もしも魔王が転生して道端の木になったらのはなし
世界征服。それが吾輩の使命だった。
いくつもの王国や都市を攻め込み、数々の都市を独占し、吾輩の率いる魔王軍は続々と侵攻していた。
だが、ある日、勇者と呼ばれる者に出会い、吾輩はその勇者と戦ったが、結果は吾輩の負けとなり命を落としてしまった。手下共もきっともう現世にはいないだろう。
「吾輩もここで終わりか――」
「そなたはまだここで、死ぬべき魂でない」
ここは真っ暗な空間、辺には誰も居るはずがない。空耳だろうか。
「魔王ルガンスクよ。そなたはまだ生きるのだ」
「誰だ! 吾輩の名前を呼ぶ者は」
すると吾輩の目の前に小さな天使が姿を表した。
「初めまして、私は天界と地界の狭間を観測するレヴィです。そなたには転生をしてもらい、魔王とは無関係な魂として生きて貰います」
「急になんだ? 吾輩は魔王だぞ?」
そもそも何故天使が魔王である吾輩に現世へ魂を呼び戻すのだ。魔王と天使は仲間でも味方でも同胞でもないはずだ――
「では、現世で会おう」
「おいまて!」
眩しい光に包まれ吾輩の意識は途絶えた。
目が覚めると、見知らぬ場所にいた。吾輩はどうやら転生と、言うものをしたみたいだ。
どうやらここは道端の様だ。場所を移動しようと思ったが体が動かなかった。
「無事転生出来たみたいですね」
「それはそうと、これはどうなってるのだ。体が動かないのだが」
「あっ、自分の姿が見えないのですね。はい、これが転生した魔王ルガンスクの今の姿じゃ」
手鏡に映るその姿は、想像もしなかった姿であった。
「おい、何の嫌がらせだ。何故吾輩は木の姿になっている」
「そなたの転生は木になることだったのじゃ。現世を木になって、残りの寿命を全うしてもらいたい」
「転生するよりもこれなら、あのまま死んだ方がましなんだが」
「これは使命なのです。ルガンスクよ、木になることで、新しい発見があるやも知れぬ。それでは失礼する」
「おいまて」
そのままレヴィは姿を消してしまった。
こんなものあるかよ。何故吾輩が道端に生えてる内の一本の木にならなければならないのだ。しかも転生してまで。
――――一時間後。
同じ光景を見続けるのは実に退屈である。誰も通ることも無く、そして、自分が動けることも無い為、退屈で仕方がない。何故吾輩はこんな目に合わなければならないのだ。
その時だった、目の前の道に見慣れた魔物2匹が現れた。
確かあれは、そうだ、吾輩の下辺だった魔物じゃないか。あのあと、無事だったか。
「それにしても良かったな〜命助かってよ」
「本当だよ。魔王様は死んじゃったけど」
皆よすまぬな。こんな魔王で・・・
「でもある意味良かったね。魔王の使いは疲れてたからさ」
「そうそう。俺何て、こき使われまくって魔王殺しつくなること何回もあったし」
下辺達は魔王の悪口を好き勝手言っている。
「勇者には感謝だよ。魔王様には悪いけど」
吾輩が居ないからって好き勝手いいよって、動けるものならばしばき倒していた所だった。だが、今の吾輩は木だ。当然自分では動けない。
「はぁーつかれた」
「休憩〜」
下辺達が魔王|(木)に背中をもたれて休憩をしていた。
これは吾輩にチャンスが訪れたのでは無かろうか。少し木を揺らしてみるか。
吾輩に持たれつく下辺達に対して、自分の体を揺らしてみた。
「なんだこの木、良く揺れるなぁ」
「風もそんなに吹いてないのに、周りの木と少し違うような感じもするし」
いい調子だ。次は葉っぱを落としてみるか。
「うわっ、なんだ!」
「やっぱこの木おかしいってば!」
フフフ、散々吾輩の悪口を言ったからにはそれなりのお仕置きが必要だからな。
「これじゃあ休憩にならねぇよ」
「魔王様の呪いかしら?」
「俺たちが悪口言ったから魔王様がお怒りになってるかも知れないとか? 死んでるのに魔王様の呪いとか恐ろし過ぎるだろ」
下辺2匹はそそくさとその場から離れてしまった。
そして魔王はまた退屈になってしまった。
「流石ルガンスクさん。自分の下辺にイタズラしちゃうだなんて」
「本来ならもっとキツイお仕置きをしたかったのだがな」
「少しは暇つぶしになりましたね」
またレヴィは姿を消した。
あいつは冷やかしにも程がある。
数時間後、またしも魔物が道を通りがかった。
「魔王城崩壊してからも、今も仲間達は自由にのびのびとしている。それに比べて私は、魔王様も失くし、城も追い出され、今は家なき魔物」
あれは、俺に使えてた側近ではないか。あいつはさっきのやつよりも惨めな見た目になっていた。
「魔王様、もし貴方が生きてたら今のみすぼらしい私めを見てあざ笑うでしょうか、それとも余りの衝撃で怒りを覚えるでしょうか」
あいつはどうやら、あの後、命は助かっても生活には恵まれていない様だった。木になった吾輩よりはマシだとは思うが。
「ルガンスクさんも、別の天使に拾われてたらあの様な姿になってたかも知れませんね」
「むしろあっちの方がマシではないか、こんな木よりも」
「魔物それぞれによりますね」
「はぁ少し疲れました。私めも何処かでひっそりと暮らしてた方が良いかも知れないですね」
あいつ、ずっとスランプだな。
「何か元気づけてやれないだろうか」
「なら光合成をしたらどうですか? 光合成の時の木には癒やしの効果がありますよ」
「その光合成はどうやればできるのだ?」
「念じれば良いのです」
そう言われ吾輩は念じる事にした。
すると体|(木)が光だし、光合成が行われた。
「流石ですルガンスクさん」
「案外簡単ではないか」
「木が光合成をしている」
側近は魔王の光合成を見ていた。
「あぁ、この世界にはまだ見ぬ景色もある様ですね」
「ルガンスクさん成功ですね」
側近はその後、決意を決めたかのように立ち上がった。
「よーし、私めは世界のまだ見ぬ景色を探すことにしましょう」
側近は空に羽ばたき何処かへいってしまった。
―――――
「魔王様、木として転生してからどうでしたか?」
「うむ、不満はあるが下辺達を見れたのは良かったぞ」
「これからも木として頑張ってください」
「え?」
「今のルガンスクさんの魂は木として1000年生きることなのです」
「いやなげぇよ!」
魔王は今日も木として生活するのであった。