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第26話 滅き物(めきもの)の卵。

 ベイ国。この地球と呼ばれる星において、この星を支配するという5つの大国『常任理事国』のひとつ。

 5つの大国の中でも最も強いとされ、”名目上の”星の支配国家であったが、6日前にわたしに制圧されて国家としては既に消失している。

 そのベイ国本土の辺境地帯に通称『エリア・ファイヴワン』と呼ばれる広大な地域がある。

 わたしは自分の居城であり宇宙船ふねである、覇帝姫宮殿要塞はていききゅうでんようさいヴァーンニクスをその『エリア・ファイヴワン』上空に停めた。


「ここですかハクリュウ? 『シルフィア』が『GODAMガッデム』を掃討中に見つけた面白いものというのは?」


「はっ、姫様。この地域に『GODAMガッデム』が所有する大規模地下施設の存在を確認いたしました」


『エリア・ファイヴワン』はベイ国軍が管理する軍基地である。

だがベイ国の全ての軍基地は6日前にわたしがベイ国に侵攻した時に、わたしの忠実な機械の戦士である自立式人型機動兵器オートアーマー『シルフィア』によって無力化されている。

この『エリア・ファイヴワン』の軍基地もその例外に漏れることなく、地上部分の施設は全て消失している。


 わたしはこの星を治める者として、地球人口の減滅という愚行を始めた巨大企業群、通称『GODAMガッデム』とそれに関わるもの全てを消す事にした。

 その絶滅作戦の最中で『エリア・ファイヴワン』に『GODAMガッデム』が所有する大規模地下施設をハクリュウが見つけたのである。

 わたしはヴァーンニクスの床全面モニターから『エリア・ファイヴワン』を見下ろした。

 かつて地上部分に建っていたベイ軍基地を支えていた地上部分は『シルフィア』によって既に除去されて、そこには街がすっぽり収まる程の巨大な穴が広がっていた。

 『エリア・ファイヴワン』の下には広大な地下空間ジオフロントが隠されていたのである。





 少し時を戻そう。

 わたしはハクリュウからこの地球と呼ばれる星の制圧状況の報告を聞いていた。


「姫様、自立式人型機動兵器オートアーマー『シルフィア』7機をこの地球の衛星軌道上に配備しました。

7つに分けた地域を常時監視させ、叛意の兆しがあれば直ぐに対応する手筈としております。

現在の地球の情勢ですが、エイ国が世界各国に展開していた情報機関の残党がひとつにまとまって、エイ国と関係が深く現在の地球における最後の大国『ムガルカリィ国』と手を組んでこの星の長に成ろうと画策している様です」


「そうですか、エイ国の残党とムガルカリィ国はこの星で残った力を集めてわたしに反抗しようとしている訳ですね?」


「いえ、そうでは無い様です。この星に残った各国を纏め上げた暁には、改めて瑠詩羽様の配下に加えて頂きたいと、エイ国とムガルカリィ国の連判で書面が送られてきました」


「ふふっ、なるほどそういうことですか。残された地球人国家の代表として、一番の部下としての名乗りを上げて来たということですね。

良いでしょう、わたしはこれ以上この星での無為な争いは望みません。

エイ国とムガルカリィ国がこの星を纏め上げるというのなら、この星の代理統治を任せても良いと返事をしなさい」


「姫様、御意。それから現在の地球の情勢についてもうひとつお伝えを。

ベイ国に所在する巨大企業の頭文字を取った通称『GODAMガッデム』と呼ばれる巨大グローバル企業群が、『この地球の常任理事国を始めとする大国の全ては、宇宙人が撒いた【宇宙毒酸素】というモノで無力化されて滅ぼされた』と虚伝きょでんして回っております。

そしてその宇宙毒酸素を無毒化する効果を持つという薬を『GODAMガッデム』の影響化にある製薬大企業『マザー』が開発したとも触れまわっています」


「宇宙毒酸素? 何ですかそれは? わたしは初めて聞く言葉ですけれど」


「宇宙毒酸素は私も初耳です。『マザー』が開発したという宇宙毒酸素を無毒化する効果を持つという薬をこちらで調べてみました。

これは簡潔に述べますと、地球人の寿命を縮め死に至らせる猛毒でした。

つまり宇宙毒酸素とはこの猛毒を含んだ薬を地球人に投与させる為の虚伝です。

私が調べたデータによると『GODAMガッデム』は『ホワイトクロス国』の忠実な僕…いや手足。

その思考も主義も『ホワイトクロス国』と同じ旨とするものです。

『ホワイトクロス国』の意思を継ぎ、地球人類の人口を10分の1に減滅するという彼等の宿願を、この毒薬をこの惑星に住まう全ての人間に投与させることで叶えるつもりと思われます」


「なるほど、そういうことでしたか。

この大宇宙を滅する『滅きめきもの』であった『魔深ましん』。

それを王として頂いていた『ホワイトクロス国』は生き物のことわりを外れ、死人しびとの思考を持っていました。

しかし『魔深ましん』も『ホワイトクロス国』も、この惑星上から永遠に消えたというにも関わらず、未だに死人しびとの思考を持ち続けてそれを実行しようとしている者共がいようとは…。

この地球の全ては、既にこの覇帝姫はていき宇宙宮うつのみや 瑠詩羽るしはの領土。

勝手に地球の人口を減らすことなど、このわたしが許しません。

ハクリュウ、『シルフィア』を『GODAMガッデム』と『マザー』の元に送りなさい。

その毒薬ごと何もかも、この星から永遠に消してあげなさい」


「姫様、御意。…む、エイ国とムガルカリィ国も『GODAMガッデム』の企みに気付き、これらを排除して見せるとの連絡が来ております。

彼等は『GODAMガッデム』の地球人減滅計画を止められる自信がある様です。

ですが、私はこのまま『シルフィア』を展開させて『GODAMガッデム』と『マザー』に関連する全てを焼き払うべきと具申します。

命の尊さはこのハクリュウ、身に染みて理解しているつもりです。

自身のみの繁栄の為に同胞を殺し、生物の種そのものを滅びへと向かわせるという、生物として狂った行動をする彼等を、私は到底看過することは出来ません」


「良いでしょうハクリュウ。全ての生きとし生けるものを統べる次帝であるわたしも、あなたにの考えにまったく同感です。

この地球の衛星軌道上に配備した7機の『シルフィア』はそのまま監視任務を続投。

GODAMガッデム』、『マザー』、それらに関連する全て、を完膚なき迄に焼き払えるだけの『シルフィア』を別部隊として展開させ、この星の後顧の憂いを完全に絶ちなさい!」


「姫様、御意!」


 自立式人型機動兵器オートアーマー『シルフィア』は完全自立型の無人機、遊びも様子見も無く淡々と命令を執行する忠実な機械の戦士。

 ハクリュウによって編成、指示された鋼の巨人たちは、光線砲ビームカノン、空間跳躍機能、亜光速移動、防御光壁ライトウォール、次元剣、空間切取砲デジョンカノン、その全身に装備された様々な兵装を臨機応変に使用して『GODAMガッデム』、『マザー』、それらに関連する全てを消していく。

 『GODAMガッデム』、『マザー』の本社はベイ国本土にあるが、その関連、配下の企業群はこの惑星上に無数にある。

 『シルフィア』はそれらの全てに一切の躊躇も無く武装を振るって、ひとつづつ確実に消していった。

 ベイ国を始めとする常任理事国、ニホン国、そしてこの星の支配国家ホワイトクロス国、それらの軍はとうの昔に消失し、この星の最後の大国ムガルカリィ国はわたしに降伏している。

 『シルフィア』の行動を阻害するものは何も無かった。


 生物種というものは繁栄の絶頂にあるように見えて、ある日突然に何かのはずみで瞬く間に絶滅することがある。

 それは敵性生物によるものであったり、環境の急激な変化であったり、病原体であったりと様々な要因がある。

 生物種は自身の種の増減、興亡をコントロールすることは出来ないのだ。

 これは大宇宙のことわりである。

 故に生物は常に産み増えて、常に生息地を広げて、常に絶滅を防ぐ為に行動していく。

 これが生き物としてのことわりである。


 だが『GODAMガッデム』は、ホワイトクロス国と同じく、自分たちの繁栄の為だけに現在の地球人口を10分の1の10億まで減らすと言う。

 生物種の数が10分の1まで減るという事態は、そのまま滅亡に行きつく可能性がとても高いおそるべき危険事態でなのである。

 自分達の繁栄の為だけにその様な己の種の絶滅を図るそれは生き物の理を逸脱している。

 この大宇宙の全てを喰らい尽くして全てを滅する存在、『滅きめきもの』の思考にも似た、『死人しびと』の思考である。

 この地球の全ては、既にこの覇帝姫はていき宇宙宮うつのみや 瑠詩羽るしはの領土。

 わたしは生きとし生けるものを統べる次帝として、我が領土での 『死人しびと』の跳梁跋扈ちょうりょうばっこは許さない。


 わたしは自立式人型機動兵器オートアーマー『シルフィア』には『GODAMガッデム』に関連しないものへの被害は極力控えるように命令を出してはいるが、『GODAMガッデム』に関連するもの全てに対しては一切の容赦はしない。

 『死人しびと』の思考を持つ者は生き物ではない。

 故に手加減は全く持って無用なのだ。

 全てを殺して、焼き払って、この星から一片も残さず消滅させるのみである。

 その『GODAMガッデム』絶滅作戦の最中、状況を常に確認していたハクリュウがベイ国本土の辺境地帯『エリア・ファイヴワン』に大規模な『GODAMガッデム』の地下施設を確認したという訳なのである。





 「これは…その規模は小さいですけれど『ホワイトクロス国』の巨大地下空間ジオフロントに似ていますね。

 『ホワイトクロス国』が巨大地下都市をまるごと内蔵した巨大地下空間ジオフロントならば、『エリア・ファイヴワン』は中規模な地下都市を内蔵した地下空間ジオフロントといった所でしょうか?」


 わたしとハクリュウ、そして彼の弟子として付き従う空也は、地下空間ジオフロントの底へと降下を開始した。

 と、同時に地下空間ジオフロントの奥底から戦闘機の一群が上がって来た。

 『ライトニングⅡ』。

 今まで相手にして来た戦闘機の型のひとつ、名目上はこの星の最新鋭の機体にあたるらしい。


「まだわたしに歯向かう者が居たのですね。良いでしょう、相手をしましょうか!」


 わたしが両手をかざそうとしたその矢先、ハクリュウと空也が飛び出して、戦闘機群の眼前に躍り出た。


「姫様が出るまでもありませぬ、ここは私たちにお任せを、行くぞ空也君!」


「はい、ハクリュウさん!」


 空也はハクリュウに似た形の白い鎧を纏い、腰にハクリュウと似た形の剣を差している。

 その二つの立派な装備は、ハクリュウが改めて自身の正式な弟子とした空也の為に贈ったものらしい。

 二人は腰から剣を抜くと、音速で向かってきた『ライトニングⅡ』に剣を振りかぶる。

 真っ二つになる鋼鉄の攻撃鳥。

 と、同時に二人の剣の刀身から斬撃波ざんげきはが生まれて、先ず切り裂かれたされたライトニングⅡの後続を飛行していた機体のことごとくをバラバラに切り刻んだ。


 二人はそのまま地下空間ジオフロントの底へと降下していく。


 わたしも彼等に先導される形で地下空間ジオフロントの降下を開始した。


  降下していくわたしたちに向かってスパークを纏った白い砲弾が一斉に発射された。

 『電磁砲レールガン』。

 この星の”真の最新鋭の兵器”のひとつ。

 ホワイトクロス国で見たものと同じである。


 ハクリュウと空也が剣を振るうと電磁砲レールガンの白い砲弾は真っ二つに切り裂かれて霧散した。

 電磁砲レールガンの砲門が次々と地下空間ジオフロントの壁面から迫り出して射撃してくる。

 わたしは手をかざしてその砲門を薙ぎ払おうとしたが、その前にハクリュウと空也が凄まじい速度で斬撃波ざんげきはを無数に放った。

 それらは電磁砲レールガンの砲門に次々と突き刺さってそのことごとくをたちどころに無力化した。


 電磁砲レールガンを無力化させながら降下して行くハクリュウと空也。

 そんな二人目掛けて突如、全身をプレート状の鎧に包んだまるで機械人ロボットの様な姿をした者たちが、背中のロケットブースターから火を吹かせて高速飛行して襲い掛かった。

 『機械鎧人アイアンヒューマン』。

 テクノロジーで作り上げた機械の鎧でその身を包み、肉体自体も改造した戦士。

 この星の”真の最新鋭の兵器”のひとつ。

 これもホワイトクロス国で見たものと同じである。

 彼等はあるものは鉄拳を叩き込んで、またあるものは蹴りを叩き込み、あるいは手をかざしエネルギー波を撃ち放ってハクリュウと空也に攻撃を仕掛ける。

 だがこの場で一番弱い空也でさえ、ホワイトクロスの底での異空間での戦いで、この星の文明レベルではまるで敵わない強さを持つ『エビィル』を倒してるのだ。

 今さらこの程度の者が来られても二人に取っては何の障害にもならないのである。

 その鋼の拳も、蹴りも、エネルギー波も、その微力な攻撃ごと、全てまとめて二人の剣に切り裂かれて、『機械鎧人アイアンヒューマン』の身体はバラバラになって霧散した。


「…それにしても空也、その可愛い顔に似合わず立派な鎧を着て凛々しい態度で抵抗者共を排除していく姿は格好いいですよ。

 まだまだハクリュウには及びませんけれど、成長していずれは、わたしの頼れる配下になってくれることを心から期待してしますよ」


「はい、瑠詩羽様!」


 空也は屈託のない笑顔を浮かべた。

 わたしもつられて笑顔になった。



ハクリュウが回復した後の空也とのやり取りが不意にわたしの脳裏に思い出された。


わたしはこの星の王であった『魔深ましん』を討ち滅ぼした。

宇宙覇帝が宣告したわたしが生き残るための為の命令達成条件、『地球の最弱国ニホンに住まう最弱の人間を常に生きたまま側を置くという枷を付けた身の上で、地球を手早く征服して見せよ』を無事に達成した。

わたしは命令達成条件のひとつであった”最弱のニホン人”、空也を奴隷から解放し、自由の身とした。

だが彼はこれからもわたしに仕えたいと言う。

わたしは空也を気に入っている、その申し出は嬉しい限り。

ならば遠慮なく小姓として側に置こうとしたのだが…舎留那しゃるなとウィナから横槍が入ったのである。


「ちょっと待ちなさい瑠詩羽! 空也を小姓になんかしたらアンタの超コングパワーで毎日手籠めじゃないの! それじゃあ奴隷の時と何ら変わらないわよ!」


「超コングパワーとか言わないで下さい! あと無理矢理じゃないです! ちゃんと空也をその気にさせてからしますからね!

それに空也はいつも最後は悦んでくれますから! これは完全に同意の上なんですからっ!」


「姫サマハー、ハクリュウガ居ルノデスカラー。モウ空也ノコトハ、イッサイ忘レテクダサイー」


「何を言っているのですかウィナ!

わたしは無限の欲望を持つ覇帝姫はていき宇宙宮うつのみや 瑠詩羽るしはなのですよ! 

自分の欲望に嘘を付くなどあり得ません!

確かにわたしはハクリュウを最も愛する男と自覚しました。

そしてわたしが無意識のうちに空也にハクリュウを重ねて、求め続けていたという事実も認識しました。

ですがそれでも!

ハクリュウと空也は別人なのですよ!

つまりわたしが空也を求めるこの気持ちは、ハクリュウへの気持ちとはまた別の、わたしの純然たる気持ちなのです!

わたしには空也も必要なのですよ!

…大体、空也以外に誰がわたしの性欲を満たしてくれると言うんですか!」


「アンタそれじゃあ空也の身体だけが目当てじゃないのよ…」


「姫サマハー、ハクリュウノ身体ヲ求メタラ良イト思イマスー」


「…えっ、ええ…でもハクリュウはわたしのこと…まだ全然振り向いてくれませんから…。

そんな…身体を求めるなんて…わたしにはまだとても…そんなことしてハクリュウの気持ちが離れたら怖いですし…」


「そこで今更、処女おとめ全開なの瑠詩羽っー!?」


「…まあそういうことですから空也。

わたしにはあなたが必要なのです。

さあ、これからはわたしの小姓としてずっと側にいて下さいね」


「…えっ…ええと…」


 じりじりと後ずさりしていく空也。

 ちょっと待ちなさい空也! 逃がしませんよ!

 わたしは歩みを速めて空也を追い詰める。

 だが次の瞬間、空也のをかばう様にハクリュウが立ち塞がった。


「それでは姫様。空也君は私の配下とさせて頂きますが宜しいですかな?」


「えっ?」


「空也君は大切な愛弟子、これ以上姫様の毒牙にかかるのは見ておられませぬ」


「ど、毒牙とは随分と言ってくれますねハクリュウ…。

つまりあなたは、このあるじたるわたしを差し置いて、空也を優先すると言うのですか!?」


「私は姫様の忠実なしもべでございます。

そして空也君は私の全てを受け継がせる大切な愛弟子。

空也君はいずれ姫様の最も信頼すべき配下となるでしょう。

つまり姫様の忠実な僕であるこのハクリュウ、姫様の未来のために愛弟子の若い目は摘ませませぬと言うことです。

空也君の身は私が責任を持ってお預かりいたしましょう」


「…えっ? ええっ…?

わたしの未来の為にわたしから空也を守ると…?

それって…何か…おかしく無いですか…?」


「アハハ! 流石ハクリュウ! 上手く言ったわねえ!」


「ハクリュウさん…ありがとうございます」


「気にするな空也君、年寄りは先ある若者の為に盾になるものだ」





 …こうして空也を小姓にするというわたしの望みは断たれてしまったのである。


 空也がハクリュウの配下になってからは、わたしは彼の身体に一度も触れていない。

 それまでは連日空也とあんなにも身体を重ねていたのに。

 わたしは先行して地下空間ジオフロントに降下していく空也に見つめた。

 彼は凛々しい顔つきで、少し前までの可愛い彼とはまるで別人の様に見えた。

 わたしの中に怒りの感情がふいに沸いた。


「…空也の癖に何か生意気ですよ」


 私は降下速度を上げて瞬く間に空也に追いつくと、彼の顔に自身の顔を近づけた。


「…る、瑠詩羽様、何を?」


 空也の表情に動揺の色が見て取れた。

 可愛い…やはり空也はこうでないと。

 愛しいわたしの空也。

 もっと彼を困らせてみたい、わたしの悪戯心がうずく。


「ふふっ、空也はそんな立派な鎧を着ているから、そんな済ました態度がとれているのかも知れませんね。

それではその鎧を無理やり脱がしたらどうなるでしょうか?」


「何を言っているんですか瑠詩羽様!? や止めてください! ここは敵地なのですよ! この様な場所でそんなお戯れなど!?」


「なるほどその言い分はありますね、それでは今から大浴場に行きましょうか? そこでなら問題ありませんよね?」


「い嫌です瑠詩羽様! 僕はここでハクリュウさんの配下としての仕事を!」


「ふふふ、あなたはハクリュウの配下ですけれど、わたしの配下でもあるのですから。わたしの相手をするのも立派な仕事ですよ? ねえ…空也?」


 生意気にもわたしに口答えをしながら空也は少しづつ後ずさっていく。

 逃がさない、わたしは獲物を仕留めようとする獅子の様に瞳を細めて彼に詰め寄っていく。


「姫様、お戯れはそこまでにして頂けませぬか?」


ハクリュウが空也の前に割って入ってわたしを制した。


「はあ…冗談ですよハクリュウ。ちょっと生意気な空也に悪戯しただけですから。…おや? 底が見えてきましたね」


 わたしたちは『エリア・ファイヴワン』の全ての抵抗勢力を排除し、地下空間ジオフロントの底へと降下した。

 その中心には白く輝く見るからに頑強そうな防壁に包まれた巨大な建造物があった。





 この『エリア・ファイヴワン』と呼ばれる地域はベイ国の軍の基地。

 つまりベイ国軍がこの地域を護っていたのである。

 だが実際はその基地の下に大規模な地下空間ジオフロントが隠されており、そこには『GODAMガッデム』が所有し、管理する地下都市があった。

 そして都市を守る為に、この星の最新鋭の戦闘機群が配備され、更にはベイ国には配備されていなかったこの星の”真の最新鋭の兵器”も配備されており、この地下都市の重要度はベイ国の王であったプレジテントよりも高かったのである。

 この周到に厳重に隠された『GODAMガッデム』の地下都市は、ホワイトクロス国の巨大地下都市を思い浮かばせた。


「『GODAMガッデム』はホワイトクロス国と同じ志、同じ思考を持つものと聞いてます。

なるほど、欺瞞情報で全てを覆い隠し、穴倉にこそこそと隠れ潜んで、大切なものを隠すという、その小賢しく下らない思考はまさに同種と言えるでしょう。

それでは、あなたたちが御大層に隠していたその大切なものとやらを見せてもらいましょうか?」


 わたしは地下空間ジオフロントの最底の中心に在った巨大な建造物に向けて手をかざした。

 その建造物の外側だけを粉々に吹き飛ばし、塵も残さず消滅させ、その中身を白日の下に晒した。

 そこには巨大な箱の様な機械が鎮座していた。

 その巨大な箱の右隣には巨大な水槽のようなものがあり、その中には裸の地球人が無数に浮いていた。

 水槽と巨大な箱を挟んで反対側は巨大な透明の壁の部屋の様になっていて、中には人型の機械が無数に安置されていた。


「ハクリュウ、これは一体何なのですか?」


「姫様、しばしお待ちを。ふむ、これは」


 ハクリュウは自身の前に立体モニターと立体コンソールを展開させると目の前の施設の調査を始めた。

 瞬間即席携帯食ならば出来上がっている程の短い時間を経て、ハクリュウはその調査結果を報告した。


「この都市を管理する『GODAMガッデム』のデータベースに繋ぎ、私の思考を同期させて調査しました。

この箱型の機械には『GODAMガッデム』の首領たちの人格データが収められている様です。

この星では『AI』という不完全な自立式思考データがある様ですが、この箱の中の人格データはこの星における”真の最新鋭の技術”で持ってオリジナルの人格を100パーセント再現していると彼等のデータベースは示しています。

箱型の機械の右の水槽に浮いている地球人は生体培養された『GODAMガッデム』の首領たちの身体、左の透明な壁の部屋に収められている人型の機械については緊急事態時の首領たちの身体とのことです」


「なるほど、わかりました。

此処は『GODAMガッデム』の首領たちの云わば、生体バックアップの為の施設だったのですね。

GODAMガッデム』の首領たちはさしたる抵抗も無くシルフィアに討たれた様ですが、この施設があったからというなら納得が行きますね。

オリジナルが死んだ瞬間にこちらの人格データを培養した身体に移して起動させるという手筈だったのでしょう。

その際に脆弱な人の身体では危険な状況だった場合は、丈夫な機械の身体を使って身の安全を図ると言うことですね。


この施設が完全に作動しているのなら『GODAMガッデム』の首領たちは”永遠の命”を得ていると理屈ではなりますね。

つまり彼等は自分たちの命が永遠に担保されているからこそ、地球人口を著しく減滅させて地球人類種の滅亡を誘発するという生物の理を逸脱した愚行をしたということにもなりますか。

なるほど、ホワイトクロス国の者たちも自分たちだけが人間であり、自分たち以外は虫ケラと言っていましたね。

自分たちのみが永遠に生き残り繁栄すれば、種自体が滅んでも良いという思考はまさに同種と言えますね。

おそらくホワイトクロス国の首領格の人間の生体バックアップの施設もあの巨大地下空間ジオフロントの何処かにあったのでしょう。

あの地に在った施設はわたしが例外なく全て消し飛ばしましたから、その機能を果たすことは無かったですけれどね。


ですがこの大宇宙に於いて永遠というものは存在しません。

それが大宇宙の絶対的なことわり

ましてや永遠の命などあり得ません、どんなものにも終わりがあります。

それが生き物のことわり

この大宇宙を統べるわたしたち宇宙宮皇家とていずれ終わりが来るでしょう。

この大宇宙の膨大な時間軸の中では全ては儚き一時の出来事なのですから。


人格のデータ化、代替えの身体に入れ替わり続けて永遠の命を得るなど、所詮は机上の空論でしかあり得ません。

この大宇宙のあらゆるものは全て終わりがあるのです。

ましてや地球人レベルの所詮は子供の砂遊び程度の技術テクノロジーで何が出来るというのです?

笑わせますね。

いや笑うにも値しないくだらない愚行です。

そもそもハクリュウ、この『GODAMガッデム』の首領たちの人格データはオリジナルを100パーセント再現していると彼等のデータベースは示しているとのことですが、”実際のところ”はどうなのでしょうか?」


「はっ、姫様。この人格データは実際は疑似的なもので、とても地球人の思考を完全に再現できるほどの技術ではありません。

劣化した人格データと言いましょうか、人の振りをしたデータと言ったほうが正しいかも知れません。

そして生体培養された身体も完全に地球人の身体を再現しているとは言い難いですな。

実際に使ってみると色々と”支障”が出ることでしょう。

機械の身体のほうは培養された身体に比べるとそれなりに出来も良く、地球人の身体をかなりの率で再現はしてはいます。

ただ、人格データをこの身体に完全に移せるかは、この程度の技術レベルでははなはだ懐疑的ですな。

これは培養された身体についても同じかと。

これらの身体に移す段階で人格データは劣化をしていくと私は思います」


「つまり人格データ自体が不完全なものにも関わらず、人格データを別の身体に完全に移す技術も無く、人格データを移される別の身体自体も不完全なものということですね。

それは既にオリジナルが死んだ『GODAMガッデム』の首領たちからすれば残念な結果でしたね。

彼等はベイ国を取り込んで、多大な資源を、資金を、技術を注ぎ込んで、自分たちだけが永遠に生きこの星を支配し続ける為に、この様な施設を作ったのでしょう。

それが全く、これっぽっちも、報われなくて、滑稽こっけいで、可笑おかしくて、まったくもって…くだらないことですね」


「同意です、姫様」


「ですがこの人の振りをした不完全な人格データも、不完全な身体も、放っておくことは出来ません。

何故ならば、彼等の思考はこの大宇宙の全てを喰らい尽くして全てを滅する存在、『滅きめきもの』の思考にも似た、『死人しびと』の思考だからです。

わたしはこう思うのです。

案外、この様な不完全なモノが何かのはずみで突然変異を引き起こして、『滅きめきもの』になるのかも知れないのでは…と。

もしかするとこれは、『滅き物の卵』なのかも知れません。


『滅きめきもの』である『魔深ましん』はかつて、このわたしに言いました。

【入れ知恵…? 導いて来た…? ワレハそこまでの手はかけておらん…あくまで最初のきっかけを与えたに過ぎん…その発想を、その発明を、自らの意思で思いついたと思わせただけ…あとはこの星の人間が勝手にやっていること…】と。

あの化け物は地球人を取るに足らない只の餌でしか考えていませんでしたから、それは紛うことなき事実なのでしょう。

ですが『魔深ましん』が与えたそのきっかけ自体は、地球人に『滅きめきもの』の思考を確実に植え付けたのでしょう。

その思考の植え付けが地球人を非常に低い確率とは言え、『滅き物の卵』に変化させる要因ともなっていたというのなら…『魔深ましん』という存在モノはどこまでも小賢しくも、抜かりなく、危険極まりない化け物だったということですね。


ハクリュウ、空也、わたしの側に寄りなさい。

僅かとは言え、『滅き物の卵』と成りえる可能性を持ったこの施設の全ては、この大宇宙の全ての生あるものを統べる次帝として、このわたしがその責を持って消しましょう」


「はっ、姫様」

「はい、瑠詩羽様」



 わたしは両手を手をかざした。

 そして破壊の意思を乗せた言葉を最大音量で叫んだ。


「消えなさい!」


 手のひらから放たれた破壊の波動と破壊の意思を込めた声で形成した破壊の音空域。

 二重の破壊の力がわたしを中心に球状にどこまでも広がっていき、この『エリア・ファイヴワン』のことごとくを、ひとつの例外も無く塵に変え、完全に無に還した。





 ※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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