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第13夜:サン・ソニック

カランカラン


扉についた小さな鐘の音が来客を知らせる。


「こんばんは、マスター。よろしいでしょうか?」


「いらっしゃいませ。もちろんでございます。どうそ」


 ゆらゆらと揺れる尻尾。

 以前と同様身なりはまるで英国紳士のような上等な服を着ている猫人族:ケットシーの客人の再来だった。


「先日は楽しいひと時を過ごさせてもらいました。お陰様で仕事も頑張れております」


「そう言って頂けますと幸いでございます。本日も一杯目はマタタビトニックに致しますか?」


「そうですね、とりあえず一杯目はそう致しましょう」






「ぷはーっ! やっぱこれだにゃあ! 仕事終わりにゃあ、飲まにゃいかんにゃ。にゃっ、マスニャー?」


 マタタビトニックを一口。

 以前と同様にお酒を飲んでいい気分になっている猫人族の客人である。


「お気に召して何よりでございます。そういえばよければ今日はちょうど漬け終わったお酒があるんですが、試飲されてみませんか?」


 そう言って私は一本の瓶を客人の前へと置いた。


「これはなんにゃ?」


「こちらはウォッカなんですが、普通のウォッカではございません」


 ウォッカはジン、ラム、テキーラと並び世界4大スピリッツと呼ばれている。

 大麦や小麦、ライ麦、ジャガイモなどの穀物が原材料であり、蒸留後に白樺の炭による濾過をして作られている蒸留酒である。

 基本的に無味無臭、そして無色透明であるが、今回は少し違う。


 なぜならば今回のウォッカはベースこそ人気ウォッカであるスミノフを模倣したものであるが、それにこの世界で取れた果実を漬け込んでいる。


 いわゆる〝インフューズド ウォッカ〟と呼ばれる漬け込み酒にしたものだからだ。


 真紅に染まり、まるで燃え盛る炎のような色のウォッカを見て、客人はけらけらと笑う。


「こんにゃお酒はじめて見たにゃ! まるで宝石みたいにゃ色にゃ」


「えぇ、実は最近いい果実を仕入れましてね。南大陸に生息する火鳥が好む〝太陽の宝玉〟という果実を漬け込んでその成分を抽出したウォッカなんです」


「にゃにゃにゃ!?!?!? げほっ!!!」


「だ、大丈夫でございますか?」


 急にお酒を噴き出した客人へ新しいおしぼりを差し出す。


「あ、ありがとにゃ……。みにゃみ大陸はS級冒険者クラス……種としての限界を超えて遥か高みへと到達した超越者とまで呼ばれる方たちでしか踏み込むことができないとされる大陸ですにゃ。しかもそこの果実〝太陽の宝玉〟は市場には出回ることのにゃい幻の果実にゃのに……」


 驚きのあまりなのか、少しだけ素面に戻っている様子である。


「一杯……いくらなんですかにゃ?」


「お客様は当店に初めてお越しになってくださった大切なお客様でございます。ましてやこうして再来店までしてくださりましたから、こちらは私からのお気持ちとして試飲されてみませんか」


「にゃんと……よいのですかにゃ?」


「もちろんでございます。こちらはシンプルにストレートやロックでも美味しいのですが、さっぱりとした味のウォッカですのでぜひ〝ウォッカソニック〟がお勧めでございます」


「では、それでお願いしますにゃ!」


 わくわくが止まらないといった様子で尻尾を振る客人にこちらまで胸が躍る。


 タンブラーに丁寧に氷柱を入れ、そこへインフューズドウォッカを30ml注ぐ。

 軽くステアした後に、氷へ当たらないようにトニックを60ml。

 そしてソーダも氷へ当たらないように60ml注いでいく。

 バースプーンで炭酸が抜けないように軽く攪拌させ、最後に氷を軽く持ち上げて落としたら完成だ。


「お待たせ致しました。こちら太陽の宝玉のインフューズドウォッカでお造りしたウォッカソニック――〝サン・サニック〟でございます」


 トニックウォーターとソーダの比率を1:1でアップするスタイルをソニックと呼ぶ。

 普通ならばレモンやライムといった柑橘系の果汁などを一緒に入れるが今回は太陽の宝玉の持つ成分や味を抽出しているため、それを邪魔しないように使用していない。


「んんん!! こにゃあなんにゃ!? さっぱりと爽快、甘味と苦みの絶妙にゃバランス……さすがにゃ!!!」


 太陽の宝玉の味わいはブラッドオレンジによく似ている。

 だがブラッドオレンジよりも瑞々しく、爽やかで濃厚な味わいを持つため、まさに太陽の恵みを存分に含んだフルーツである。

 その良さを伸ばすために適度な苦み、そして爽快感を出すためにもソニックが最も良いと行き着いたカクテルだ。


「恐縮でございます。喜んで頂けてよかったです」


 やはりバーテンダーとしてこうやって目の前で美味しそうにお酒を飲んでもらえること以上の幸せはないように思う。

 そんな瞬間である。




 今夜もまだ夜は始まったばかりである。


今夜のお話も読んで頂き、ありがとうございます。

もしこの話から読んで頂いた方は基本的に一話完結型の物語ですので、ほかの話も読んで頂けますと幸いです。


今回のお話ではオリジナルの果実を使ったインフューズドウォッカで作るウォッカソニックでございました。

イメージとして近いのはグレイグースのル・オランジェのウォッカソニックでしょうか。

爽やかで飲みやすいウォッカソニックをイメージして書いてみました。


今夜のお話が面白い、続きが読みたいと思ってくださった方はぜひブックマークや高評価での応援よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
マンゴーかと思ったらブラッドオレンジかあ ウォッカは味がさっぱりしてるからよく合いそう
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