第23話 魔深(ましん)。
「…ワレハ『魔深』。
この真宇宙を喰らい尽くし滅する存在。
この宇宙にあまねく全てはワレワレの糧。
この大宇宙を支配するお前たち宇宙宮皇家とて同じ。
覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
恒星姫、宇宙宮 舎留那。
サア、共に、我が贄となるがイイ…」
化け物の身体がぶれて9つの身体が重なった姿になった。
9つの異なる次元に自身を存在させて、9つの多次元から同時に攻撃を仕掛ける『多次元複合同時攻撃』である。
これに対抗するにはこちらも多次元複合同時攻撃しかない。
わたしも舎留那も化け物と同じ、9つの身体が重なった姿を展開する。
わたしと舎留那と化け物の9つの身体は互いにぶつかり合う。
わたしたちの拳と蹴りと、化け物の触手。
わたしたちの破壊の光と破却の炎と、化け物の魔滅の破撃。
互いの凄まじいエネルギー同士の衝突から起きる衝撃波動で異空間全体が揺れた。
異なる9つの次元で衝突するエネルギーは共鳴し合って単一次元での戦闘よりも空間に与える影響は大きい。
わたしは破壊の意思を込めた瞳を輝かせ、破壊の意思を込めた手をかざす。
「消えなさい! 化け物!」
そして破壊の意思を込めた言葉を最大声量で叫び破壊の音空域を形成する。
わたしの三重の破壊の意思が共鳴しあい、絶対的な破壊のフィールドが形成される。
そしてその破壊のフィールドの中にわたしは全力の破壊の光を解き放った。
四重の破壊の力が9つ重なって、9つの多次元の化け物に同時に突き刺さった。
だが次の瞬間、化け物の姿は9つ全てが消え失せてわたしの空振りした破壊の力の衝撃音のみが空間に響き渡る。
どこに隠れた?
9つの次元のどれとも違う?
わたしは五感を感覚を研ぎ澄ませた。鼻を突く匂いが僅かに。
ここか!
わたしは9つの次元に存在させていた身体をひとつに戻すと、その匂いがする空間に次元跳躍して破壊の力を込めた渾身の蹴りを叩き込んだ。
舎留那も同時にその次元に跳躍して破却の炎を込めた渾身の蹴りを叩き込む。
化け物の身体は宇宙宮皇家の最高戦力として大宇宙に轟かせるふたりの戦姫が放った渾身の蹴りに吹き飛ばされて、赤い体液をまき散らしながら異空間の底に叩きつけられた。
「…バ、馬鹿ナ…多次元9層域の底のND-88XTG時間流域力場空間に隠した我が本体を…こんなに容易く探し出せるとハ…」
「オマエ、臭いのよ!」
「その生き物であれば心底忌み嫌うような、酷く臭い匂いに塗れたその身で、隠し果せると思いましたか? この愚か者が!」
「…オノレエ! たかが生き物の分際で…全てを喰らい滅する至高の存在であるワレをッ!!」
化け物の触手が再現無く伸びて、まるで世界樹の根を彷彿させるが如く無数に枝分かれした。
そしてその無数に分かれた触手の先から魔滅の破壊光線が無限の流星の如く一斉射された。この異空間を破壊の光線で完全に埋め尽くす。
この大宇宙にあまねく強者でも回避し続けることも防御し続けることも敵わないであろう全面包囲波状攻撃。
だが宇宙宮皇家の最強の戦姫であるわたしと舎留那がそんな程度の攻撃で止められると思ったか化け物。
わたしと舎留那は”力場”を展開し化け物が放つ破壊光線の雨嵐の中に突っ込んだ。
少々熱いがこんなものは少し熱いシャワーの様なものと割り切ればいい。
そして自身の五感を研ぎ澄ませて感覚を広げ、破壊光線の斉射力が弱い所を察して、その空域へ、その空域へと次々と瞬間移動を繰り返す。
そうやってわたしたちは瞬く間に化け物への間合いと詰めると、渾身の力を込めた拳をその趣味の悪い黄金色に輝く岩の塊の様な身体に叩き込んだ。
がぎぃん! という音と共にわたしたちの拳が宙に止まった、化け物は障壁を展開して攻撃を防いで見せたのだ。
だからどうした。わたしたちは怯むことなく渾身の力を込めてハイキックを障壁に叩きつける。
ぴきぃと音を立てて障壁がひび割れる。
わたしたちは続けて拳を障壁に叩き込む。
ぱぎぃいん! という音と共に化け物の障壁が粉々になって消え去った。
「舎留那、行きますよ!」
「瑠詩羽、行くわよ!」
わたしと舎留那は化け物を挟み込むように間合いを取ると、同時に力場を展開、化け物の動きを封じ込め、同時に力を集中、同時に全力全開の蹴りを見舞った。
「「二極交差破壊斬滅蹴!!」」
わたしと舎留那の息の合った完璧な二人同時攻撃技。
ふたりの戦姫の同格の力が対象敵性体に衝突しそこで拮抗することで互いのエネルギーがどこにも逃げることなくその場に踏みとどまって、その敵性体に破壊の力と破却の炎を余すことなく浴びせ続ける技。
「…ク、ウウ…グギャアアアアアアーー!!」
化け物はふたりの戦姫の破壊のエネルギーと破却のエネルギーに全身を引き裂かれて、赤い血を吐き、その全身から血を噴き上げ、苦悶の絶叫を上げた。
生き物ですら無く、『滅き物』である滅びの化身の『魔深』とて、血が出るのなら殺せる、滅ぼせる。
わたしと舎留那は手をかざして追撃の破壊の光、破却の炎を猛射した。
超光速で撃ち出されるわたしたちの攻撃が化け物の身体を撃ち貫いて焼き払っていく。
「…低俗な生き物如きがアッーー!!」
化け物は触手を伸ばし、その逆さの白い顔にある空虚な瞳を輝かせた。
異空間そのものに衝撃が走り、破壊の波動がこの空間全てを覆っていく。
これまでにないとてつもない力がこの場に満ちて、化け物を中心に収束していく。
この異空間そのものを吹き飛ばしてこの星はおろか、この銀河系ごと全てを無に還すもりか。
「…消えテ無くなるがよい宇宙宮の戦姫よ! 我が『魔滅の破撃波動』を喰らうがイイ!!」
化け物の瞳から、この異空間全体を揺るがす恐るべき威力の破滅の波動が放たれた。
「やああっーー!!」
「はああっーー!!」
わたしと舎留那は同時に両手をかざした。
わたしの全身全霊を込めた破壊の光と、舎留那の全身全霊を込めた破却の業火。
ふたりの戦姫のとてつもなく強大な力は混じりあい、全てを破壊し燃やし尽くす『破壊の炎』と化して、化け物が放った『魔滅の破撃波動』にぶつかり合った。
そして、銀河をも引き裂く威力の『魔滅の破撃波動』を圧し返し、そのまま化け物の黄金色の巨大な身体を粉々に吹き飛ばしてその欠片も完全に消滅させた。
しかし化け物の全身が消滅する最中、その最上部に乗っていた白い顔が黄金色の身体から千切れる様に外れて飛び去ると、空間へと溶け込んで消えていった。
「待ちなさい!」
「逃げるなっ!」
わたしたちは感覚を広げて化け物が次元跳躍して逃げた先を探った。
そして化け物が次元跳躍し終わる前にその次元を特定して跳躍、先回りして回り込んだ。
そして、わたしたちの前にのこのこと次元跳躍して来た化け物の顔を掴んで、力場で抑え込んで逃げられない様にした。
「…馬鹿なア!? 何故、次元跳躍した先のワレをこうも正確に捉える事ガアッ!」
「だから言ったのです、臭いですって!」
「だから言ってるのよ、臭いんだって!」
「…オノレェ…化け物共ガァ…」
「ふふっ、あなたにだけは化け物呼ばわりされたく無いですね!」
「化け物の中の化け物なオマエにだけは言われたくは無いわね!」
「…クファファファファ…ワレを倒しても別の『魔深』がオマエ達の前に現れるであろう…いずれオマエ達はこの真宇宙ごと消えて無くなるのだ…先に…滅びの終焉時空の彼方で…待っているゾオ……クファファファファーー!!」
「…それがあなたの”今際の際”の言葉ですか?
ふふっ、月並みの台詞でしたね。
それではごきげんよう、さようなら、全てを滅する化け物とやら」
「消えなさい!」
「燃えなさい!」
「…グギャアアアアアアアアアアアアアーー!!」
わたしと舎留那は化け物の頭を同時に握りつぶした。
化け物は粉々に砕かれ、その欠片は炎に包まれて、塵になって、この大宇宙から完全に消え去った。
異空間に亀裂が入りそこから様々な色彩の波動が漏れ出した。
そして空間そのものが揺れだして凄まじい轟音が響き渡る。
この異空間を作り出し維持していた『魔深』が消えて、この異空間は崩壊を始めているのだ。
この空間は小さな宇宙とも呼べるものであった。
今、ひとつのセカイが消えようしている。
小さいとはいえ、宇宙の消滅によるエネルギーをまともに受けてはただでは済まない。
わたしたちは空間跳躍でこの空間から急ぎ脱出した。
覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクスと炎國火宮殿シャイナダルクも巨大地下空間の底から漏れ出てくるとてつもないエネルギーに気付いた。
「おいおい、このままだとまずいんじゃねえか? 姫さんたちが心配だが、預かっているこの城も、自立式人型機動兵器も壊すわけにはいかねえしなあ。
ヴァーンニクス、空間跳躍でこの星の衛星軌道上に退避するぞ!」
「了解ですエドガン、空間跳躍先の軸固定完了。シャイナダルク、あなたも退避なさい」
「だが、まだ我が恒星姫様が戻られなくては…いや来られたか」
わたしたちはヴァーンニクスとシャイナダルクが浮かぶ空域まで一気に空間跳躍した。
「ヴァーンニクス、異空間が爆発します、急ぎここから退避しますよ!」
「了解です、マイマスター」
「シャイナダルク、アタシたちも退くよ!」
「了解した、我が姫」
ふたつの巨大な空中城はわたしたちを力場で包むと、共にこの星の遙か上空の衛星軌道上へと空間跳躍移動した。
そして次の瞬間、巨大地下空間の底からとてつもないエネルギーが噴き出してそれは幾重もの光の柱となって天へと登った。
それは巨大地下空間を全て吹き飛ばすだけに留まらず、周囲の大地に伝わってこの『ホワイトクロス国』の全ての大地に波及した。
ひとつの小さな宇宙にも匹敵する異空間を構成していた莫大なエネルギーの全てがこの地から一気に放射されて外へと飛び出していく。
この『ホワイトクロス国』は永遠中立国を謳い、その名のもとにこの星の全ての力を集め、この星を永遠に支配することを望んだ。
資金、資源、技術、人材、戦力、といった地球人類の持ちゆる力を全てを手中に収め、実際に現在の星の支配国家ではあった。
だがこの大宇宙において永遠というものは存在しない。
ハイジ山脈に沿って、とてつもないエネルギーが地中に波及して広がっていく。それは『ホワイトクロス国』の領内だけには留まらず。周辺国すべてに広がった。
そして、そのとてつもないエネルギーは、地上へと、空へと、宇宙へと、解き放たれた。
永遠中立国は、周囲の国々諸共、莫大なエネルギーの放射に巻き込まれてこの地球と呼ばれる星から、文字通り『永遠』に消滅した。
しかし国の消滅などはこの地球と言う星にとっては所詮、些事である。
星にとっては毛穴がひとつ無くなった様なものでしかない。
人と星の時間感覚は全く違う。
人の言う100万年が星の1日なのである。
星で言うところの明日になれば新たな毛穴が生まれる、ただそれだけなのである。
地球と呼ばれる星にとっては、その表面に住まう虫けらの糞の如き地球人の動向など些事である。
虫けらの糞程度の存在が星に何の影響を与えるというのか。
もしその程度の存在が星に影響を与えられると思うのならば、虫けらの糞如きが驕りも甚だしい事この上ないと言うことなのだ。
そして、たとえこの星が消え失せようとも、この大宇宙にとっては些事である。
この星で起きた何もかも、全てのことが、この大宇宙にとっては所詮些事でしかないのである。
このわたし宇宙宮 瑠詩羽とて、この大宇宙の膨大な時間軸の中では所詮、瞬く一時の出来事でしかない些事なのだから。
「やったわね瑠詩羽! これでこの星の征服は完了よ! 父上が言う助命の為の命令達成条件も果たせたわね!」
舎留那はわたしの身体に抱き付いて腕を回しながら笑いかけた。
「ありがとう、舎留那!」
わたしは彼女の手に自身の手を添えて微笑み返して、めいいっぱいの感謝を伝えた。
「おめでとうございます、姫様」
わたしの最も信頼する忠臣ハクリュウが跪いて謝辞を述べた。
「…ですが恐れながら、まだひとり倒すべき相手が此処におります」
ハクリュウはその腰から剣を引き抜くと、その刃を突然に空也に突き付けた。
「姫様。この少年を殺されたくなければ…この私、ハクリュウと戦って頂きたい」
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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