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第14夜:グラスホッパー

カランカラン


扉についた小さな鐘の音が来客を知らせる。


「こんばんは、二人いけますか?」


「いらっしゃいませ。もちろんでございます。どうぞ。今日は先日おっしゃっていたお方とですか?」


「覚えてくださってたんですね。そうです、親友とお昼から飲んでいてここの話をしたらぜひ行こうってなりましてね」


 先日も来店してくれた人族の文士の男、ライアーだった。

 彼はカウンターに座るや否や、羽織っていた上着から葉巻を取り出す。

 少し顔が赤いのを見るとそれなりにお酒を嗜んだ後なのが伺えた。


「へぇ、ここがライ兄が言ってた〝ばー〟ってところか」


 ライアーと隣のカウンター席へと腰かける人族の男。

 眼鏡をかけ、見た目は非常に真面目そうな見た目ではあるが少し砕けた雰囲気がどことなく感じられる。


「Bar月明かりの道標のマスターを務めております、フェンと申します。ライアー様のご友人ということでぜひお名前を頂戴してもよろしいでしょうか」


「初めまして、タ・ハルです。ライ兄から話は聞いていて、ここのお酒は楽しみです!」


「そう言って頂けて光栄です。本日はお二方ともいかがなさいますか」


 オーダーを聞きながらライアーの前に灰皿をすっと差し出すと、彼は無言で指を二本立てる。

 どうやらタ・ハルも喫煙者のようだ。

 こういった細かい気配りができるところに人柄がよく出ている。

 タ・ハルにも灰皿を差し出すと、彼もまた会釈し、葉巻を取り出す。


「俺は前回と同じで――」


「ラフロイグのハイボール、でございますね?」


「流石! お願いします」


 タ・ハルはというと店内を見渡しながら、口をゆっくりと開く。


「んー、実は俺あんまりお酒は強くなくて。少し飲んできてるので一度休みがてら、きつくない飲みやすいお酒とかってありますか?」


「もちろんでございます。既に食事もされておりますか?」


 ライアーは既に葉巻に火を灯し、ゆらりと煙が店内に広がり始める。

質問に対し、頷く二人を見て少し考える。


――タ・ハルも日本のもう一人の親友に少し似ている。


 学生時代、それも専門学校のときの同期だった。

 最初は四人でつるんでいたが一人がドロップアウトしてからは三人で仲良くしていた親友たちを思い返す。

 ライアーもそのうちの一人の親友によく似ている。

 これも数奇な縁であると本当に思う。


――そういえばあれが好きだったな。


「ではデザートカクテルと致しましょう。おつくり致しますね」


 二つのドリンクがなるべく同時に仕上がるようにドリンクメイクを始めていく。

 必要なボトルを並べ、グラスを並べる。

 今回使用するリキュールは二種類。

 ジェット27――ペパーミントのリキュールとしてトップブランドである。清涼感のある癖の強いリキュールで鮮やかなグリーンの液体が特徴的だ。

 ボルス クレーム・ド・カカオ ホワイト――無色透明のミルクチョコレートのリキュールだ。上品な甘さにポピュラーなミルクチョコレートの味をしっかりと再現してくれる。

 この二種類のリキュール、そして生クリームをそれぞれお20mlずつ同量をシェイカーへと注いでいく。


 軽くバースプーンで攪拌させ、味を見る。

 生クリームは非常にバースプーンへ付着しやすいため、使用したバースプーンは他のバースプーンを差している水の張ったステアグラスとは別のステアグラスに差す。

 そうしなければ水が生クリームで濁り、ほかのバースプーンへ味が付着してしまう。

 そうなってしまえばほかのカクテルが生クリームがほのかに香ってしまい、美味しくない。


 次はロングタンブラーに氷柱を入れ、ラフロイグを注ぎ、炭酸でアップし、ハイボールを完成させる。

 すぐさまシェイカーへと大きめの氷を一つ入れて、シェイクへと移っていく。


 本来であればシェイカーの八分目まで氷をぎっしりと詰めるのだが、生クリームを使用したカクテルの場合は少し変えているのが〝月明かりの道標流〟である。

 生クリームは氷へと油分が付着しやすい。

 つまり氷を多く入れてしまうとその氷の表面に油分が付着し、その分の油分を失ったカクテルになってしまう。

 これはバーテンダーによって様々な見解があるだろう点であり、カクテルの面白い点でもある。


 またシェイクも少し柔らかく、ふんわりとした口当たりになるように優しく振っていく。


「お待たせ致しました。こちらがラフロイグのハイボール、そして〝グラスホッパー〟でございます」


 グラスホッパーはバッタを意味する。

 いわゆるチョコミントのデザートカクテルでその不透明な淡い緑色から名前をつけられたそうだ。


「うん、甘くてよくわからんけど美味い。これは好きだな」


 シンプルな一言をタ・ハルが述べ、少しほっとする・


「ハルも気に入ってくれたみたいでよかったよ」


 煙に巻かれながら酒を嗜む二人はとてもBarに映える。

 若い青年などには出せない大人の雰囲気を醸し出し、上品に飲みなれているのは冒険者育ちからすると少し新鮮である。

 いまこの瞬間だけはここが異世界で、日本ではないということを忘れさせる。

 そんな時間がゆったりと過ぎていく。




 今夜もまだ夜は始まったばかりである。


今夜のお話もお読み頂き、ありがとうございました。

今回取り上げたカクテルはグラスホッパーでした。

このカクテルはミントリキュールを使用しているため、好みは分かれるので今回のお話のようにいきなりBarで出てくることはないです。

おそらくどのバーテンダーさんも必ずミントは大丈夫か聞いてくれると思いますが、今回はフィクションということでご愛敬。


筆者にとってもグラスホッパーは好きなカクテルのひとつなのですが、読者の皆様はこのカクテルはご存じだったでしょうか。


まだまだのんびりまったりとフェンの物語は続くと共にカクテルも出して参ります。

皆様の好きなカクテルが登場した際はぜひコメントなどで思い出話でもお聞かせください。


今夜のお話が面白い、続きが読みたいと思ってくださった方はぜひブックマーク、高評価にて応援のほどよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
カクテルの描写が本当にしっかりしてるなあ 作るときの所作とその理由がよくわかります
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