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B08.100億円のカモネギ

 さて、ここでクイズです。

 これからわたくしは『冥府の七つの財宝のうち六点の売却額の一割』を手に入れます。

 読者の皆さまにはぜひ以下の五つの選択肢から一つを予想していただきたいと思います。

 見事! 正解なさった方はペルセフォネ様ご提供の冥界ツアー券(片道)をプレゼントしますので、ご希望の方はぜひご応募くださいまし。

 カロン様といっしょにお船で川渡り、冥界産のおいしいフルーツ狩りもございますよ。


 『①:宝箱一個+α』


 『②:宝箱の中に最後に残っていたのは希望だった』


 『③:宝箱五個+α』


 『④:精霊石ガチャ100連分』


 『⑤:残念! 財宝は盗まれてしまった!』


 答えはこのあとすぐ!




 ご清聴の皆さま、まずはゆっくりと目を閉じてご想像ください。


 ここに一枚の銀貨がございます。

 この一帯周辺諸国で用いられる通貨はドラクマといわれる、統一的な貨幣と単位がございます。


 このドラクマ銀貨には女神を表面に象り、裏面にはその象徴となる動物が彫られております。

 銀貨は4ドラクマの価値があり、1ドラクマは労働者一日の稼ぎに等しいとされるのです。


 ここは仮に日本円に換算して、1ドラクマ一万円くらい、4ドラクマ銀貨で四万円としましょう。

 その銀貨8枚分の価値がドラクマ金貨、兵士一ヶ月の給与に値するとされます。


 灼熱のチャレンジ! これができたら百万円! という感覚でして、これができたら金貨三枚! といえばやる気爆発させちゃう憧れの大金というわけでございます。


 ここでひとつ思い出していただきたいのは、冥府の渡し守カロン様とのやりとり。

 あの時、カロン様は『渡し賃は銀貨一枚』とおっしゃっていたのを覚えているでしょうか。

 つまり、カロン様は死者ひとりにつき銀貨一枚、4ドラクマを日々稼いでいるわけです。


 おや、とするとあの時ざっと並んでる死者の数だけでも百余りですから、毎日何人も死者をさばき続けていると銀貨を物凄い量稼いでいらっしゃるのでは……。

 カロン様おひとりの私財ではないとしたら、それが冥府の財源の一つなのでしょうか。


 そしてあの時、わたくしの渡し賃を“カラダで支払った”ということはですね。


『労働者4日分の給与=4ドラクマ=銀貨一枚=1カラット』


 という図式が奇しくも成り立ってしまうわけでございますね。

 え、カラットは宝石の質量単位だからややこしい? おっと、それは失礼いたしました。


 さて、はて。

 わたくしの眼前には今、パトリツィア様がご用意くださった“プレゼント”がございます。


 ――宝箱。

 幻想的な物語には欠かせぬ、夢と幸運と物欲の象徴――。

 その宝箱を開いてみれば、金貨銀貨に宝石がざっくざくと詰め込まれているのでございます。


 ああ、ご想像いただけますでしょうか。

 鷲掴みにしてもボロボロと手からこぼれ落ちてジャラジャラ鳴るほどの金貨銀貨に宝飾品です。

 ピッカピカに光り輝き、目も眩むような信じられない大金でございます。


「宝箱がひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ……」


 その一つでも莫大な財宝である宝箱がなんと五つも運ばれてきたのでございますよ!

 片田舎の辺境育ちの駆け出し冒険者にすぎないわたくしには夢幻のような光景すぎて、さっぱり現実感がありません。大喜びするどころか、なんだか怖くなって参りました。


 だって皆さん、もし急に100億円もらったら逆に不安になりますでしょう?


 金貨ひとつで兵士一人を一ヶ月雇えるとしたら、一万枚の金貨があれば千人の軍隊を一年間雇えるとしましょう。それはもはやこの世界における国家予算級の単位、とても個人の所有できる金額ではないのでございます。


 ――それほどの大金を有するわたくしは、まさにネギ背負ったカモに等しく。

 ――それほどの大金を費やしてもこぞって競り落とされた冥府の七つの財宝とは、何なのか。

 今ここに至って、ようやく、わたくしは事の重大さを痛感したのでございます。


「これ、戦争がはじまるやつでは!?」


 ミラ・ボレアス商会の応接間に響く、わたくしの驚愕と絶叫。

 それを予期していたのか、ミラ会長はくすくすと不敵に笑い、受付嬢のラミア様は周囲に気を張って何かを警戒する仕草をなさっています。


「古今東西、過ぎたる富は不幸を招く。わたしの運命を読み解く“半神の血”がささやきます。この“プレゼント”を受け取った時、貴女には大きな災いの未来が訪れることになる。――ものは相談ですが、カラット・アガテールさん、この資産、我々に預けてくださいませんか?」


「ふえ? あ、預ける……?」


 困惑するわたくしにミラ女史は巧みな言葉で誘惑いたします。

 純粋な善意ではない、何かしらの利己利得があってこその提案だとわかってはいるのです。

 けれど思わず耳を貸さずにはいられないのです。


「安心してください。詐欺ではありませんよ」


 そうしてウサギの魔女は一枚の契約書をわたくしに差し出すのでございます。

 うーさぎ、鳥サギ。

 何みてはねる。まんまる金貨様見てはーねーるー。

毎度お読みいただきありがとうございます。

カラットの出題したクイズ、皆さん結果はどうだったでしょうか?

100億円のカモネギことカラット・アガテールの活躍(?)を今後ともご期待ください。

お楽しみいただけましたら感想、評価(☆)、ブックマークなど応援のほど何卒よろしくおねがいいたします。


今回ここまではめんどくさいので省いていた通貨について触れましたね。

ドラクマは古代ギリシャで流通していた銀貨を参考にさせていただきました。

ただし、そっくりそのまま同じというわけではありません。本来の古代ギリシャ産ドラクマ銀貨は金属をハンマーで叩いて手作りしていたのでカタチに個体差があったり、摩耗したり、一般的にイメージされる綺麗に整った金貨銀貨より古いものです。

本作の世界観ではもうちょっと近代的な、鋳造式の一般的な西欧風ファンタジーっぽい金貨をイメージしていただきたく。

湯水のようにモンスターが金貨をドロップする設定ではないので、カラットがうっかり受領サインした莫大な大金はまさに殺してでもうばいとる、という案件……。

世界を揺るがす大事件の渦中にあることをやっと理解できたカラットの今後やいかに。

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