一話
「カワイイ笑顔作りハイチーズ」
にっと笑って見せる
鏡には黒い髪をした可愛らしい少女の笑顔が写っている
「いい!今日の私も最高だ!」
私アリア・リュゼクリスは公爵家の長女として生を受けた。
父も母も金色の髪で、兄も同じ色をしていたのだが
生まれてきた子供は両親どちらにも似ていない黒い髪だった。
稀に先祖返りが起こり特殊な子供が生まれることがあるそうだけど、
それがこの家に生まれて来てしまったのだ。
父はそのことで随分と悩んでいたようだけれど、
母は特に気にしていなかったようで
家族皆でこの子を大事に育てようと決めたようだった。
私は物心つく頃には自分が前世の記憶を持っていることを自覚していた。
そしてそれは私が男だったということも……
自分がこの世界に転生して男であった記憶があるということは
アドバンテージになるかもしれない
今の私は可愛い女の子だし、性格だって悪くないと思う
だから問題なし!この容姿は武器にになる!
しかし前世の自分はイケメンでもブサイクでもない
フツメンだったなぁ〜なんて思いながら、
私は今日も鏡の前で笑顔の練習をするのだった。
「おはようございますお嬢様」
「おはようメリッサ」
私の身の回りのお世話をしてくれているメイドのメリッサは
この屋敷に来てまだ日が浅い新人さんだ
メリッサは少し背が高くてスタイルもいいし美人なので
初めて見た時は驚いたものだ
そんなメリッサはいつもニコニコしていて
とても優しい子なのだけど、たまに怖い時もある
例えば今みたいな表情をしている時に……
「昨夜はよく眠れましたか?」
「うんぐっすり眠ったよ」
「それならよかったです」
「えへへ〜」
笑顔を作る練習中に寝落ちしてしまったことがバレたら怒られそうだから
誤魔化すように笑っていると、
メリッサは何かを考えるような素振りをして言った
「ふむ……では今日は笑顔ではなく泣き顔の練習をしましょう」
「はい!?」
「泣いている時の顔を作れたら便利ですよ?さあ早速やりますよ!」
「いやちょっと待って……」
「待ちません!ほら早く!」
「はいぃ!!どこに行くの!?」
「旦那様の書斎でございます」
「おとうさまの部屋?」
書斎に連れてこられた私は机の上に本を積み上げられ
そこに座るように言われた
「さぁ今日の勉強を始めましょう」
「うぅ……はい」
こうして私はこの世界の文字の勉強を始めさせられた
しゃべることは問題ないのだが前世の知識がある分
この世界の文字を書くのがどうも苦手なのだ
「ダメ…難しいもう泣きそう」
「まだまだいけますよー頑張りましょ」
「ひゃいっ」
メリッサはとてもスパルタだった
笑顔を作るのとはまた違う難しさに苦戦しながら
何とか文字を覚えていくのだった
「はい今日はこれくらいにしておきましょう」
「やったぁ終わったー」
「よく頑張りましたねお嬢様」
頭を撫でられるのが気持ち良くて思わず目を細めてしまう
「明日もこの調子で行きますよ」
「はいメリッサ先生お願いします!」
「任せてください!私にかかればすぐにマスターさせてみせますよ!」
「よろしくお願いしましゅ」
「噛んだことには触れずにいてあげましょう」
「ありがと」
そう言って二人で笑い合う
メリッサは厳しくて厳しいけれど
なんだかんだと面倒見がよくて優しい人なのだ。
メリッサとの時間は楽しくてあっという間に時間が過ぎていった
「そろそろ部屋に戻りましょうか」
「うん、わかった」
メリッサと一緒に書斎を出る
廊下を歩いていると前から兄である
キース・リュゼクリスが歩いてくるのが見えた
「あらキース様おはようございます」
「おはようメリッサ、アリアもおはよう」
「おはようごじゃいます」
「お母様に用事があって来たんだけどどこかな?」
「奥様はお客様がいらっしゃるみたいで今は応接室の方にいると思いますよ」
「そうなんだありがとう教えてくれて」
「いえいえ」
メリッサと話している時の兄の笑顔を見て思う
(やっぱりイケメンだな〜)
私の兄キースは金髪碧眼で背が高く容姿端麗でおまけに文武両道ときたものだ
おのれイケメンめ!
前世の記憶があるせいでイケメンに対する複雑な感情が湧いてくる
今の自分には関係ないと思っていたけどそんなことはなかったぜ!
「アリアどうかした?」
「なんでもないよ!それじゃあ私行くね」
「うん、また後でね」
「ばいば〜い」
二人に手を振って別れると自分の部屋に戻ろうと歩き出したのだが
何故かメリッサもついてきていた
「あれ?メリッサは行かないの?」
「はい、私はこちらで仕事があるので」
「そうなんだ、頑張って!」
「はい!ありがとうございます」
そうして自分の部屋に戻ってきて鏡の前へ行き自分の顔を見る
「ふっふっふ、いい感じに笑顔が作れるようになってきたな」
笑顔の練習の成果が出ているようで満足げな笑みを浮かべている
「可愛い笑顔は世界を征する!この子は世界一の美女になるぞー!」
鏡に向かって決めポーズをしながら高らかに宣言をする
しかしその時、突然背後から声をかけられた
「お嬢様…何をしているのですか?」
「ぎゃああ!!」
「きゃあ!?」
驚いて変な悲鳴を上げてしまった
恐る恐る振り返るとそこには呆れた表情をしたメリッサの姿があった
「メリッサ!いつの間に後ろにいたの!?」
「ずっといましたが……」
「仕事は……?」
「お嬢様がお客様に迷惑をかけないように…と
奥様の命令でございます」
「あぁ……」
どうやら私はメリッサの監視対象になっていたようだ
「それよりも先程の行動について詳しく説明していただけますか?」
「えっと……それはですね……」
私は必死になって言い訳を考えるのだった…