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異世界転生者は誰だ?  作者: 羽犬塚 三郷
第一幕
4/5

冒険者ギルド3

 猿人とは、霊人族を侮辱する最大限の言葉である。僕たちは霊長類の一員であり、当然お猿さんとは遺伝子的に近い関係にはあるのだけれども。ちなみに魔人族は他の獣の因子をもつ人類で、犬の因子を持つ犬人、猫の因子を持つ猫人など様々である。ちなみに犬の因子を持つ魔人に獣人だの犬人だのというのは差別になるので控えた方がいい。身体的特徴で相手を呼ぶのはやはり失礼なのだ。誰だって本当だったとしても、ちびとかハゲとかおばさんとか言われたら傷つくだろう。ほかにも鱗や甲羅をもつ竜人族や翼をもつ翼人族、鰓やヒレをもつ水人族、見たことはないが全身が植物の森人族など、この世界は多種多様な人種で構成されている。この世界で生きていくには、他者の違いを受け入れ、お互いに調和しあって、おい、この角女いま手を噛もうとしやがったな!躾のなってない畜生め!


「こら」クレアさんが威嚇する少女をけん制すると、ビクッとした反応で頭を引っ込めた。「何やってるの、ちゃんと挨拶なさい」

「うるさい猿女、私の角を返せ。」


 両手で頭を防御しながら、口だけは戦う姿勢を貫いていた。すごいな、これがぼくに欠けていたものかもしれない。


「あら?おかしいわねぇ、あなたの角は折れてないじゃない。」魔女は邪悪な笑みを浮かべながら両手を振り上げた。「見せてみなさいよ、あんたの可愛い角を。」


 そういいながら、魔女は少女に襲い掛かった。激しい罵声と暴力によって抵抗していたが、やはり冒険者業が長いと荒事には慣れているのか少女はすんなりと羽交い絞めにされてしまった。


「離せこの馬鹿!」

「小僧!今のうちにこの女の髪をかき分けてみなさい!速く!」

「いや、かき分けなくてもちらちら見えてるんですけど、何ですかこれ?」


 抵抗するときに振った髪の隙間から黒いコブみたいなものがちらちら見える。タンコブにしては大きすぎるというか、なんか脈打ってるような、こぶしや足を掻い潜りながらよく見ると、細かい皺や浮き出た血管が見える。


「なんか、でかい椎茸が埋まってません?」

「いやああああ!見ないでえええ!」


 なんかちょっと、その抵抗の仕方はちょっと、ちょっとじゃない?


「小僧気になるだろ!ちょっと触ってみな、ぷにぷにして気持ちいいぞ!」

「いやああああ!触らないでえええ!」

「なんかちょっとなんですけど、抵抗の仕方がちょっとなんですけど」

「これは袋角って言って生え変わったばかりの角なのよ!可愛いでしょ!」

「いやああああああああああああ!」

「えぇ……、お姉さんこの子の角折った挙句、そんな辱しめるようなことしてるんですか?」

「いや、角のある魔人族の中でも枝角をもつ魔人族は大体この時期に生え変わるの。今月は始月しがつでしょ。始月の『始』はこの角の生え変わりを意味している。つまりどういうことか説明してみなぁ小娘!」

「いやああああ!離してええええ!」

「え、え、じゃあこの折れた角は何なんですか?今折れたんじゃないんですか?」

「これは折れた角を魔法で引っ付けて来てたのよ、しかもたぶん他人の。枝角は男女差が激しくて、男性の方が立派でかっこいい角を生やすわね。こんな立派な角誰に貰ったのかなぁ!?恋人?それともパパかなぁ!?」

「いやああああ!言わないでええ!」

「本当に反応があれなんですけど」

「あらいやだ。こんな朝早くから女の子辱しめてるの?クレアさん。」


 急に知らない人が隣にいた。綺麗なお人形さんみたいな顔に人形のようなフリフリの服を着ている女性だったが、思わずぎょっとして距離を取ってしまった。この人肌に木目がある。木から人間を掘り起こしたらちょうどこんな感じだろうと思えるその女の人は、よく見ると頭から花が生えていた。花の人を無視して角女と揉みくちゃになっているクレアさんは全く話を聞いている様子はない。僕の驚いた姿をみて、堅そうな木の皮膚は驚くほど柔軟に微笑んだ。


「あら森人族は初めてかしら?初めまして、森林採取狩猟課のダ=ウよ。」

「初めまして、セシルです……。」

「ダが霊人族でいうところの氏でウが名なんだけど、ウさんじゃわかりにくいからダウさんって呼んでね。」

「あぁ……はい、わかりました。」


 ガラス玉のようなきれいな瞳は木の洞のような昏さがあり、目を合わせると心の奥まで見透かされそうで思わず目を逸らしてしまった。その目を逸らした理由すら見透かされてそうで居心地が悪い。本格的に乳繰り合ってる二人を引きはがすことにした。


「もうぼちぼちいいんじゃないですか?クレアさん、泣いてるじゃないですかこの子。」


 ぼくの言葉に納得したのか、体力が限界なのか、息を切らしながらクレアさんは女の子から手を離した。女の子は頭を抱えながら部屋の隅に素早く移動し、丸くなって震えていた。可哀そうに。


「あの、お客さんみたいですけど。」

「ん?あぁ……。」クレアさんはダウさんの顔を見て露骨に嫌そうな顔した。「依頼なら所長に言ってよ。」

「所長?いないんですけど?」


 ダウさんの言葉に所長のイスへ振り返った。確かにどこにもいない。別にじっと見てたわけでもないが、部屋から出て行ったら気づくと思うんだけど。


「あのネズミ男、逃げたわね。」

「これはもうクレアさんが代理で話聞くしかないわねぇ。」

「まあ、一応二人も助っ人がいるから、いつもよりましかしらねぇ。」

「え?まだ依頼言ってないんだけど?」

「え?いつも通りじゃないの?」

「え?いつも通りだけど。」

「なんだぁテメェ?」


 口を挟めないぼくと奥で蹲っている女の子(名前なんだっけ?)はとりあえず仕事にありつけるようだ。確か森林採取狩猟課って言ってたな。初心者の冒険といえば、やはり薬草採取だろうか。なんか思ったより順調な滑り出しじゃないか。


「えー、新人諸君。君たちの初仕事は草刈りです。山道を歩くので、歩きやすい服に着替えてからここに再集合ね。その鎧とかひらひらのローブとか着てこないでねぇ。」





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