表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/90

C01.強襲! ペガサスナイト! 必殺のデルタエンドアタック!

 北風雪風追い風にして疾風の女神もどきカラット・アガテールは飛翔いたします。


 目指すは第一の冥府の財宝!

 と申せども、正確にいえば「冥府の七つの財宝」とは偶然七つ存在するのであって、別に番号づけされていたり、七つ全てを集めたら神々しき竜が願いを叶える、という代物ではございません。


 なんでも、むしろそこが最悪なのです。


 冥府の七つの財宝は、すべて単一で独立して強大なるアイテムなのだそうです。

 莫大な大金はたいて買ったのにそれが単品では無意味なガラクタであっては困りますものねー。


 かくして、わたくしの元冒険者仲間ナルド一行が有するひとつを除く、六つの財宝のそれぞれ異なる所有者について、商取引を仲介したミラ・ボレアス商会から情報をいただいております。


 まだこの街に留まっている可能性がある所有者は二組だけ。

 まずはその二組を迅速にたずねて、この街を去るまでに財宝を回収したいというわけです。


 冠雪山麓都市ボレアポリスで一番の宿泊場所といれば、ボレアス神殿に他なりません。

 宿泊場所と申しましたのは、王侯貴族のような重要人物であれば一般の宿泊場所などに泊まることはなく、統治者の用意したゲストハウスやこうした当地の神殿が寝所に用立てられるのです。


 北風の神ボレアスを祀る神殿でございますね。

 もし観光にやってきたならば一にも二にもボレアス神殿! とりわけ今は冬祭りの後夜祭とあって催事事に賑わっていて近づくごとに飾りつけや楽しげな音楽が聴こえて参ります。

 わーいまぜてまぜてーと近づきますと、すわっ! 警備の手の者がやってくるではないですか。


「そこの蛮族! 止まれ!」


 襲来! ペガサスナイト!

 ぴゅーんと飛んでくるのは神殿を警備する三騎のペガサスナイトでございます。


 優美なる白翼の天馬ペガサスにまたがる女騎兵は見目麗しくも華々しく、たとえ不審者としてだとしてもお声掛けいただけると悪い気がいたしません。ああ、凛々しくて格好ようございます。


 ぶるひひんと前足を高々とあげてやや興奮気味のペガサスをどうどうとおとなしくさせつつ、ペガサスナイトは槍の切っ先を向けて、わたくしを威圧いたします。


「あわわ! 刺さないでください! こんがりおいしい鳥の串焼きになるのはごめんです!」


「はぁ? 何をふざけたことを言ってるのだ貴様!」


 黄鎧のペガサスナイトは血気盛んなご様子。わたくし両手をバンザーイして降参のポーズをしているのに、今にも騎乗突撃してきそうな勢いではありませんか。

 ところでこのペガサスナイト、じつは女騎士にしかなることができない兵種なのでございます。


 空を舞い、優美なる天馬。

 そのじつ天馬たちは凶暴でして、基本的には人間どころか神々にも気を許してくれません。


 元を正せばペガサスはペーガソスという神々と怪物の血を引く神獣でして、その子孫として地上に少数生息する聖獣ペガサスたちは本家本元に劣るにせよ本来人の手にあまる生物といえます。

 とある英雄にこのペーガソスを御すために女神アテナは黄金の馬具を与えます。

 英雄はペガサスを見事に操り活躍するものの、やがて増長した英雄は天にまで登って神々の集会に加わろうとしたので、この不敬を咎められて、天馬から落馬してしまったといわれております。


 こうした経緯もあってか、女神アテナの加護と聖別された馬具なくして天馬たちを乗りこなすことはできないとされています。処女神アテナの加護を与えられ、天馬が懐くのは彼女に通じる処女だけだとか、そうした事情があるそうです。


 わたくしの考えるに、単にペガサスの美女好きのせいという気もしますが……。

 いやーわかります、わかりますともペガサスくん。

 わたくしだって背中に乗っけて飛び回るのならば甘い薫りに身軽な女騎士じゃないとイヤですとも! なにが悲しくて美少女なくておっさんに脇っぱら蹴られて走らされるのですか。


 そうしたわけでペガサスナイトというのは聖獣を操るだけあって軍隊では精鋭中の精鋭です。

 そりゃーもう強いのなんの! それが三騎集えば百の歩兵にも勝ることでしょう。


「この神殿には今! 我らマケドニア高地王国の第一王女が滞在なされている! 貴様のような訳のわからない蛮族を近づけてなるものか! 立ち去れ! いや、殺す!」


「ちょ、せめて事情を!?」


「蛮族相手だ! 問答無用!! ドロシー! ミャ! デルタエンドアタックを仕掛ける!」


 リーダー格の黄色い鎧のペガサスナイトが号令を掛けますと、即座に三騎は包囲陣形を作ります。

 「せっかちだなぁレモニアは!」と青鎧のドロシーは文句を、「やっちゃう!? やっちゃうの!? 本当にやっていいんだよね!?」と赤鎧のミャは困惑を、それぞれ口では異なる見解を示しつつも動作は一貫して流麗に、獲物であるわたくしを狙います。


 ああ、これはまさに必殺の合体攻撃! その前触れ!

 空中での大騒動に地上の人々がなんだなんだと注目しております。

 これがまぁ後夜祭で浮かれてる市民には余興にせよ捕物にせよ、単なる娯楽に見えるのでしょう。


「いいぞ! やれやれ! やっちまえ騎士様!」


「きゃー! ペガサスナイト様ぁ~!」


 絶体絶命、大ピンチ!

 ――等と切実に危機を感じているのはわたくしだけ。


 誰しもが皆、わたくしというちっぽけな蛮族の血が流れるのを楽しみに待っているのです。

 この頬を撫ぜる雪風のように、世間の風のなんと冷たいことか。


 ――ああ。

 ふとした拍子に考えるのです。こうした時、もしわたくしが蛮族として忌み嫌われる種族に生まれていなければ、だれか助けてくれたのだろうかと。


 ――ああ。

 けれどわたくし、だからといって世を儚み、人を恨み、であれば蛮族らしく、嫌われ者らしく暴れてやろう、真っ向から抗ってやろうとも思えないのでございます。


「死ね! 蛮族!!」


 三騎の聖獣乗りは正三角形を描くように一斉に飛翔突撃を行います。


 その威力、絶大。

 その速度、俊敏。

 その殺意、明確。


 逃げ場もなく、味方もなく、わたくしは死を覚悟いたしました。


 ――いや、もう死んでいるのでした。


 死して不死鳥として蘇ったわたくしは、きっとこの必殺の一撃を食らっても死ぬことがない。あるいは死んでも復活できるのでしょう。


 ――でも、そんなことを繰り返してしまっていいのでしょうか。


 不死の鳥であることに甘えて、生き残ろうとすることを軽く見てしまった時、わたしは取り返しのつかない何かを失うのではないでしょうか。

 それが何であるか、今はまだ、わかりかねるのですが――。

 わたくしはここで安易に死ぬまいと考え改めます。


 それに無意味に血祭りにされて拍手喝采のダシにされるだなんて、絶対、痛くて悔しいですよ。


 狙うは三騎一体の必殺撃。

 対する起死回生の一手、それは――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ