二十六話
「きゃあああああ」
どこかの令嬢の悲鳴が聞こえる
「ラムサス様、何かあったのでしょうか?」
一緒に踊っていた令嬢がそう尋ねる
俺は一旦踊りを中断し、声が聞こえてきた方向を見てみると
貴族の者たちがみんな空を見上げている
俺も釣られて上を向く
そこには女性を抱えた男の姿があった
そして次の瞬間、その男の背後から火柱が立つ
その炎の柱は徐々に大きくなりその大きさは10mくらいになる
その光景を見た会場にいる貴族達はパニックに陥った
皆、口々に叫びながら逃げ惑う
「そうだアリアは!?」
俺は周りを探すがいない
どこに行ったんだ!? その時、爆発音とともに煙が上がる
そちらの方角に視線を向けると爆発によって貴族達が倒れたいた
その中には、先程まで一緒に踊っていた令嬢達もいた……
俺は空を仰ぎながら叫ぶ
「貴様!何者だ!何故このようなことをする!?」
すると男はこちらに気付いたようで、ゆっくりとこちらを向く
「これはこれは魔導帝国第一王子のラムサス王子!
どうです?私の誕生日サプライズは楽しんで頂けるかな?」
そう言い、ニタリと笑うその者はリガル・バレン
バレン国の国王その人だった
リガル・バレンが放った魔法により会場にいた貴族たちは倒れ
その中には、ラムサス王子の婚約者候補である令嬢たちも含まれていた
そして俺の視線の先には、女性を抱えて宙に浮いているバレン国国王がいる
俺は抱えられている女性の衣装を見て
驚きのあまり言葉を発することが出来なかった
あのドレスあれは間違いない!アリア!?なぜ彼女が!?
それになんだ?あの巨大な炎は!? どうしてこんなことになったんだ!?
いや待てよ
確かバレン国は、最近周辺諸国と戦争をしていると聞いたが、まさか……
そう思っていると バレンの国王が語り始めた
「ふはははははは! 驚いたか?これが我らが力を証明するためのショーだ!
魔術などというくだらないものはこの世から消え去るべきなのだ!
魔法こそがこの世を支配するに相応しい力なのだ!
貴様らの作った魔術のせいで本来力を持つ資格のない人間たちが
力を手に入れ我が物顔で他国を侵略する
そんなことあってはならないのだ!!
だから私は証明する!!
私達がもつこの魔法こそが世界を制するということを!!
我々の考えた最強の魔法でこの世界を恐怖で支配することを!!」
「ふざけるな!『ファイアーボール!』」
そう言いながら俺は火の玉を放つ
だがリガル王はそれをひらりとかわす
「血気盛んで何も考えず行動する!
このお嬢さんに当たってもいいかい?」
そう言ってアリアを盾にする
今度はリガル・バレンが攻撃を開始した
彼の手から放たれた炎の矢が、俺の方に向かってくる
俺は咄嵯に避けようとしたが間に合わず炎の矢が目前までやってくる……
ことはなかった……
すべて執事のセバスが拳一つで打ち消したのだ
「坊ちゃま、お怪我はないですかな?」
そういいながら俺に手を差し伸べてくるセバス
俺は差し出された手を握り立ち上がる
「セバス、俺のことはいいアリアを救うことは出来ないのか?」
俺はそう言ったが セバスは首を横に振る
「坊ちゃま、いくら私でも空の上のアリアお嬢様を救うのは難しいでしょう」
俺はその言葉に歯を食いしばる
もう打つ手がないというのか……
「ラムサス王子、我が国……
いえ我々魔法結社【満天の星】はこの世界に宣戦布告をします!」
そう宣言するリガル・バレン
俺にとって宣戦布告などどうでもいい
なんとかしてアリアだけでも助けないと
俺は思考を巡らせながらアリアを見る
彼女は意識を失っているようだ
そんなアリアを見て俺は覚悟を決める
俺は今空を飛ばねばならない!
そうしなければアリアを救うことが出来ない!
俺は全身の魔力を足元に集中して、イメージをする
鳥のように飛ぶ必要なんてないアリアを救うことが出来れば!
アリアが俺を空高く投げ飛ばした……あれは俺の体重を変化させたんだ
ならば俺の全身を魔力で包んで……
俺は地面を思いっきり踏みしめジャンプする
俺の足を中心に衝撃波が走り抜け、地面がひび割れる
その勢いそのまま、魔法をかけて天高く飛び上がる
その光景を見た人々は驚愕の声を上げる
それはそうだ、俺は今空を飛んでいるのだから
俺は上空に飛び上がったらアリアとの練習で覚えた浮遊魔法を使う
会場にはまだ多くの人が残っている
そしてその人達の視線は空を見上げている
俺はアリアを抱えているリガル・バレンに視線を向ける
「な……なんだと!?この偉大な南天の星の力をなぜ貴様が使える!」
彼は驚きの表情を見せる
「貴様のような奴には教えてやる義理はないが、
冥土の土産として特別に教えてやろう
お前が抱えているそのアリアから教わったんだよ」
「なん……だと?こんな小娘に!?」
「ああ、そうだよ、アリアと貴様のおかげで
俺はこの魔法を手に入れることが出来たんだ
だからお礼を言わせて貰うよありがとう」
「きっ、キサマァア!!」
感情的になったのか抱えたアリアを前に出しのど元にナイフを突きつける!
「こいつがどうなってもいいのか!下手な真似したらこいつを殺すぞ!!」
アリアは強く抱きかかえられていて非常に苦しそうだ
なんだかどんどん顔が青くなっていくような……
「うげええええええええええええ」
なんですか!なんですか!なんですか!?
突然お腹を押されて吐いてしまいました!
「誰ですか!私にこんなことをするのは! って、あなたは!?」
私は目の前にいる人物を見て驚きます
だってそこにいたのは、ラムサス王子だったのですから!
「ラムサス王子!?どうしてここに!?」
私が驚いていると後ろから声が聞こえる
「おい!貴様何をしやがる私の腕にこんな気持ち悪いものを吐きやがって!
殺す!殺してやる!! 貴様もだ! 女!貴様は人質だ! 私の言う通りにしろ!
さもないと死ぬことになるぞ!!」
「そんな!待ってください! 話せば分かり合えるはずです!
だから落ち着いて話し合いましょう!」
「何を言いやがる 黙れ女!このナイフが目に入らないのか!
このナイフには毒が塗ってある
少しでも動いたり喋ったりすれば即効性の猛毒で死に至る!
それでもいいのか!?」
私は顔に冷たいものを感じ震え上がります この毒肌に悪そうです!
「ひぃぃぃ!顔を!顔を狙ってます!」
「この女!動くんじゃねぇ!! クソッ!この女のせいだ!
貴様には絶望というものを教えてやる必要があるようだな!
貴様は今から拷問を受ける! 貴様は拷問を受け続けるのだ!!
苦しみという拷問を受けやがれ!
お前のこの綺麗な顔に死の傷をつけてやる!!!」
そう言ってリガル・バレンは私の顔にナイフを突きつける
キィィィィィィィ
ガラスを爪でかいたような音が響き渡る
それもそのはず私は自身に危害が加わるときに
魔法障壁が張られるように常に魔力を全身にコーティングしているのだ
しかし……この男は……顔を、顔を狙いやがった……
「てめぇ!本当にこの子の顔狙いやがったな!」
そういってリガル・バレンに回し蹴りをくらわす
「いつの間にか空飛んでるし、それに腹を圧迫するから
マーライオンして食い物無駄にしたじゃねーか……」
「貴様ぁあああ!」
男が俺に向かって魔法を放つ 火の矢、水の矢、風の刃 俺に向かって攻撃を放ってくる
俺はそれをすべて打ち消す
「そんな……馬鹿な……こんなことがあっていいわけがない……
この偉大な南天の星の力を手に入れた私が負けるなどあり得ない!
ありえない! ありえなああああい!!」
そう叫びながら俺に突っ込んでくるリガル・バレン
俺はそんな彼に対して拳を振るう
「がふぅ」
俺の拳は彼のみぞおちに突き刺さる
俺はそのまま彼の体を抱えて着地し地面に叩きつける
「ぐはっ」
そのまま気絶した彼を拘束する
「終わった……のか?」
「あ、終わりましたよ、ラムサス王子」
「あ……ああ、ならよかった」
「ラムサス王子!大丈夫ですか!?」
「アリア……だよな?」
「はい、アリアですよ?どうかしましたか?
まさか……私の姿に惚れちゃいました? もう……仕方ないですね~」
「ああ、怒ったアリアもやっぱり最高だ……」
「はいぃ!?」
「冗談だ、でも……少し怒っているだろう」
「ま、まあ、それはそうですけど……って、
そんなことはどうでもいいんです!
ラムサス王子!空!飛べるようになったんですね!」
「ああ、そうだよ、アリアのおかげだ」
「そ、そんな、私はただ……教えただけです」
「いいや、アリアがいなかったら
俺は一生空を飛ぶことが出来なかったと思うだから、ありがとう」
「えへへ、お役に立てたようで嬉しいです
ところでなんでそこら中燃えているのですか!?」
「お前が気を失っている間、リガル・バレンが魔法を使ったせいだ!」
「そ、そうなんですか……それで、ケガ人は?」
「何人か酷い火傷を負っているみたいだが、死者はいないようだ」
「そうですか……それではけが人のところへ私を連れてってもらえますか?」
「お前……まさかここであの力を使う気じゃないだろうな!?」
「しかし……このまま放っておくわけにもいかないでしょう?」
「それはそうだが……癒しの力を使うということは……」
「はい、私のことを……
『聖女』と呼ぶかもしれませんが気にしてなんかいられません」
「はぁ……分かった、だが無理だけはするなよ?」
「任せてください」
そう言って私は怪我をした人達のもとへ向かう
そこには可愛らしいドレスが汚れて倒れ込んでいる女性達がいた
「あなた達大丈夫ですか?」
私は彼女達にそう問いかけるが、彼女たちは意識はあるものの
痛みと恐怖のあまり震えているだけでまともに会話が出来る状況ではなかった
「私はあなた達の味方です、安心してください『ヒール』」
そう唱えると、黄金の光が傷を包み込み光と共に傷が消えていった
「これは一体……奇跡?」
一人の女性がそう呟く
「ふぅ……これでもう大丈夫ですよ、他にケガをしている方はいますか?」
「いえ……私達はもう……でも他の方たちは……」
そう言って彼女は指をさす そちらの方を見るとまだ苦しんでいる人たちがいた
「分かりました、すぐに行きます」
そうして私は一人ひとり丁寧に治していった
そしてすべての治療が終わった時……
「聖女様!どうか!私たちをお救いください!お願いします!お慈悲を!」
「聖女様!どうかこの子を助けてあげて下さい!」
「聖女様!どうか!我らを救ってくだされ!」
先ほどまで絶望していた人々が次々と私の元に押し寄せてくる
中には涙を流しながら懇願してくる人も居た
正直この状況には困惑している
気を失った人達は意識を取り戻すと、皆一様に私に助けを求めてきて
その人達の前で魔法を使い続けている
私が思っていた以上にこの力への反応が怖いぃぃぃいい!!
「皆さん落ち着いてください!順番に治癒していきますので!」
「ああ、なんて素晴らしいのでしょうか……!まるで神の御業のようです!」
「これが聖女の力と仰るのですね!」
「なんとお美しい……!」
「ああ、神よ感謝致します」
「この世に生まれて良かった……」
「ああ、この光景を忘れることなど出来ぬであろう」
「まさに奇跡だ」
「なんと尊い……」
「ああ、なんと神々しい……」
「ああ、この光景を目に焼き付けなければ……」
「ああ、この光景を一生忘れない」
いつの間にか私に向かって祈り出す人が大勢出て来た
「み、みなさん!まずはケガ人を先に治させていただきたいのですが!」
「おお!そうでした!申し訳ございません!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「お優しいのですね」
「流石は聖女様!」
「はぁ……疲れました……早く帰って寝たいです……」
そうしてようやく全ての人の治療を終えると、辺りはすっかり暗くなっていた
しかし魔導帝国なのにこんなにマリア教の人がいるのですね……
そんなことを考えているとレオニス国王が近づいてきた
「アリア殿、改めて礼を言う、
貴女がいてくれなかったら我々はどうなっていたことか……
本当に助かった」
「いえ、困っている人は見過ごせませんから」
「そうか、本当に聖女のような方だな……」
「聖女だなんてそんな……」
「いや、謙遜することはないだろう?その力はまさしく神の恩寵である」
「はぁ……」
「さて、話は変わるのだが、
君が聖女であるということはこの場にいるもの全員
秘匿することを誓った安心してもらって構わない」
「はい、私も自分が聖女だと思われたくないのでそれは有難いです」
「うむ、では本題に入ろう、今回の件についてなのだが、
リガル・バレンが自死した」
「父上!リガル・バレンが自殺したのですか!?」
ラムサス王子が声を上げる
「そうだ、リガル・バレンは自ら命を絶った
秘密結社【満天の星】について何一つ情報を出さずに……」
「そ、そうなんですね……」
どうやらあの人は秘密結社の人だったらしい
「あの……それで、これからどうなるんですか?」
「我々はバレン国に事の事情を説明し、場合によっては戦争になるであろう」
「ええ!?」
「大丈夫だ、我が国は大国だ
向こうもそれ相応の対応をしてくるだろうが、
負けることはないだろう」
「アリア嬢には迷惑をかけれぬ 明日にでもご自分の国へ帰るといいだろう」
「はい、そうさせてもらいます……」
「それでは私はこの辺で失礼する」
「はい、お気をつけて」
そう言って私は王様を見送った
「ラムサス王子、私達も屋敷に戻りましょうか?」
「ん?あ、ああ、そうだな……」
あれ……なんか元気がないような……
「どうかなさいましたか……?」
「いや……なんでもない……気にしないでくれ……」
「はぁ……」
まあいいか……
そうして私たちは屋敷に戻った
「お嬢様お帰りなさいませ」
メリッサが部屋で出迎えてくれた
「今日は疲れました……」
「お疲れ様でした、お風呂の準備が出来ております」
「ありがとう」
私はお湯に浸かりながら今日の出来事を振り返る
「まさか誕生日パーティーで戦闘が起るなんて思わなかった……」
でも結果的には誰も死ななくてよかったかな
「しかし治癒魔法を使った後のみんなの反応……なんだか怖かった……
宗教って怖いね……はぁ……とりあえずしばらくは大人しくしてよう……」
そして私はゆっくりと目を閉じるのだった
「お嬢様!お風呂で寝ると風邪をひきますよ!」
「ひゃい!」
「満天の星……まさか古の魔法『浮遊魔法』を使えるまでになっていたとは……」
王レオニスは呟く 先の事件について国中の魔導士を集めて会議が行われていた
もちろん議題は先程の事件のことだ
今回の事件はリガル・バレンによって引き起こされ
我が息子のラムサスとアリア嬢によって解決された
「王よ奴らに空を自在に飛ぶ術があるとすれば、これは非常に厄介なことですぞ」
「わかっている、だが心配はない、息子のラムサスが空に飛ぶ魔法を持っている
あとはあれを魔術にすればよい」
「左様ですな、となると問題は何故奴らが我らに宣戦布告をしたのかということ
バレン国王が奴等の手のものとなるとどこまで奴等の手が回っているか……」
「バレン国王が奴等にとっては
宣戦布告のための伝書鳩にすぎぬということか……」
「どちらにせよ、この事態を放置しておくわけにはいきません」
「ああ、そうだな、それに奴らの使う古の魔法があれだけとは限らぬ」
「その通りだ、早急に手を打つ必要がある」
「では、まずはバレン王国に乗り込むべきかと
奴等とバレン国との接触の手がかりが掴めるかもしれません」
「うむ、では魔導帝国の精鋭部隊を向かわせよう」
「はっ!」
こうして事件のあった夜は更けていった
次の日 朝起きて食堂に行くとラムサス王子がいた
「おはようございます、ラムサス王子」
「ああ、アリア、昨晩はよく眠れただろうか?」
「はい、ぐっすりです」
「それは良かった」
ラムサス王子はなんだか元気がなさそうだ
「どうかしたんですか?体調が優れないとか……」
「いや、そういうわけではないんだが……」
「悩みごととかあるなら聞きますよ?」
「いや、そういうわけじゃないんだ……ただ寂しくなるなって……」
「そんなことですか!すぐ学園で会えますよ!
だからそんなに落ち込まないでください」
「ああ、そうだな、ありがとう」
そういえばあんな事件があったので
ラムサス王子に渡しそびれていたプレゼントのことを思い出す
「あっ!ラムサス王子!ちょっと待っててくださいね!」
急いで部屋に戻り綺麗に包まれている箱を持ってくる
「これ、一日遅れの私からの誕生日プレゼントです」
「あ、ありがとう!開けてもいいか?」
「はい、どうぞ」
「こ、これは」
「はい、私の肖像画です!私が腕によりをかけた逸品です!」
「綺麗だな」
「ええ、アリア画伯による渾身の一作ですよ!」
「ありがとう、部屋に飾らせてもらうよ」
「はい!是非そうしてください!」
そう言って私は自室に戻るのであった
「お嬢様帰りの準備が出来ました」
メリッサが呼びに来た
「わかりました」
私はメリッサとともに馬車に乗る
ラムサス王子が見送りに来てくれた
「それでは、また」
「ああ、元気でな」
「はい、ラムサス王子も」
ラムサス王子は少し涙を浮かべていた
友達がお泊りから帰るときってセンチな気分になるよね!
そんなこと思いながら私達は別れを告げ故郷トルネティアへと帰るのだった




