十話
文字って偉大な発明だよね
読めない文字にはこんなにも睡眠作用があるのですから
どうも魔術の授業で居眠りをして廊下に立たされている
アリア・リュゼクリスです
きっと未来の私はあの文字もスラスラと読めるようになっていると思われるので
今の私には必要のない知識なのです。
ならば寝てもいいじゃないの!とソフィア先生に目で訴えたのだけど
顎で廊下へ行けと言われてアイコンタクトの交信は不成立でした
ただ突っ立っているのも時間の無駄なので笑顔の練習でもしておきましょう!
にーっ! うん!完璧ね! にーっ! うん! にーっ! よし!
これで今日一日は乗り切れるわね!
「貴様何をしているんだ…?」
不気味そうにこちらを見ているのは
遅刻ならぬ殿様出勤をしてきたラムサス王子だ。
「おはようございます!ラムサス様!
見ての通り私は今、笑顔を練習しております!」
「どうですか?私もなかなかいけてると思いませんか?」
「……」
「どうしました?顔色悪いですよ?大丈夫ですか?」
「……」
「お腹すいたんですか?」
「寄るな!気安く話しかけるな!」
「えぇ……酷い」
「俺はもう行くぞ!」
「はい!今は魔術の授業をしていますよ」
「……」
何も言わず教室の中へ入っていくラムサス王子と私
自然な流れでこの教室に戻ることが出来た
「おかえり、アリア」
ライラ様がそう呟く。
「はい、ただいま戻りました」
「廊下で何かあったのですか?」
フィーネさんがそう聞いてきた。
「いえ、特にないです。笑顔の特訓をしていたくらいです」
「笑顔の特訓?」
「はい!そうです!こうやってですねにっこりと微笑むことで
私は幸せな気分になることが出来るのです!」
「なるほど、私もやってみます」
「是非!」
「にこぉ」
「ぐはぁ、尊い……」
「どうしたの?」
「いえ、なんでもありません。可愛かったもので……」
「おほん!」
ソフィア先生が警告音を発しているこれ以上はまた廊下行きになってしまう
「それでは、皆さんにどれだけ魔術がわい…
ごほん、偉大な力なのか実技をもって知ってもらおうと思います」
「「おお〜」」
皆から歓声が上がる。
実技ということで魔術訓練所にやってきた私たち
そこには、いつもの光景が広がっていた。
魔術師が使う杖を持った生徒が訓練用の案山子と対峙している
私達は見学をしているのだが
「はっ!」
「燃え盛れ!」
「凍りつけ!」
と、次々に生徒たちが詠唱をして魔術を放っている
しかし、中々上手くいかないようだ。
そして、ついに私の番がやってきた。
「アリアさん、準備はできていますか?」
はっきり言おう私は魔術が使えない
古代語なんて今の私には読めないのだから詠唱なんか出来ないのだ
だけど魔法なら使えるのでどうにかこれでごまかしていこうと思う
「アリアさん?」
「はい、いつでもOKです!」
「それでは、ファイアーボールを放ってください」
「はい!」
私は右手を前に出して呪文を唱えた
『ふぁいあーぼーる』
すると手から巨大な火球が現れる
緊張したせいかなんか大きくなってしまったようだ
「お、大きいわね……」
ソフィア先生が苦笑いを浮かべながらそう言った。
む…大きすぎるようだ小さくしようそう考えて火球を小さくする
そして案山子に向けて火球を放つ
案山子は黒焦げになりプスプスと煙を上げていた
先生と目が合った
「アリアさんこちらへきなさい」
そういうと2人しか聞こえないような声で話しを始める
「弟子よ、魔術など矮小な力を使うことを嫌う意味は分かるが
魔術の授業で魔法を使うのは違うと思うぞ」
「先生、私は魔術を使えません」
「……は?」
「ですから、私は魔術を使えません」
「……」
「無言やめて下さい」
「いや、でも弟子は、魔術の授業に出てたじゃないか」
「はい、出てましたよ」
「じゃあなんで魔術使えないと?」
「それはですね、私には古代語が読めないんです」
「まじで?」
「まじです」
「じゃあ授業受けても無駄じゃないの?」
「いいえ、先生の授業は(よく眠れるので)好きなので…」
「そ、そうか…」
「おいお前!」
ソフィア先生とヒソヒソ話をしているとラムサス王子がやってきた
「はい!何でしょうか?」
「お前さっきの魔法はなんだ!」
普段怪訝な表情しか見せない王子にしては焦っているような表情をみせている
「はい!あれは私が考えたふぁいあーぼーるです!」
「火球の話をしてるんじゃない!」
「火球を小さくした魔法のことを聞いてるんだ!」
火球を小さくした魔法なんてあったっけ?
「それは魔法ではないですよ。ただ火力を抑えただけです」
「嘘をつけ!一度放った魔法に干渉したんだ!
あれが魔法じゃなかったらなんだっていうんだ!」
ラムサス王子は怒り狂ったように私に詰め寄ってくる
「ラムサス王子落ち着いてください」
ソフィア先生があまりの剣幕で詰め寄ってきたラムサス王子を制止してくれた
「落ち着けるか!」
「あんなふざけたものを見せておいて!」
私を指さしてくる
「そう言われましても……そもそも、なぜそんなにも怒っていられるのですか?」
「俺が質問しているだろうが!答えろ!」
「う〜ん……分かりました、お教えしましょう」
「ふん!最初からそうすれば良いものを!」
「火球がぼわっとしてましたよね?だからきゅーっと小さくしたんですよ」
「……」
「は?」
「ですから、火球がぼわっとしてたので、きゅうって縮めてみました」
「何を言ってるのか分からないが、もう一度聞くぞ。
あれは魔法だったんだよな?」
「はい、ラムサス様の見立てではそうなりますね」
「そうだ、俺は魔法だと思った」
「はい、だから魔法だとおもいます」
「……」
「……」
お互いに沈黙が流れる
「ぷっ、あっはっはっはっは!」
突然ソフィア先生が笑い始めた
「どうしましたかソフィア先生?」
「いえ、何でもありません。気にしないでください」
「は、はい」
「それでは、今日の授業はここまでにしましょうか」
「わかりました。それでは皆さんまた明日会いましょう」
そう言うと皆訓練所から出て行った
「アリアさん、この後少しお時間よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ」
そういうと、私たちはソフィア先生の部屋へと向かった。
「それで、話とはなんでしょう?」
私は先生に問いかける
「実は、弟子よ あなたに謝りたいことがあるのです」
「まさか古代語が読めないとは思わなかった……」
「はい、私も読めないことを忘れていました」
「……」
「……」
再び、部屋の中に静寂が訪れる
「弟子よ…しばらく魔法の修行はお休みだな…」
「はい、師匠……」
とうとう古代語と向き合う日がきたのだ…がんばれ今日からの私!




