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第9話 宇宙宮 瑠詩羽(うつのみや るしは)という女。

「ふふふ、何をどう言いつくろうとも…これがわたしの初の肉親殺しになるのですね。そして最初に殺したのがわたしが幼い頃よく遊んでもらっていた導名雅みちながお兄様とは…なかなか感慨深いものがありますね」


 導名雅との戦いを終えて、自分の城である覇帝姫宮殿要塞はていききゅうでんようさいヴァーンニクスに戻って来たわたしは戦いの汗を流すために大浴場内の椅子に腰かけて思いにふけっていた。もちろん一糸まとわぬ姿でである。


「空也? 手が止まってますよ。もっと強くわたしの背中を流しなさい」


「は、はい! 瑠詩羽様!」


 空也は戸惑いながらもわたしの背中をハンドタオルで強く擦り始めた。

 わたしが初の肉親殺しに対して少し思いにふけていたのを、先日空也が自分の母親を殺したことに(正確にはわたしが殺した)重ねて、わたしに対して気を使っていましたか?

 ふふ、そんなこと気にする必要は無いのに。優しい子ですね空也。


「それでは空也、わたしの手を洗いなさい」


「はい、瑠詩羽様!」


 わたしは右腕を横に伸ばした。空也はわたしの腕を左手で支えると右手に持ったタオルで丁寧に擦って磨いていく。

 導名雅を殺した手がこんなことで綺麗になる訳は無いし、別に綺麗にする必要も無いのだろう。

 だがそこは初の肉親殺しであり兄殺しなのである。

 覇帝姫はていき宇宙宮うつのみや 瑠詩羽るしはとて人の子、流石に心に来るものはあったのである。

 兄殺しの血にまみれたわたしの手は空也の優しく温かい手で洗われて綺麗になった気がした。

 右腕が一通り洗い終わるとわたしは左腕を横に伸ばす。空也は今度は左腕を支えるとタオルを当てて擦り始めた。

 兄の兜を盾を鎧を砕き、その身体を砕いたわたしの手が空也に洗われて綺麗になっていく。

 もちろんそんなことで兄殺しの血塗られたこの手が綺麗になる訳はない、只の気休めだ。

 だが今のわたしにはその気休めが欲しかったのだ。

 わたしは空也の手を自らの両手で包み込むとそのまま自分の胸に押し当てた。


「る、瑠詩羽様!?」


「…空也、しばらくこのままでお願いします…。

ふふ、この覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽ともあろうものが、人の肌を、温もりを求めるなんて…

数多あまたの国々を星々を制してきたこのわたしが…

無数の人々を、あらゆる生物を屠ってきたこのわたしの手が…

殺戮の血に染まりきっている筈のわたしの身体が震えているのですよ…

只の一人の兄を殺したというだけで!

ふふふ、あはは!

なんて滑稽なのでしょうか!

そして人の手を!

人の肌を!

人の温もりを求めている!

失った兄の温もりを他人の温もりで補おうとでも思っているのでしょうか!

兄を殺したのは他らなぬ、わたしだというのに!

何て自分勝手で!

何て滑稽な!

これは笑えます!

笑うしかないですよ!

空也!

あなたも笑ってください!

こんな惨めで滑稽なわたしを!

わたしを笑いあざけることを許しますから!

さあ笑ってください!

空也!

笑ってください!

笑って!

あはは!

あははははは!

あはははははははは!!」


「…瑠詩羽様…」


 空也は両腕でわたしを包むように抱きしめてくれた。

 彼は泣いていた。

 ぽろぽろと泣いていた。


「何故泣くのですか空也。

わたしは全く泣いていないというのに。

ああ、もしかして、わたしの代わりに泣いてくれているのですか?

あのですね空也、わたしはですね。

とうの昔に、母上が亡くなった時に、涙など枯れ果てて、もう泣くことが出来無くなってしまったのですよ。

そんなわたしの替わりに、あなたは泣いてくれるとでも言うのですか?

ふふ、優しい子ですね空也は。

でもですね空也。

この宇宙宮 瑠詩羽が優しさに包まれるなどありえないのですよ。

そんなものにうつつを抜かすなどあり得ないのです。

だってわたしは次帝として名を馳せる覇帝姫なのです。

わたしはいずれこの大宇宙を支配する存在。

それが亡くなった母との約束。

覇道を進むこのわたしに優しさのまどろみなど不要なのです。

だから空也。

わたしはあなたの肌の温もりだけ頂きましょう。

その優しさはお返しします。

そうです、わたしはあなたの温もりが、つまり身体だけが目当てということです。

ふふふ、わたしを酷い女と思いますか?

それが、それこそが、この覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽なのですよ。

わかりましたか空也?

それを今からわからせてあげますね。

覚悟してくださいね」


 わたしはそう言うと、空也の身体を強く抱きしめて、自身の身体を彼に重ねた。











「ふう…お風呂は命の洗濯とは誰が言い出したか知りませんけれど、理にかかった物言いですよね」


 わたしは自身の身体を湯舟に深く浸からせながらつぶやいた。

 そのつぶやきに対しての返事は無い。

 替わりに浴槽の横でその身を横たえている空也の荒げた呼吸音が聞こえるのみである。

 わたしは浴槽の淵から手を伸ばすと空也のおでこを撫でてあげた。

 ご苦労様でしたね空也。

 ふふ、わたしは空也に宇宙宮 瑠詩羽がどういう女かわからせてあげたのだ。

 ただそれだけで深い意味は無いのである。



「ハクリュウ、戦果報告をしなさい」


 わたしが声をかけると同時に大浴場の空中に画面が映し出されてハクリュウの顔が浮かぶ


「姫様。ベイ国の制圧は2時間前に既に完了しております」


「昨日の最弱国に比べたらかかってますね、流石はこの星で少なくとも表立っては一番の国といったところでしょうか」


「はっ、姫様。この国を落とした瞬間から『シルフィア』を国境防衛に配置はしましたが、前の最弱国と違って周辺国がすぐに攻めてくることはありませんでした」


「この星の支配国家を公称する国が突然動きを停めたのですから、警戒しているのが普通でしょうか?

まあ用心深いというより単に臆病なのかもしれませんけれど。

しかしベイ国がこの体たらくだったのですから、つまりは唐土国からどこくがこの星の本当の支配国家と言うことになりますね。

唐土国がどれ程の戦力を持っていて、そして王がどれだけ強いのか、楽しみですね」


 わたしは目を細めると、明日の唐土国との戦いに期待して胸を馳せた。

 今度こそ、この星の支配国家と、この星の王と戦えるのだ。

 わたしは今度こそ血が沸き肉躍る熾烈な戦闘を期待して、獲物を期待する獅子の様に瞳を細めて笑みを浮かべた。





※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません

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