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第10夜:シンデレラ

カランカラン


 来客を知らせる鐘が鳴り、ゆらりと入ってきたのは見覚えのある二人であった。


「いらっしゃいませ」


「やあ、フェン。また来てやったよ」


「ちょっと! お婆ちゃんそんな偉そうな言い方したらだめよ!」


 ゆっくりと歩く老婆と、とてとてと歩く少女。

 以前来店した薬師の魔女、そしてその魔女を迎えに来た少女だった。


「お気になさらず、楽にしてくだされば。どうぞおかけくださいませ」


「ほらね、ラスカ、気にしないでいいってさ。わたしゃ前と同じアードベッグだったかね? あのウイスキーを今度は氷無しでもらおうかね。この子にゃあなんかお酒じゃないのを適当に作ってあげておくれ」


「もう、お婆ちゃんったら……」


 ラスカと呼ばれた少女はまだ一〇歳もいかぬだろう見た目の少女だがしっかりしているのを見ると非常に微笑ましく思う。


「ラスカ様にはノンアルコールカクテルをご準備致しましょう。なにか果物などで苦手なものはありますか?」


 私はボトル棚からアードベッグのボトルを取り、カウンターへ置きながら質問する。


「うーん、特にはないんですけど、苦いのはあんまり好きじゃないです!」


「畏まりました」


 まずはテイスティンググラス、カクテルグラス、チェイサー用のグラスを準備。

 そして次にレモン、オレンジ、パイナップルをカウンター下の冷蔵庫から取り出す。

 レモン、オレンジをまずはペティナイフで半分にカットし、優しく丁寧にスクイーザーで揉み押し出すように果汁を絞ると、漉し器で種、果肉などを取り、滑らかな舌触りのジュースへと変身させる。


 パイナップルはへたを取り、半分にカット。

 その後パイナップルは果肉部分の中央に芯が存在するため、その芯をくり抜くような真ん中に穴の開いた専用スクイーザーで果汁を絞り出す。

 それもまた漉し器によって果肉を取り、果汁のみのジュースへと変貌させる。


 そうして絞った果汁をそれぞれ20mlずつをシェイカーへと注ぎ、バースプーンで軽く撹拌させ、味を見る。


――少し酸味が立ってるな。


 今回はレモンの酸味が少し強く感じたため、オレンジ果汁を2mlほど足す。

 再度バースプーンで軽く攪拌させてから、味を再確認する。

 私は調整が上手くいき、軽く頷くと一度シェイカーを蓋して、アードベッグのボトルを手に取ってテイスティンググラスへと30ml注ぐ。

 そしてチェイサー用のグラスにもアイスを入れ、水を注いでおく。


 最後にシェイクだ。

 いつものようにシェイカーへアイスを入れ、シェイク。

 シェイクを終えてカクテルグラスへと。


「お待たせ致しました。アードベッグのストレート、そしてこちらがノンアルコールカクテル〝シンデレラ〟でございます」


「わー! 綺麗な色!」


 ラスカは黄色に染まったカクテルグラスを見て、気分が上がっているようだった。


「うんうん、この香りがたまらないねぇ。フェンや、今夜は加水用の常温の水をくれるかい」


「……っ! 畏まりました」


 その言葉に不覚にも少し驚いてしまう。

 なぜならばこの世界に本来ウイスキーは存在しない。

 ウイスキーのストレートを頼み、更に加水用の常温の水を頼む、なんていうのは地球ですらウイスキー好きでもそう多くは頼まれるオーダーではない。

バーテンダーなどのお酒に関わる職種の人間であればテイスティングの際などに必ずと言っていいほどに行うようなことではあるが、それをこの世界でましてや二度目の来店でオーダーされるなんてことは想定していなかった。


私は小さなピッチャー状の水差しへ常温の水を注ぎ、魔女へと差し出す。


「ひひひ、驚いた顔をしてるじゃないか」


 魔女は私の顔を見ながらアードベッグのストレートを舐めるように飲みながら笑う。


「恐れながらこの世界はあまり上質な酒もありませんから、まさか加水をしてウイスキーを嗜まれるとは思っておりませんでした」


「いやぁ、こないだの氷を入れたこれも美味かった。氷が溶け、加水されていく毎に味が変わっていくのも面白かったけどねぇ。薬学を嗜む魔女としちゃあ、なんでも自分で試してみないと気が済まないのさ」


「お婆ちゃん! これもすっごく甘くてさっぱりしてて美味しいよ!」


「よかったじゃないか」


 ラスカがにこにこしながらシンデレラを飲む姿を見て、魔女は微笑む。


「さてフェン、やっぱりストレートの方が香りは強いけど、一滴、たった一滴だが加水すると香りがまた開くじゃないか。まったくウイスキーとやらはなかなかに面白い。どれ、若いの、わたしゃ今夜は機嫌がいいからねぇ。一杯奢ってやろうじゃないか」


 ひひひ、と乾いた笑いをする魔女は上機嫌だ。


「納期も終わったし、今日はゆっくり飲めるって言ってもあんまり飲み過ぎないでね、お婆ちゃん!」


「はいはい、わかってるよ。今夜はこわーいお目付け役がいるからねぇ」


「もー!」


 そんな二人の掛け合いを見ながら私は微笑む。


「それではありがたく頂戴致します。それと恐れ入りますがお名前を頂戴してもよろしいでしょうか」


「ん? あぁ、そういえば名乗ってなかったねぇ。わたしゃ、シャルト。シャルト・イガーエしがない薬師さ」


「シャルト様ですね、今夜もありがとうございます。それでは乾杯と致しましょう」




 今夜もまだ夜は始まったばかりである。


今夜のお話はノンアルコールカクテルのシンデレラでした。

(といってもかなりウイスキーの飲み方についてが多くなってしまいましたが……)

シンデレラはぜひ女性には覚えて頂きたいカクテルのひとつです。

今のご時世、無理に飲ませるというのは少ないでしょうがBARなどに行った際、お酒を飲むのが辛いときなどぜひ頼んでみてください。

バーテンダーも察して下さる方は多いと思います。


そして今夜のお話に登場したアードベッグですが、ストレートはもちろんですが個人的にはハイボールにするのもおすすめのウイスキーです。

強いピート香は炭酸に負けることはなく、しっかりとスモーキーでさっぱりした爽快感のあるハイボールになるので筆者の中ではハイボールにして好きな銘柄10選に間違いなくランクインします。


面白い、続きが読みたいと思って頂けましたらぜひ高評価、ブックマークにて応援のほどよろしくお願い致します。

励みになりますのでもちろんコメントもぜひ気軽にして頂ければと思います。

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