第27話 覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽(うつのみや るしは)の反撃!!
この地球と呼ばれる星に存在する最後の大国『ムガルカリィ国』。
その首都であるアグゥラ上空に全長数キロの巨大な城が浮かんでいる。
『覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクス』。
このわたし覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽の居城であり宇宙船。
その広大なヴァーンニクスの船内の中央にある謁見の間。
わたし、宇宙宮 瑠詩羽は上座の中央にある玉座に腰をかけている。
側に控えるハクリュウがわたしに書簡を手渡した。
わたしは一通り目を通し確認したあと、自身のサインをしてハクリュウの手に戻した。
「それではこの星の代理統治をムガルカリィ国に委任しましょう。この書簡をムガルカリィ国の王の元に送りなさい」
「姫様、御意」
ハクリュウの手から書簡が消えた同時に、ひとつの小さな光球がヴァーンニクスの下部から排出され、眼下に見えるムガルカリィ国の王の城である大統領官邸へと吸い込まれていった。
ムガルカリィ国はこの地球という星で最後に生き残った大国である。
この星の上位5大国であった常任理事国。
この星の支配国家であったホワイトクロス国とその周辺国全て。
ホワイトクロス国の手足であった巨大グローバル企業群、通称『GODAM』。
そしてこの星の最弱国家ではあったが文明レベル、資本力は高かったニホン国。
その全てはこの星から既に消失した。
もはや力でムガルカリィ国に敵う存在はこの惑星上では存在しない。
だが常任理事国のひとつであったエイ国が世界各国に展開していた情報機関がひとつに纏まって、元々関係が深かったムガルカリィ国に協力している。
そして実際にムガルカリィ国とエイ国の連判での書状がわたしに送られて来ているのである。
エイ国はかつてはこの星の支配国家であったらしい。
そのしたたかさで持ってムガルカリィ国を実効支配し、これから再びこの星を支配していくのかも知れない。
だがわたしにとってはそんなことは些事である。
この星を治める者共が、ホワイトクロス国や『GODAM』の様に、自らの繁栄の為に種の滅亡すら目論む『滅き物』の思考を持つ者共で無ければ、わたしはそれで良いのだ。
わたしは謁見の間の玉座から立ち上がると、わたしの前に居並ぶ配下の名を呼んだ。
「覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクス!」
「はい、マイマスター」
「エドガン!」
「あいよ、姫さん!」
「ウィナ! フィナ! ティナ!」
「「「ハイ! 姫サマ!」」」
「幻雷獅子皇獣アルマレオン!」
「うおおおん!」
「女神型機動兵器シルフィール!」
「はい、我が主」
「空也!」
「はい、瑠詩羽様!」
「ハクリュウ!」
「姫様、ここに!」
「わたし達はこれから大宇宙の絶対的支配者である宇宙覇帝の大宮殿、『宇宙覇帝城グランディアス』に帰還します!
我が父、宇宙覇帝は言いました!
『地球の最弱国ニホンに住まう最弱の人間を常に生きたまま側を置くという枷を付けた身の上で、追放先の地球を手早く征服して見せよ。それが出来れば命は助けてやろうではないか!』と!
わたしはこの星の王であった『魔深』を討ち、その命令を達成しました!
そして『魔深』はこの大宇宙の全てを滅ぼす存在である『滅き物』。
生きとし生けるもの全ての敵です、それを見事に討ったわたしの功績を宇宙覇帝は無視することはできません。
この次元多層力場キューブに時空凍結保存した『魔深』の首を持って、わたしは父に宇宙宮皇家の復帰を願い出ます!
そして、今やわたしたちはこの地球に追放された時とは比較にならない程の勢力を持っています。
わたしの功績と今の勢力であれば宇宙覇帝はわたしの宇宙宮皇家の復帰を無下に断ることは出来ないでしょう!
それでは帰還前に一度、わたしの現状戦力をその目で確認しておきましょうか?
ヴァーンニクス、この地球の衛星軌道上に指定した”各空中城”との合流宙域地点に飛びなさい!」
「了解、マイマスター」
覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクスはこの星の衛星軌道上に向け浮上を開始した。
足元の都市はみるみる内に小さくなっていく。
周囲が暗くなり、宇宙空間に達したヴァーンニクス。
その隣の空間が歪んで巨大な城が空間跳躍して来た。
燃え盛る炎の城、『炎國火宮殿シャイナダルク』。
その城からまるで小型の太陽の様な巨大な火球が撃ち出されてヴァーンニクスに迫り来る。
その火球は衝突寸前に掻き消えて、わたしたちが居る謁見の間に瞬間移動して来た。
燃え盛る灼熱の火球が霧散して、その中から焔を思わせる足まで届く長い赤髪、紅蓮色の豪華絢爛なマントを身に纏った一人の少女が姿を現した。
「ただいま瑠詩羽、どうやら地球でのアンタの用事は全部終わったみたいね。アタシのほうも終わったわ」
「おかえりなさい舎留那。という事はあなたの領地惑星での配下たちの説得はもう終わったのですか?」
「うん終わったわよ、基本的にアタシの配下達はアタシの決めることに文句は無いってスタンスだからね。
説得と言うか単なる報告ね、アタシたちが全部まとめて瑠詩羽の傘下に入るっていう内容のね」
「…本当に良かったのですか舎留那?
あなたは恒星姫の名でこの大宇宙に名を馳せる宇宙覇帝国のもう一人の次帝候補なのですよ。
その立場を捨ててわたしの傘下になるのは惜しいのではありませんか?」
「前々から言っている通りよ。アタシは力だけなら次帝だろうけど、頭を使うことはからっきしだからね、次帝は瑠詩羽のほうが断然ふさわしいわ。
それに今からアタシたちが渡り合おうとしている宇宙覇帝は大宇宙を統べる圧倒的な存在よ。
それぞれ個々でぶつかるより、瑠詩羽を中心にひとつの力に纏めたほうが良いに決まっているわ」
「舎留那…ありがとうございます」
「今更良いってことよ、アタシとアンタの仲だしね。
という訳だから、空也ともこれからは”同僚”ってことになるのかしら?
改めてよろしくね空也」
「はい、よろしくお願いいたします舎留那さん」
「フフフ…職場恋愛というのも乙かしらね? 空也?」
「…えっ!? ええと…」
「ちょっと舎留那! ここは職場での恋愛は禁止ですからね!」
「えー? 別にいいじゃないのよ!
まあ良いわ、それならプレイベートで思いっきりやらしてもらうから」
「ウィナも毎日空也ノ部屋デ個人的ニ奉仕シマスー」
「うわーメイドさん大胆! アタシも負けてられないわ!」
「ちょっと待ちなさい二人とも! 二人とも云わばわたしの配下なのですから!
ここは主人であるわたしに遠慮というものを見せてですね、身を引いて、空也をわたしに譲るということは無いのですか!?」
「…なんでよ。そもそもアンタにはハクリュウが居るでしょ!」
「姫サマハ自重スルベキデスー」
「二人とも今さら何を言っているのですか?
わたしは無限の欲望を持つ覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
自らの欲を抑え込むなど在り得ません。
わたしには空也も必要なんですよ!」
「姫サマハゴウツクバリデスー」
「瑠詩羽! そんなに空也が欲しいならこの恒星姫、舎留那を倒していくことね!」
「姫様。このハクリュウ、愛弟子である空也君をやすやすと渡す訳はいきませぬぞ!」
「…ちょ、ちょっと待って下さい! 何ですかこの様相は? わたし、皆に何だか叛意を起こされてませんか?」
「…恋愛とそれは関係無いってことよねえ?」
「カンケイナイデスー」
「私は師弟愛ということになりますが、姫様への忠誠とは別物と捉えて頂きたいものですな」
「大体空也は瑠詩羽を女神様と思ってはいるけど、何の恋愛感情も抱いていないって聞いているわよ」
「…えっ? わたし初耳ですよ!? そうなのですか空也? わたしのことが好きでは無かったのですか?」
「はい、瑠詩羽様…僕には女神様は恐れ多くて…その、ごめんなさい!」
「…えっ…? えええ……?」
「アハハ! 瑠詩羽の奴、空也に真正面から振られてるじゃないの!」
「姫サマ、ゴ愁傷サマデシター」
「そ、そんな…この覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽が…またしても振られるなんて…そんなこと…」
わたしは目の前が真っ暗になるのを感じた。
口の中が急速に乾いていく。
わたしはこの場で盛り上がっている全員に何か文句を言おうとしたが、水槽を泳ぐ観賞魚の様に口をぱくぱくさせるだけで、何の言葉も浮かんで来なかった。
呆気に取られているわたしを尻目にヴァーンニクスはこの地球の衛星軌道上に到達した。
そこに錚々(そうそう)たる空中城が集まっていた。
私は大宇宙を統べる次帝、宇宙宮 瑠詩羽として気を取り直した。
まずは宇宙宮皇家の第四皇女で、この度わたしの配下になった宇宙宮 舎留那の『炎國火宮殿シャイナダルク』。
燃え盛る炎に包まれたその空中城は全てを焼き尽くす紅蓮の炎を自在に行使する攻防一体の強力な炎の宇宙要塞である。
舎留那が自身の領地惑星から連れて来た直属の精鋭の配下である『炎國七火将』、『恒星姫直属軍10万』がその船内に待機している。
舎留那の側の空間に常に控えている二つの存在、幻獣『幻炎虎神獣グレンタイガ』、機神『鐘天龍火玖』もとてつもない戦力。
そして何より、シャイナダルクの主である宇宙宮 舎留那。
わたしに並ぶ宇宙宮の最高戦力の戦姫としてこの大宇宙に名を轟かせて来た恒星姫であり、頼もしい事この上ないわたしの妹である。
次はかつて宇宙宮皇家第一皇子、導名雅が座乗していた『白極星王殿ファレンザン』。
空間次元跳躍機能、光速航行、絶対防御光壁、惑星級破壊砲といったヴァーンニクスと同等の武装を備えた強力な宇宙要塞である。
その船内の格納庫には導名雅自身が開発した次世代の最新鋭機である自立式人型機動兵器『フレイア』が収められている。
ファレンザンはわたしが導名雅を討ち取った時に降伏してわたしの配下に降っていたのである。
「エドガン、ファレンザンの船内にあった導名雅が残した疑似女神型機動兵器『フレイヤル』の設計図の再現はどうなってますか?」
「姫さん、儂の技術を組み合わせて”疑似”なんてケチ臭いことは言わせねぇ! 100パーセントの女神型機動兵器『フレイヤル』を再現出来たぜえ!
あと、第一皇子の設計図には不完全だが第94宇宙ファーズ銀河の4柱の機械仕掛けの女神の残りの2柱、水の女神と地の女神のものもあった。
こちらも時間を掛ければ再現出来るとは思うぜえ」
「流石ですねエドガン。そしてファーズ銀河の4柱の機械仕掛けの女神は本来は四身一体で真の力を発揮すると聞きます。4柱の女神を全て蘇らせることができれば頼もしい戦力となるでしょう。頼りにしてますよ」
「任せときな、姫さん!」
そして次はかつて宇宙宮皇家第二皇女、愛衣羅が座乗していた『水麗毒蛇長城ヒガンバレイズ』。
ヴァーンニクスの三倍以上の全幅の城の全体には巨大な花とイバラを生やした巨大肉食花ビオランティスが巻き付いてる。
城に生息するビオランティスとヒガンバレイズの長城壁に仕込まれた無数の砲門と一体となって高い攻撃力を発揮する強力な長城宇宙要塞である。
ヒガンバレイズもわたしが愛衣羅を討ち取った時に降伏してわたしの配下に降っていた。
この空中城の下部には愛衣羅がこの大宇宙中から集めてきたと思われる多数の巨大希少生物の卵が収納されており、ヒガンバレイズはこれらを孵化させる揺り籠の様な機能が有る様である。
この希少生物たちを上手く育て上げていければ大きな戦力になるだろう。
最後はかつて宇宙宮皇家第十皇女、第十一皇女の双子姉妹である紅留亜、慈留亜が座乗していた『双子宮要撃城シンクロナイズ』。
ヴァーンニクスの2倍以上の全幅を誇る、巨大な二連結宇宙要塞。
シンクロナイズもわたしが双子姉妹を討ち取った時に降伏してわたしの配下に降っている。
その城壁に配備された無数の巨大な砲はここに居並ぶ宇宙宮皇族の錚々(そうそう)たる空中城の中でも最も高い火力を持ち、単体で惑星規模の大艦隊と渡り合い殲滅可能な程の強大な戦力を有している。
そして空中城では無いが、宇宙宮皇家第七皇子、鬼琉扶に付き従っていた『闇子蜘蛛』が、わたしが鬼琉扶を討ち取った後に降伏してわたしの配下に降っている。
子蜘蛛とはいえ、『闇巨蜘蛛』の眷属である彼等は強力な戦力である。
ただ、彼等に悪いのだがわたしは虫が苦手なのである。
そこで彼等は舎留那の下に配下として預けることにした。
わたしと同等の力を持つ戦姫である舎留那ならば、強力な力を持つ彼等をも上手く使いこなしてくれるだろう。
そして舎留那の領地惑星に、導名雅、愛衣羅、鬼琉扶、紅留亜、慈留亜の領地惑星も全てわたしの傘下に加わった。
わたしの元領地惑星の民も新しく治めに来た皇族の配下に抵抗して、未だにわたしに従ってくれている。
グランディアスに残して来たわたしの配下、『覇帝姫八天将』、『覇帝姫直属軍10万』とはわたしたちがグランディアスに到着次第合流する。
同じくグランディアスに残して来たヴァーンニクスの乗員、メイド、メカニックの一同もほとんどが再就職せずにわたしを待っていてくれた様で、約束通り再雇用する手筈である。
「覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクス、亜空間航行を開始しなさい! 目的地座標は宇宙覇帝の本拠地、宇宙覇帝城グランディアスです!」
「了解、マイマスター。本船を亜空間跳躍完了後、亜空間航行に入ります」
覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクス、
炎國火宮殿シャイナダルク、
白極星王殿ファレンザン、
水麗毒蛇長城ヒガンバレイズ、
双子宮要撃城シンクロナイズ。
5つの巨大な空中城は地球の衛星軌道上から次々と亜空間跳躍して消えていく。
そして亜空間に入ると、ヴァーンニクスを先頭に亜空間航行モードに入った。
船の外は亜空間時流が荒れ狂う景色、グランディアスに着くまでこの調子は続く。
しばらくの間は亜空間旅行という訳である。
わたしはマントを翻すとわたしの側に控えているハクリュウに言葉をかけた。
「私の最も信頼する忠臣ハクリュウ、ずばり問いましょう。
このままわたしがグランディアスに戻って、今持てる全ての勢力を纏めて、宇宙覇帝に対して勝機はどれ程あるのでしょうか?
かつて宇宙覇帝の腹心として仕えたあなたの目から、忌憚なき意見を述べなさい」
「はっ、姫様。勝機というよりは、ようやく対話が出来ると言ったレベルがせいぜいでしょう」
「ふふふ、わたしは地球に追放される前より大きく勢力を拡大しました。
そして皇族兄姉弟妹たちを倒し、その果てに『魔深』をも倒したことで個としての戦闘力をも大きく向上させました。
それでもまだ宇宙覇帝に遠く及ばないとは自覚はしてはいましたが…かつては宇宙覇帝の懐刀と呼ばれたあなたの口からそうはっきりと言われてしまうと、なかなか心に来るものがありますね…。
しかしあなたの余裕ある物言いから感じるに、宇宙覇帝に対抗出来る考えがある様に思えます。
ならば、その考えの全てをわたしに申して見なさい」
「はっ、姫様。このハクリュウの考えはシンプルなものでございます。
まずはひとつ。わたしたち個の戦闘力を向上させれば良いのです。
この私、ハクリュウは姫様から生命力を頂いて、命を長らえて、若さをも取り戻すことが出来ました。
これならば鍛錬によって全盛期に近い力を取り戻すことも可能ではないかと思います。
そして私の愛弟子である空也君。彼と私は至極相性が良い。
私が師として全ての技を効率よく教え込む事によって、短期間でその戦闘力をまずは私の全盛期の半分にまで引き上げられると確信しております。
そして姫様とその配下のものたちには奇しくも同質同格同士の力を持つ者が多くいます。
実力が伯仲した者同士の組手での鍛錬は最も効率よく互いの力を向上させることが可能になります。
お互いに切磋琢磨し合うことによってその戦闘力を大きく引き上げるのです。
この方法で戦闘力を向上させていければ宇宙覇帝と対話だけではなくより好条件での交渉をも可能となるでしょう。
この大宇宙でも同質同格の力を持つ者同士はなかなか巡り合うことはありません。
ましてや敵同士ならともかく同じ陣営内でともなれば、それはごく稀なケースとなりましょう。
故に私もこの方法での戦闘力向上の考えこそあれ、実行には至れぬ夢物語と思っていました。
ですが、この度の姫様の地球での戦いの結末において実行が可能な現実物語となったのです。
これは他らなぬ姫様の徳によるものではないかと私は思います」
「ふふっ、徳とはわたしには最も縁遠い言葉でしょう。
わたしと同格の存在と言えば舎留那です。
そして舎留那の配下とわたしの配下も同格であると言っていいでしょう。
つまりこれは全て私の傘下になってくれた舎留那のおかげと言えるでしょう。
わたしは母を失ってしばらく経ってから舎留那に出会い、すぐにお互い意気投合し親睦を深めましたが、同時に良く喧嘩もしました。
その時期にわたしと舎留那は大きく力が伸びていた様なのですが、なるほどその様な理由があったのですね…。
それでは今日から同格同士の者たちは互いに組手の鍛錬をすることとしましょう。
そしてこれがひとつめということなら、ふたつめもあるということですね?」
「はっ、姫様。
次は我らの勢力に下った元皇族領地惑星から、優れた力を持つ者たちを見極めて戦力として組み入れることです。
グランディアスに到着する迄にこれらの領地惑星を見て回って、彼等を姫様の新たな配下とし更に鍛え上げて、戦力の拡大を図りましょう。
何しろ姫様の今の領地はこの地球に来られる前と比べると、5人の皇族の元領地が加わって4倍以上の領地拡大となりましたから。
新たな戦力の拡大についてはかなりの見込みはあると思います。
そして最後ですが、この大宇宙を統べる宇宙覇帝に反感を持つ者は少なくはありません。
宇宙覇帝の圧倒的な力で抑えられているそれらの者たちが、大きく勢力を増した姫様に降るもしくは協力するということも起きてくるでしょう。
彼等も姫様の勢力として組み入れて、更なる勢力の拡大を図るのです。
「なるほど考えていますね、流石はハクリュウです。
二つ目と三つ目の考えはある程度は希望と未来性に基づきますから確実性ではありません、よって過剰にはあてにする事は出来ないでしょう。
つまりひとつめの考えが今出来る最も重要ということになりますね。
同格同士の組手の鍛錬というのはわたしでは思い浮かびませんでした。
空也を短期間で鍛え上げることも出来なかったでしょう。
ましてやあなたがいなくては戦力が大きく落ちてしまっていました。
これからの戦いの為にも、やはりあなたを生き永らえさせるというわたしの判断は間違っていなかったということですね」
「このハクリュウ、姫様にお褒めの言葉を頂き、感謝至極でございます」
「ですがハクリュウ、わたしがあなたを生かしたのはそういう打算が抜きでもあったことも忘れてはいけませんよ!
宇宙覇帝を倒す策を練り上げることはわたしの最も信頼する忠臣としては最も大切な事でしょう。
…ですがわたしの最も愛する男として、わたしの思いに答える事も大切な事なのですよ!」
「はっ、姫様。ですが恐れながらお言葉を返すならば…それとこれは別物でございます」
「ふふふ、手ごわいですね。
次帝になることと、あなたをわたしの虜にすることは同じ難度かも知れませんね。
いや、もしかするとあなたのほうが手ごわいということも…?」
「…どうですかな?
ですが姫様、このハクリュウはたやすくは落ちませぬぞ?」
「ふふふ…あはは!
わたしは覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
無限の欲望を持つ真の次帝たる存在なのです!
わたしは欲しいものは全て手に入れますよ!
次帝の座も!
この大宇宙も!
ハクリュウあなたの心も!
障害は強ければ強いほど奪いがいがあるものです!
それを得た時の達成感も至極なのです!
宇宙覇帝も!
この大宇宙の様々な強者共も!
そしてあなた、ハクリュウも!
全ての者はせいぜい首を洗って待っていることですね!」
「流石は姫様…素晴らしく強き御心です!」
「アハハ! 流石は瑠詩羽ね! 次帝として申し分のない覇気よ!」
「ありがとうございます、ハクリュウ、舎留那。
ですが今のわたしの個の実力ではまだまだ宇宙覇帝には遠く及びませんね…悔しいですけれど」
「瑠詩羽一人じゃねえ? でもアンタにはアタシが居るでしょ!
それにハクリュウも居る、空也も居る、アンタの配下にアタシの配下もいる、だからそんなに簡単にはやられないわよ!
まっ、グランディアスでもし父上と戦闘になったらなったらで! 捨て身でぶつかって片腕ぐらいもぎ取ってやるわよ! アハハ!」
「ふふっ、舎留那はやはり頼りになりますね。
グランディアスに着く迄はかなりの時間があります。
早速、わたしの組手の鍛錬相手をお願いしても良いですか?」
「アハハ! それは良いわねえ!
それじゃあ時間が許すまで、お互いを鍛え上げるわよ瑠詩羽!」
「ならば空也君、私達も鍛えようか、これから君にはじっくりと私の技を教え込みたい」
「はい、ハクリュウさん。僕のほうこそよろしくお願いいたします!」
わたしと舎留那、ハクリュウと空也はそれぞれヴァーンニクスの船内にある訓練領域に瞬間移動すると、鍛錬を開始した。
大宇宙の絶対的な支配者である宇宙覇帝と少しでも渡り合えるように。
わたしも舎留那もまだまだ若いのだ。
まだまだ伸びる、強くなれる。
そしていずれは、宇宙覇帝よりも!
わたしの光速の拳の連撃が舎留那に降り注ぐ。
舎留那も光速の拳の連撃で私の拳を迎撃する。
わたしたちの超光速の蹴りが交差して相殺する。
わたしの放った破壊の光と舎留那の放った破却の炎がぶつかり合って、破壊と破却のエネルギーの嵐が吹き荒れる。
わたしは破壊の闘気を纏って極光速で飛ぶ。
対して舎留那も破却の闘気を纏って極光速で飛んだ。
「舎留那っ!」
「瑠詩羽あ!」
わたしと舎留那の全力の拳がぶつかり合い、その衝撃で巻き起こった凄まじい力の余波が、多次元防壁で覆われて一次元のみの戦闘であれば壊れない筈の訓練領域を大きく揺るがした。
******
わたしは数多の宇宙を統べる宇宙覇帝の大宮殿、惑星ひとつをまるごと城とした途方もなく巨大な宇宙覇帝城グランディアスの謁見の間を歩んでいく。
そこには宇宙覇帝の配下の者と上級民衆、数百万が並び、その上座には数多の皇族、貴族が並ぶ。
そして最上座の玉座は大宇宙の絶対的支配者・宇宙覇帝が鎮座している。
わたしは謁見の間にただ一人ひざまづいた。
並の人間ならば見られただけでその身を焼かれる様な宇宙覇帝の凄まじい視線に屈することなく、わたしは宇宙覇帝を見上げると、この大宇宙の絶対的支配者を強い視線で見返した。
「わたしの父上であり、この大宇宙を統べられる偉大なる宇宙覇帝よ。これが『魔深』の首でございますわ」
次元多層力場キューブに時空凍結保存した『魔深』の首はわたしの手からふわりと飛んで、宇宙覇帝の手に停まった。
「ほう…これが『魔深』という存在の首か。この大宇宙を滅ぼすという存在だけあって醜悪なものよのう」
「父上、『滅き物』である『魔深』はこの大宇宙の生きとし生けるもの全ての敵ですわ。
それを見事に討ったわたし宇宙宮 瑠詩羽は、この功績で持って宇宙宮皇家への復帰を願い出ますわ!」
「我が娘、瑠詩羽よ…良かろう! その多大な功績に免じて、お前を我が宇宙宮皇家に復帰することを認めようではないか!」
「ありがとうございます、父上」
「はっはっはっ、我が娘、瑠詩羽よ。地球に行って随分と見違えたな。
力も率いる勢力も依然と比べ者にはならぬわ。
…どうだ瑠詩羽?
この勢いでこの我と今、”手合わせ”するという気は起きんか?」
「いいえ、父上。私はまだまだ未熟な若輩者ですわ。
とてもこの大宇宙を統べれられる宇宙覇帝と手合わせなど出来ませんわ。
…ですが時が来たら、”手合わせ”のお相手を務めたく思います」
「はっはっはっ、その時が来るのが楽しみよのう、瑠詩羽」
「しばしお待ち下さいね、父上。そう長くは待たせませんわ」
わたしと宇宙覇帝の間の”目には見えない圧”が謁見の間を揺るがした。
この場に居た全ての者達は理解した。
この大宇宙の新たな覇権戦争がこの瞬間から始まったことを。
これを機に様々な勢力が動き出すだろう。
わたしと舎留那以外で残った皇族弟妹は4人。
彼らは父に付くのか、わたしに付くのか、独立した動きを取るのか。
大宇宙における宇宙宮皇家に付く勢力は父に付いたままか、それともわたしに付くのか。
そして大宇宙には、宇宙宮皇家に敵対する勢力も数多いる。
邪神竜メディアスより遙かに強い竜もこの大宇宙にはごまんといるのだ。
今回の戦いで宇宙宮皇族は大きく数を減らした、それに付け込んで彼等は戦いを仕掛けてくるだろう。
更にはこの大宇宙を滅ぼす『滅き物』である、『魔深』、『魔』も滅んではいない。
彼等はこのあまねく大宇宙にどれだけ潜んでいるのだろうか。
そしてその闇の底から、わたしたち宇宙宮皇家を、そして生きとし生けるもの全てを滅するべく様子を伺っているのだろう。
これからもこの大宇宙における戦いの火種は尽きないだろう。
だがわたしは覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
わたしに刃を向けてくる存在は全て討ち滅ぼす。
わたしが気に入らない存在は全て討ち滅ぼす。
わたしの大切なモノに害をなす存在は全て討ち滅ぼす。
ただそれだけである。
「わたしは覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
わたしの戦いはまだ、始まったばかりなのです」
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
お読み頂きありがとうございました。
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