第11夜:アイラの王
カランカラン
「こんばんは、入れますか?」
来店を知らせる鐘と共に入ってきたのはすらりとした背の人族の男だった。
「いらっしゃいませ。もちろんでございます。どうぞ」
三〇歳半ばといった爽やかな男は酒場に慣れているのか、会釈をしながらカウンター席に腰かけるとボトル棚を興味深そうに視線を向ける。
「あのボトル気になるんですけど見れますか?」
この世界にはないボトルだからこそ気になるのだろう。
彼が指差すボトルを手に取り、カウンターへと置く。
「こちらはスコッチウイスキーの〝ラフロイグ〟という銘柄でございます」
「おお、初めて見るお酒です。これはどうやって飲むのがいいですか?」
「こちらはストレートでそのまま飲んでも美味しいですし、炭酸で割って爽快感のある一杯目にして頂くのもおすすめですね」
「炭酸……というと酒場によくある麦酒:エールのようなものですか?」
この世界にはビールとは呼ばれてはいないが似た酒が存在するが、味は劣悪な代わりに安いことで有名だ。
「確かに麦酒も炭酸ですね。あれはお世辞にも美味しいとは呼べない炭酸ですがうちの炭酸は私が製造を任しているところから仕入れているので一級品なのでおすすめですよ」
「へぇ! それではラフロイグの炭酸割りを頂けますか?」
「畏まりました」
薄張りガラスで作られたロングタンブラーグラスを手に取り、そこへ綺麗に切り上げた氷柱を入れる。
バースプーンで一〇回程度氷柱を回し、グラスを冷やす。
その後、氷柱をバースプーンで押さえながら溶けた表面の水を丁寧に切り、そこへラフロイグを30ml注ぐ。
ウイスキーをしっかりと冷やすため、バースプーンでステアし、しっかりと冷やしたら仕上げへと取り掛かる。
ガラス瓶の栓を開け、ぷしゅと炭酸の音が響く。
これは天然炭酸水ではなく、ガスを魔法によって後入れした炭酸水だ。
地球では天然炭酸水だとペリエなどが人気だが天然炭酸水は基本的にまろやかな味わいが特徴的だが、私が求めるウイスキーの炭酸割りはまろやかな味わいではない。
そこで炭酸の爽快感に重きを置き、後入れの人工炭酸水の代表格とも言えるウィルキンソン炭酸をイメージして作ったのがこの炭酸水だ。
氷柱に当たらないように注ぎ、しっかりとウイスキー自体に炭酸水を当てることでしっかりと撹拌させつつ、炭酸が抜けないようにする。
この撹拌が起きるのはウイスキーの比重が炭酸水よりも軽いため出来ることだ。
これだけでも撹拌は十分と考えるバーテンダーも多いが、パフォーマンスも含めて氷柱をバースプーンで少しだけグラスの底からゆっくりと持ち上げ、再度丁寧に落とす。
これにより、しっかりと攪拌が起き、一口目が薄いウイスキーの炭酸割りになることを防ぐことが出来る。
「お待たせ致しました。〝ラフロイグ ハイボール〟でございます」
ごくごくごく
ハイボールが喉を通る音が聞こえ、ぷはあと声を漏らす。
「これは美味いですね! スモーキーさに爽快感、この潮風みたいな香り、どっしりとした味わいがベースにあるからこその炭酸で割ってもこんなに美味い。それに炭酸が麦酒なんかとは比べ物にならないくらい美味い」
「それは何よりです。ラフロイグは別名を〝アイラの王〟と称されますがこれを最初に飲まれるとはお目が高いですね」
「いやぁ、どことなく惹かれたもので。ちなみにここは葉巻は吸っても大丈夫ですか?」
「これは失礼致しました。灰皿をどうぞ」
客人は葉巻を加え、軽く会釈し、慣れた手つきで小さな火を生み出す魔道具で葉巻に火をつける。
この世界で言う葉巻はイメージする葉巻とは違い、現代のタバコの形にそっくりである。
強いて言うなら少し細長い。
ふぅ~、と息と共に煙を吐く姿はどこか儚げである。
煙を私に当たらぬように天井へと吐いているのを見ると、非常に気遣いのできる人間であることが伺えた。
「マスター、俺はライアーっていうしがない文士をしている者なんですけどね、少し疲れていたのもあって酒が飲みたかったんです。ここの酒は葉巻にも合うし、雰囲気もいい。今度親友の文士も連れてきていいですか?」
「もちろんでございます。ご友人も気に入って頂けると嬉しいんですが」
「あぁ、それならきっと大丈夫です。きっと気に入るんで」
葉巻の煙に身を包まれながら笑う姿はどこか懐かしさを感じる。
――あぁ、そうか。
日本に居たときに可愛がってくれていた親友に少し似ているんだ。
既視感に気づき、別人だというのにも関わらず親近感が湧く。
「改めまして、月明かりの道標のマスターを務めております、フェンと申します。以後お見知りおきを」
今夜もまだ夜は始まったばかりである。
今夜の題材はラフロイグでした。
アイラモルトは本当に好きなんですがハイボールにするならラフロイグかアードベッグの二択です。
今夜の登場人物ライアーにはモデルがおり、筆者の歳上の親友です。
彼とは最近会えていないですが筆者にとって道標になってくれた一人であり、メンター的な存在の親友です。
そんな親友とBARに行った際に飲んでいるイメージだったのがラフロイグだったので今夜はラフロイグに致しました。
この物語でもライアーにはフェンにとっての良き理解者であり、良き友人になってくれればなと考えながら書いていこうかなと思います。
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