呑むロリス様。
あぁ、ゾクゾク致します。
以前にも皆さまに申し上げたように、わたくし、こうした仕事熱心なクールビューティーをふしだらに誘惑するのは無性にたまらない困った性癖があるのです。
「襲う? この私が? あいにく、同性に興味なんてこれまで一度も――」
「ああ、アレサ王女殿下は例外ですものね」
ニヤリと笑うわたくし。
ひやりと汗流すロリス様。
どうやら図星もいいところ。彼女の、祭壇に長居して冷えていた肌が色づきます。
「教育係として長年側仕えしていれば、日に日に美しくお育ちになる王女殿下の魔性に常に接することになりますよね? わたくしがたちまち虜になった彼女の魅力を、何年も我慢し続けて今に至るのですよね? けれど立場上、ロリス様は絶対に手出しはできないのですから、その蓄積した欲望たるや並々ならぬものとお察し致します。そしてここに一匹、姫様に似た魅了するメス犬がいる……」
「で、でたらめを……!」
わたくしはそっとロリス様の手を、わたくしの胸元に引き寄せてしまいます。
ふかふかと毛皮を用いた神殿の巫女装束を少し肌蹴けさせれば、わたくしの高鳴る胸の鼓動がロリス様の掌にドクドクと熱く伝わってくることでしょう。
「これは調教ですよ、ロリス様」
「ちょ、調教……」
「なあに、王女殿下のメス犬であるわたくしを、飼い主に逆らえぬよう代わって調教するのです」
いかに大義名分を与えてあげるか。
もし冷静な判断力があれば、ペットにえっちな代理調教だなんて一蹴できるはずですけれど。
ロリス様の口から漏れるのはためらい、とまどい、そして微熱を帯びた吐息でございます。
「目的を、言いなさい……! こんな真似をして、何がしたいの……」
「それを問い質すために、わたくしをお責めになればよいではないですか。ロリス様の調教次第でポロッと吐くかもしれませんよ。無駄と思えば、いつだってやめてよいわけですし」
「ふぅ、ふぅ……! そんな口車になんて……!」
亜麻色の長いサラサラとした長髪、ほどよい化粧に彩られた艷やかな唇、切れ長の目つき。
スレンダーな細身の体躯は侍女の清楚な装いも相まって、子女が護身に携える懐剣のよう。
冷たい刃を彷彿とさせるロリス様のひと睨み。
あぁ、わたくしの誘惑に苦悩する無様さと愛しさはなればこそ際立ちます。
「……おや、もしやロリス様、人を殺めることはためらいもなくできるのに、わたくしを愛でることは怖くてできないのですか? ご経験がとぼしくて自信がないとおっしゃる? くふふっ」
「くっ、いいでしょう、覚悟なさいっ!」
わたくしの小馬鹿にする挑発に、ついにロリス様は冷静さを失ってしまわれます。
わたくしの巫女装束の下からナイフを這わせ、内側から衣服を切り裂いてはわたくしのカラダを露わにさせてゆくのです。
「犬畜生には贅沢な装束を与えてしまいましたね、ケモノはケモノらしく丸裸になりなさい!」
「ひゃっ! ら、乱暴でございます!?」
「不審な素振りを見せたらいつでも喉首を掻っ切ります。主導権を握るのは私ですからね」
「ひゃ、ひゃいっ!」
獣欲ここに極まれり。
ロリス様の、せめてもの強がりでもある握られたナイフの与える恐怖に、わたくしは被虐嗜好をこれでもかと刺激されてしまいます。
いえ、もちろん、本当に刃物で切り刻まれるだなんて不死の鳥だとしても痛いのでごめんです。
けれどああやって暴力をちらつかせることで自分の劣情をごまかそうとする幼稚さは、誘惑して挑発した結果であって望み通りの乱れっぷりに過ぎません。
「ふー……! ふー……っ!」
「それでロリス様、おつぎはどう調教なさるので?」
「か、考えています! 今!」
「ああ、ご経験がないのですから無理からぬこと。では、まずはわたくしに奉仕せよとご命令を♪」
上機嫌のわたくしにおっかなびっくりしつつ、ロリス様は「では奉仕なさい、め、メス犬らしく」とほんの軽い卑猥な言葉さえためらいがちに言葉します。
ああ、この初心さは普段との落差がたまりません。
「かしこまりましてございます、ロリス様」
胴体に騎乗された体勢のままわたくしに自発的に自由になるのは、両腕くらい。
ですからして、ロリス様のナイフを握った右手を引き寄せて、わたくしはこの口と舌で丹念に奉仕して差し上げました。
冷たい刃の背部に舌を這わせ、これから何が待つかをまず予測させるのです。
そうしてゆっくりと丁寧に指先に舌を触れさせ、先端から指の腹、やがて指の股をぺろぺろと舐めて差し上げますれば、たちまちロリス様は繊細な刺激に身震いいたします。
「ゆ、ゆびなんて舐めて、なんの意味が……?」
「おやご存知ない? 女人同士の愛し合うのに一番大切な武器でありますのに。はむっ」
「ぁ、んんっ!」
ロリス様の小指を唇で揉んであげるとあられもない声をこぼします。
「ああ、これからあなた様がわたくしを調教なさる為の大切な指、たっぷり濡らして差し上げねば」
わたくしの甘き言葉は聞く媚薬に等しい。
「きっと楽しゅうございますよ、小生意気なメス犬をこの指で躾けるのは……」
「はぁはぁ……調子に乗って……んっ」
発情した獣のように、快楽への餓えに自ら堕落していくロリス様のなんとお可愛いことか。
いつの間にか、戯れの邪魔だとばかりにナイフをベッドの外に投げ捨ててしまっている始末。
わたくしはたっぷりと指先を舐め清めると、巫女装束の切り刻まれてあられもない柔肌を晒したこの肢体を悩ましげにくねらせ、不敵に微笑んで誘います。
カラダの火照りはわたくし自身もう我慢できかねるところまで達しております。
「さぁ、調教のお時間ですよ」
そうささやけば、ロリス様はいとも容易く理性を捨て去って、この口をお塞ぎになります。
ナイフ捌きに比べれば、ああ、なんと幼く乱暴なキスであることか。
どうやらわたくし、王女殿下の教育係をたっぷり“教育”して差し上げる必要がありそうです。
ああ、甘露、甘露にございます。
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