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異世界転生者は誰だ?  作者: 羽犬塚 三郷
第一幕
2/5

冒険者ギルド1

 扉をくぐった先には、受付が2人いるだけだった。

 簡易的な机と椅子に若そうな丸顔の女と穏やかな目つきの中年の女性が腰かけ、左手側に階段、右手側には奥の見える簡易的な扉がある。

 若い方の受付は僕の足元から顔までじっくり眺め、おそらくその要件を理解していながら、それでもそれが規則だと言わんばかりに明るい声でこう声をかけてきた。


「いらしゃいませ、ご依頼でしょうか?」

「いえ、その……」


 思わず口ごもる。物語で聞いた冒険者ギルドというのは、酒場みたいなところで屈強な見た目の男たちが酒をかっくらっているのを想像していたが、受付の右側に視線をむけると、おそらくそれぞれの依頼に対応した職員とカウンター、数脚の椅子がきちんと整列している。まいったな、全然イメージと違うぞ。


「あの、新しく冒険者になろうと思ってきたんですけど……」

「はいはい、承知しました。どちらの『か』をご希望です?」

「『か』?」


 かとは?言葉の意味を理解できず、思わず聞き返してしまった。


「えーと、『なにか』を希望されるんです?」

「『なにか』?」


 受付は表情に出さないのか、それとも慣れているのか、苛立った様子を全く見せずに笑顔のまま続けた。


「例えば、探索課とか開拓課とか何をメインにして活動したいかをお教えいただければ、担当のものに引き継ぎます。」


 『か』って課のことか。それにしてもそんなに枝分かれしているとは思わなかった。木の板みたいなやつに依頼書が止められてて、それを眺めながら「お、今日はこれにするか」みたいなのを想像してたのに。


「まずは総合支援課がいいかねぇ」


 僕が口をパクパクさせていると、中年の方の受付が口を挟んだ。


「冒険者業について働きながら勉強できるし、そもそも他の課は認定書が必要なところも多い。特に希望がないならそこがお勧めだよ。」


 中年女性は優しそう声で微笑んだ。薄っすら皺の刻まれた顔はそれでも気品があって美しく、若いころはめちゃくちゃモテたんじゃないだろうかと思われる。僕はその助け舟に、お辞儀のみで対応してしまう。失礼だったろうか。


「それではご案内しますね。」


 丸顔の女性が席を立ち、階段の方を手で指しながら登っていく。僕はその女性の後ろを丸くなりながらついていく。姿が見えなくなる前に年配の女性の方をみて軽く頭をさげる。女性はひらひらと手を振りながら、声を出さずに頑張ってねと口を動かした。若いころモテてただろうことは間違いなさそうだ。


 ポテポテと歩く女性に連れられ階段を上ると、静かな廊下がそこにあり、いくつかの扉にはそこが何であるのかわかるよう石のプレートに部署名が書かれている。探索課、開拓課、害獣駆除課など冒険者の仕事を細かく分けたような部署が並んでいる。ふと廊下の一番奥の部屋から、大きな話し声が聞こえる。嫌な予感がしながらも、丸顔の女性はどの扉にも止まらない。というかこの人、顔だけじゃなくて全体的に丸くて小さいフォルムをしている。小動物みたいな女性だなぁなどと現実逃避をしていると、案の定一番奥の扉で足を止めた。中からは女性の怒鳴り声のようなもの(というかそのもの)が聞こえかなり一方的に話しているように聞こえる。


「失礼しまーす。新規冒険者希望の方一名お連れしました。」


 剣呑な雰囲気の部屋へ無遠慮に女性が入っていく。とんでもない胆力だと感心しながら、開いた扉をそっと覗く。年配の男性の前に三角帽子をかぶった栗色の髪の女性が大股開きで立ち大きな声で話を続けている。


「あのねぇ、ここは学校じゃないのよ。何も知らない新人をばかすかばかすか入れられて教育中に辞められたからって私のせいにされても困るのよ。」

「いやぁ、クレアさんのせいとは言ってないんですよ?ただぁ……新人が辞めていく理由について心当たりがないか聞いてくれって上に言われてぇ……仕方なく、仕方なくですね?」


 年配の男性は眉を八の字に曲げ、怒りを鎮めるようにどうどうと手を振っている。クレアと呼ばれた女性にはそのしぐさは全く効果がなく、ローブがいっぱいいっぱいになるぐらい足を開きなおして言葉を続ける。


「何回も言ってるじゃない、報酬が低い、イメージと違う、そのくせ想像以上に過酷だって、そんな感じの理由よ。仕方がないじゃない、何が悪いって話になるなら冒険譚や英雄譚は全部焚書してもらわないと、あとはうちが出してる謎の劇場も閉館しなさい。あれ見てあこがれる子が多いんだから。」

「んー、そう言われましてもぉ、あれ収益が良くてねぇ、本物の冒険者が演じて会えるってのがやっぱり人気みたいで……。」

「いつからうちは劇団になったわけ?大体、駆除課の連中が人より小さいトカゲを駆除した話をドラゴン討伐したことにしていいわけないでしょ!」

「あれ?詳しいですね……、見に行きました?」

「辞めた新人に聞いたのよ!」

「すみませーん、新人の方一名お連れしましたー!」


 混沌とした会話に無理やり割って入った受付を、魔法使いは忌々しそうに睨んだ。そして、僕の方をちらりと目線を向けて、もう一度年配の男性の方に向きなおる。と思ったらもう一度こちらを見て、眉を寄せながらポカンと口を開けてこちらを見た。その様子に、年配の男性がこちらを魔法使いを避けてこちら覗き込む。同時にこちらからも顔が見え、薄くなった頭皮を確認することができた。


「えーと、ごめんねアンちゃん。もういっかい言ってくれる?」


 言葉とは裏腹に魔法使いは受付に手のひらを向けて伸ばした。


「新人の方一名お連れしました。」


 三度目の宣言に受付は鼻を鳴らす。禿げ頭のおじさんは困ったような、面白がったような顔をしている。どういう感情なんだそれは。


「えーっと、僕ちゃん?」魔法使いはようやく空きっぱなしの口を動かした。「僕ちゃんでいいかしら?それとも坊ちゃん?」


 魔法使いの言葉にすこしムッとしてしまう。まるで世間知らずの小僧が来たかのような反応だ。


「僕はセシルです。セシル・コートス、冒険者になりたくてここに来ました。」


 僕の言葉に今度は魔法使いが眉を八の字にして手を振る。


「いや、あの……、馬鹿にしたいわけじゃないのよ、本当に……。でも顔が見えないし、それに……。」魔法使いは目をぐるぐると動かしながらもごもごと話を続ける。「そのぉ……鎧かっこいいわね、そう、その、劇場で勇者が来てたやつみたい!イケてるわね!」


 禿げ頭の男は、口を大きく開けて魔法使いの方を見る。そのまま手で口を覆いながら僕と魔法使いを交互に見ている。


「さっき、劇場のことを馬鹿に……」

「いやいやいや、馬鹿にしてるわけじゃないのよ。ちょーーっとオーバーな表現とか、事実を少し脚色したような話をしちゃうと……ね?悪影響なんじゃないかなぁっておばさん思うわけよ。」


 おばさん……というほど年を取っているようには見えないが、確かに自分より一回り以上は年上だと思う。魔法使いは空中に漂う言葉を探すように、不定期に腕を動かしているが何も掴むことはできていなさそうだった。


「僕は気にしていません」我ながらよくわからない嘘をついた。「それで、ギルドに参加してもよいのでしょうか?」

「もちろん、大歓迎よ!ギルドはいつでも手が足りていないからね。ただそのぉ……」腕を動かすのを辞めて今度は指を動かすことにしたらしい。「私の指示することをちゃんと聞いてくれる?」

「当然ですよ、なんでも従います」

「そう!そうなのね!」魔法使いは急に眼を輝かせる。「そしたらね、その鎧は……」

「お話し中ごめんなさいね。新規冒険者希望の方一名お連れしました。」


 下にいたもう一人の受付が空きっぱなしのドアをノックし、部屋にいた者は全員そちらを向いた。品の良い中年の女性の隣には、豪華な装飾のローブを着た女の子が立っていた。信じられないぐらいネジくれ曲がったいかにも凄い魔法が打てそうな杖を持ち、その一部がなんと頭を貫通していた。


「あの、杖が頭に刺さってますよ」


 僕がそう言うと、全員が僕を信じられないものを見るような目で見た。禿げ頭の男は再度口に手を当てた。直後、頭部に衝撃を受けてよろめいた。赤面した女の子が杖で殴りかかってきたらしい。衝撃は軽かったが、体が言うことを聞かず、後ろ向きに倒れた。豪華な装飾をあしらったフルプレートの鎧で転ぶと全身を鉄の塊で殴られたような衝撃が走り、意識が遠退くのを感じた。

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