第6話 立場というものをわからせる。
「空也、汗を流します。一緒に来なさい」
わたしは最弱国との戦闘の余りのつまらなさにこれ以上の戦況の確認すら切り上げると踵を返し、自分と空也を大浴場の脱衣場へと瞬間移動させた。
「あの…瑠詩羽様、先ほどの戦いは途中で見るのを切り上げたような気がしたけど良いのですか?」
「あれぐらいの機動兵器のレベルでやる気の感じられない戦力投入ならハクリュウが指揮するシルフィアで雌雄は決したということです。
あとは結果だけハクリュウに聞いて終わりです。まったく、もっと血湧き肉躍る戦いを期待しましたのに…期待外れにも程がありますね」
わたしは空也にそう言葉を返すと手をかざす、その瞬間わたしが着ていた覇帝姫の装束が全部消えて文字通り全裸になった。
これは瞬間移動の応用で着ている服だけを別の場所に送ったのである。ちなみに送った先はパミロンメイド三姉妹の所である。
三姉妹を呼んで脱がせてもらうという選択肢もあるのだがそれは野暮というものであろう。
「えっ…ええっー!?」
空也はわたしが突然全裸になったのにびっくりして思わず腰を抜かして、目を覆った。
ふふふ…可愛い。
「何をしているの空也! わたしは汗を流すと言いましたよ! あなたは汗を流す役なんですからさっさと脱いでください!」
「えっ!? で、でも…瑠詩羽様!」
空也はわたしの裸を見て顔が真っ赤になりながら自身の服を脱ぐのを躊躇してモタモタしている。
ふふふ、それはもしかして焦らしているのかしら?
この覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽に対してなかなかやるじゃないですか。
でもちょっとまどろっこしいですね…わたしは短気なのですよ。
「ええい! 遅いです! それならこうですよ!」
わたしが手を振るうと空也の来ていた服が全て消えて全裸になった。
空也の服はわたしの装束と同じくパミロンメイド三姉妹の所に送っておいたが、空也の服は結構傷んでいるので新しい服を仕立てるのも良さそうだ。
あとで三姉妹に頼んでみよう。
わたしは突然自身の服が消えて仰天する空也の手を取るとそのまま大浴場へと入った。
「さあ、わたしの身体を洗ってくださいね空也!」
わたしは椅子に腰かけると自分の背中を指さして空也に命令した。
空也はあたふたしながら浴室を見回して、置いてあったボディタオルを見つけるとその手に取った。
彼は顔を赤らめながらしばらく躊躇している様だったが意を決した様で、わたしの背中におそるおそるタオルをを当てて磨き始めた。
「ふふふ、けっこう良い感じですよ空也。
それでは、前のほうも洗って貰いますね」
そう言うとわたしは何も隠すことなく自分の肢体を空也の前に晒した。
「うわあ!? 瑠詩羽様っ!?」
目を逸らしてわたしの肢体を見ないようにしようとした空也。
わたしはそんな彼の頭を両手でがっしりと掴んでこちらに向けさせた。
「空也、何をしているのですか! 目を逸らしてはわたしのカラダが洗えないでしょう!
さあ、わたしのカラダをすみずみまでよおく見て、汚れがないか逐一確認しながら丁寧に洗ってくださいね!」
「…は、はいっ…瑠詩羽様…」
空也はわたしの肢体をよおく見ながらタオルをあてて磨いていく。
ふふふ、そんなに顔を真っ赤にして…可愛い。
それでもわたしの大事なトコロは見ないようにはしているのね。
わたしはそんな一生懸命に洗う空也を見て満足し笑みを浮かべた。
「ふふふ、空也。あなた結構カラダを洗うのが上手いのですね。
わたしは普段はメイド達にカラダを洗わせていたのですけれど、父に全員解雇されて今は最少人数のパミロンメイド三姉妹しかいないのです。
彼女たちはとても忙しいですから毎度頼むのも悪いかなと思っていたのですけれど、あなたがそんなに洗うのが上手いならこれからはずっとお願いしましょうか?」
「えっ、ええと…」
空也はどう答えていいのかよくわからなくて困っている様だ。
わたしは目を細めて彼に言葉をかける。
「ふふふ…空也。覚えていますか?わたしがさっき言ったこと。
”あとで自分の立場というものをわからせてあげますから覚悟してくださいね…”って」
わたしはそう言うと空也をおもむろに押し倒した。わたしは空也の手をがっしりと握って大浴場の床に抑えつけた。
この覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽の握力を前にして動ける生き物などこの大宇宙にそうはいないだろう。
わたしの血を飲んで強靭な肉体に生まれ変わった空也も例外では無く、わたしの力圧を前に指一本動けなくなった。
「ふふ、流石のわたしも空也はこの国で最もか弱き人間ですから、今日ぐらいは優しくしようと思いましたけれど、空也がちょっと生意気なことを思うのですからお仕置きするしか無いじゃないですか!
…いいえ、そもそもこの覇帝姫である瑠詩羽がそんな優しさを出そうとしたことが間違いでしょうか?
このわたしが自分以外の他人に、しかも自分の奴隷に遠慮なんてありえませんよね!」
「あ、あの…瑠詩羽様?」
「ふふふ…空也、わたしは言いましたよ、空也の心も体もその思考の全てから血の一滴に至るまで全てわたしのものだと。
それがどういうことか、いまここで教えてあげます…」
わたしはそう言って獲物を見定める獅子の様に瞳をより一層細めると、彼のカラダに自身のカラダを重ねた。
「ふう…良かったですよ空也。久しぶりにすっきりしたって感じです」
わたしは満面の笑みを浮かべるとゆっくりと湯舟に浸かった。
何の前触れもなく突然皇族を追放され、配下も、領地も、全て奪われ、メディアスとの戦闘以来、満足いく戦闘をすることも出来なかった。
わたしは色々と内に溜め込んでいたのだ。
それがようやくすっきりした感じだ。
空也は息も絶え絶えの状態で浴室の床で仰向けに転がっている。
横目でわたしのほうを何故か涙目で見ている様だが、わたしはその視線を軽く受け流した。
わたしは空也に自分の立場と言うものをわからせてあげた。ただそれだけで深い意味は無い。
「ハクリュウ、戦果報告をしなさい」
わたしが声をかけると同時に大浴場の空中に画面が映し出されてハクリュウの顔が浮かんだ。
「姫様。ニホン国の制圧は半日前に既に完了しております。もう我らに抗う勢力は存在しません。
そしてこの国に他国の軍が居ましたが、本国への撤退を開始しました。
こちらに攻撃を仕掛けてはこないので今は静観と判断しました」
「ふふ、この国は他国の植民地だったのですか? まあこの星で最弱の国というのですから、さもありなんでしょうか。
他国の軍はこちらに向かって来ないのなら、そのまま無視して結構です。所詮いずれはこの星の全ての軍はわたしが相手をするのですから」
「姫様、御意。あとですが、この国の軍が停止した瞬間から周辺国から攻撃を受けましたので、それらはシルフィアで一蹴しておきました。
この国は既に姫様の領土ですから不埒な輩には指一本触れさせてはならないと判断しました」
「それで結構です、流石はハクリュウ。適格な判断です。
そしてシルフィアの適格な運用による迅速な制圧に迎撃、流石の手際ですね。
かつては父の片腕として大宇宙に名を馳せただけのことはありますね」
「いえいえ、私などは所詮は姫様の足元にも及びませぬ」
「ふふ、謙遜ですね。
それでは本格的な地球征服は明日からにしようと思います。
この星を支配している国がどれほどの戦力を有しているのか、そしてこの星の王がどれぐらい強いのか、楽しみです」
わたしはそう言うと獲物を期待する獅子のように目を細めて明日から戦う敵に対して心の底から期待して微笑んだ。
わたしは強者との戦いを望んでいる。
強者とは戦闘力の高さだけではない。戦いに対する気構え、そして戦意である。
この最弱国は戦う気概がまるで無かった。役人としての最低限の仕事しかせず、わたしに勝つ気はさらさら見えなかった。
いや最初から負けるつもりだったのかも知れない。最小限の損失で早々に負けるつもりだったということだろうか。
そんなものではわたしの戦いの渇望が満たされることは一切無かった。
だからわたしは次の戦いに期待している、この星を支配する国家との戦いを。
強者との心身を焦がす程の戦いをわたしは望んでいるのだ。
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
お読み頂きありがとうございました。
ブックマークのクリック、(☆☆☆☆☆)のクリックで応援頂ければ嬉しいです。
ご感想もお待ちしております。