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C13.白熱! 飢餓のグルメレース! 前編

 飢餓のグルメ。

 そう題された料理対決のルールはシンプルでございます。


 ひとつ、食材は調味料を除いて自力で現地調達すること。

 ふたつ、三名の審査委員の合議で勝敗を決する。

 みっつ、調理道具や設備は万全のものを提供する。なお魔法や権能は使ってもよい。

 よっつ、対戦相手への妨害はダメ。

 いつつ、料理は一皿一品のみ。


 勝負に挑むのはわたくし名誉蛮族にして冥府の使いカラット・アガテール。


 相対するは災いの神々の一柱、飢餓の女神リーモス様。


 せっかちなことに調理と食材集めに使える制限時間たったの一時間にございます。

 吹雪の砦の門戸が開かれて、わたくしとリーモス様はスタート位置につきます。


 エリス様とクレオパトラ様の見守る仲、いよいよ出走開始です。


「がんばれ! カラット! 負けたらこいつらぶっ飛ばして救出するからね!」


「わたくしが負ける前提の作戦を立てないでください! しかも脳筋!」


 クレオパトラ様の応援はありがたいのですが、悲しきかなどうも勝つ見込みがないとのご判断で。

 一方、エリス様はといえば。


「がんばれーい! カラット! 負けたらボク責任を持ってキミを完食するねー!」


「負けたって絶対に食材にはなりませんからね!?」


 こちらもわたくしが負ける前提といいますか、からかって面白いので便乗してきたご様子で。

 ああ、かくも困った応援がありましょうか。


「んじゃーよーい、ドン!」


 景気づけにエリス様の口から吐いた黒炎弾が寒空に打ち上げられ、花火のように炸裂します。

 それを合図にすわっ! わたくしとリーモス様は雪降る街へと駆け出します。


「うるふっふっ! これは飢餓のグルメ! この雪風に閉ざされた街中でどう食材を集める!?」


「そんなの買えばようございましょう!?」


「市場は閉まってるのにかい?」


「ああっ!? この雪のせいで!?」


「じゃあお先に! アデュー!」


 迅速なるかな飢餓の神。

 オオカミタウロスとでも呼ぶべき半人半狼のリーモス様は、雪原を疾駆する夜狼のように四足を跳ねさせて雪中を突っ走って街中へと消えてゆきます。


 わたくしも速さに自信アリといいたいところですがそこは神様、双翼で飛んでるわたくしよりも素早いのだから恐れ入ります。わたくしとて前世は疾風の女神、いざ覚醒すれば負けないはずであろうと想像つきますが、ないものねだりをしても仕方ありません。


 エリス様に『卵の殻』と言われたことも気がかりですしね。


 もしかしてと思い市場にやってきたわたくしが目にしたのは当然、閑散とした有様。まだ開いてる露天や商店はないものかと探してみますが、見つけたものといえば――。


「雪に落ちたるにんじん一本……落とし物でしょうか、こうなれば拝借を」


 にんじん拾ってポーチにひょいっとな。

 ああ、普段ならば道端に落ちた野菜を拾ってみようとは思い……いえ、時々はもったいないので拾ってました。わたくし片田舎の育ちなので洗ってしまえば食べれるだろうの精神でした。


 不足も不足、まだ食材が足りないと焦って考え巡らせますと、ふと思い出したるはミラ商会でございます。あそこなら協力も拒まれず、十分な食料が得られるはず。


 そう考えて急げや急げと羽ばたいておりますと、なんと、不意に足跡発見です。

 この四足、大きさや歩幅からみて十中八九、リーモス様でございます。


 ああ、嫌な胸騒ぎがいたします。

 ぱったぱたと飛んで辿り着いてみれば、なんとミラ商会の建物はとうに荒らされ放題なのです。


「い、今! オオカミの化け物が根こそぎ! 食い物を“引き連れて”ったんだ!」


 商会の店員が指差した先に見えましたるは、驚愕すべき光景でございました。

 玉ねぎやパンに白い翼が生えて、隊列を組んで集団で飛び去っていくではありませんか。


「な、な、なんですかアレは!!」


「オオカミがフライパンをお玉で叩いたんだ! すると店中の食い物が動物みたいに飛んだり跳ねたりして逃げ出しちまったんだよ!」


 略奪こそ飢餓の友。

 災いの神々らしく大小悪事にためらいがないにも程があります。


「や、やられた……!」


 何たる卑劣な妨害工作であることか。

 わたくしはカチンとトサカにきたものの、これはルール違反ではないという事実に気づき、二重に悔しさに地団駄を踏みます。それはもうダンダンと。


 そうです、ルールで禁じられたのは対戦相手への妨害でございます。

 先回りしてミラ商会の食材を根こそぎ奪ったとて、この商会にあった食材の所有権がわたくしにあるわけでもなく、こちらに調達しに来ると告げてもいません。


 食料調達は弱肉強食にして早いもの勝ち。

 リーモス様はもし先回りしていたとしても“直接”は妨害していないのです。


 いえ、わたくしの行動予測を立てて先手を打ったというよりは街で一番大きな商会の建物だから一番目立った襲撃目標だったという可能性も捨てがたい。

 ああ、過ぎたことを考えるより早く食材を集めなくては。


「これが飢餓のグルメ……争奪戦! というか何です、あの権能! 食材を手駒にするとは!」


 侮りがたし飢餓の神。

 まさか食材自ら追従するとは。しかも直接妨害はダメということは奪い返すこともできません。


 幸い、審査員は三名。大量にはいらないのですが、うーん。

 まだ献立の目処も考えつかないというのに、ああ、時間がどうにも足りません。


 ああ、時の神クロノスよ

 願わくば、わたくしにだけ三十分くらい時間を多くお与えください。

 ついでに夏休みの終わりが近いことを嘆く一部の皆さまにもアディショナルタイムを!


 ――なんて願ったところで意味もなく、もう、いよいよ以ってあきらめかけたその時に。

 一連の出来事にヒントはないかと思い返すうちにふと、わたくしは閃いたのでございます。


 唯一無二の、わたくしにしか調達できぬ食材、そして一皿の料理を。


「……いや、まさか、でも、これならば……!」


 逆転の切り札、ここにアリ。

 白熱の料理対決、後編につづく!


毎度お読み頂きありがとうございます。

お楽しみいただけましたらご感想、評価、ブックマーク等ご贔屓のほどよろしくお願い致します。



さて、今回は飢餓の神リーモスについて小話を。

災いの母エリスの子供達の一柱、リーモスは記述が少なくマイナー側の神様です。

とはいえ伝承が無いわけでもなく、リーモスは依頼されてとある人物を呪い、食べても食べても空腹が満たされず全財産を使い果たして娘まで売ってしまう男の話などがございます。


日本の伝承にはひだる神といった悪霊や妖怪の類があり、これも取り憑いたものを強烈な空腹感で動けなくしてしまうのだとか、恐ろしいものです。

食べても食べても満たされないというたぐいの伝承は、他に有名なのはやはり餓鬼でしょう。

餓鬼とは仏教において、生前に贅沢をしすぎたことで死後に餓鬼道に落ちてしまい、飢え苦しみつづけるという教えと戒めです。

転じて、餓鬼は生意気な童を示すガキになり、メスガキだなんて言葉にまで発展しております。この作品におけるメスガキは……あの方でしょうかね。


それら飢餓の伝承を元にしつつ飢餓の神リーモスをかなり独自解釈として当作でははらぺこで飢え苦しみ神ではない、むしろ食を作る者として登場させていただきました。

深夜に飯テロ画像を投げるものあらば、それは飢餓の神リーモスの使いかもしれませんね。

なお原典では男女どちらか定まらない神様なので当作では暫定的に女神とさせていただきました。

オオカミタウロス成分? 筆者の趣味です。

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