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第2話 東京に落ちる。

 亜空間航行ロケットは地球の大気圏上に到達すると中に積まれていたわたしを地上へと向けて無慈悲に撃ち出した。

 これは本来、惑星侵攻中の軍に武器を補給する行動の一連である。

 わたしは拘束具を付けられたまま何処かの街の路地に落とされた。


 わたしは首輪で戦闘力を封じられているので、着せられている拘束具のせいで自由に身動きは出来ないが五感は正常に機能している。

 いくつもの人の気配。そして目つきの悪い男たちがわたしを取り囲むとまるで荷物を運ぶように担ぎ上げて何処かへ向けて運び出した。

 手に持った小型の機械端末に向けてけたたましく喋っているがわたしには地球語はわからない。

 だがヒト型の精神構造はそう変わるものでは無いだろう。

 わたしは自身の精神を拡大させて男たちの精神に触れる。

 そして地球人の精神構造を把握するとそこから言葉を理解し、わたしの言葉に合わせて言語リンクさせた。

 少々強引だがこれで地球語は理解できるようになった。わたしが喋る言葉も地球人に理解できるだろう。


 わたしは身動きはとれないまでも目を動かし耳を澄まし鼻を吸って周囲の様子を探った。

 ギラギラしたネオンの看板、性病科と大きく書かれた診療所、怒声で叫ぶ男の声、嘲笑にまみれた女の声、淫欲に喘ぐ男女の声、香水と酒と薬と精の匂い。

 陰惨とした場末感の街である。

 男達はうらびれた路地の一角の胡散臭い看板が立つ店の中ににわたしを運び込んだ。

 そして男達はわたしに施された拘束具をいとも簡単に除去していく。

 今のわたしは戦闘力を封じられているのでこの拘束具は地球人レベルでも取り外すことが可能な程度の貧弱な強度ではあるのだが、それにしても手際が良過ぎる感がある。

 この男達はいつもこういう事に手慣れているということか。


 わたしは男達に薄布で透けた服の様なモノを着るように指示された。

 何だこれは? これではほとんど裸の様なものでは無いか?

 どうやら男たちはこの服を着て男の劣情を誘い身体を売って客を獲れと言っている様だ。

 あはは! この覇帝姫はていき宇宙宮うつのみや 瑠詩羽るしは売女ばいたをやれというのか!

 面白い冗談であるがこれを利用しない手は無いだろう。

 わたしは怯えた表情を見せ従順にしたがう素振りをした。

 男達は下卑た表情で笑った。どうやらわたしの演技に満足したようだ。


 わたしは小さくて粗末なベッドのある部屋に通されて外から施錠された。

 しばらくするとガチャリと扉が開いて禿げ頭の肥満体の男が部屋に入って来た。

 その男は服を脱ぎその醜い身体を晒すとわたしに抱き着いて来た。

 正直気持ち悪くてこの上ないのだがここは我慢のしどころである。

 その醜悪な男は鼻息を荒く立てながらガチャガチャと腰のベルトを外すと下半身を露出させわたしを粗末なベッドへと押し倒した。

 そしてわたしに覆いかぶさるとその汚い身体をわたしに押し付けてきた。

 男のカラダがわたしに触れたその瞬間、わたしはそこを起点にして自分の身体の表面を切り離して反転させた。

 着ている薄布の服も爆弾付きの首輪も巻き込んで反転したわたしのカラダの表面は醜男の全身を包み込む。

 そして次の瞬間、首輪は外されたと感知し爆発する。

 しかし表面の皮一枚とて覇帝姫はていきと呼ばれたわたしの強靭な肉体である。

 星の表面を焼き払う程の火力といえども、わたしの肉体に完全に包まれてしまってはその威力を発揮することは出来ない。

 その爆発力は反転したわたしの表皮の中で炸裂、それは一瞬巨大な風船の様に膨らんですぐ治まった。

 あの首輪は元々わたしを処刑する為ではなく、わたしが強引に拘束を解いた瞬間にこの地球を焼き払う為のシロモノであった。

 父の命は地球を征服せよということである。

 つまりわたしが強引に首輪を解除すれば、征服する地球が焼き払われてわたしは命令を遂行できなくなり、即処刑できるという腹積もりであったのだ。


 わたしは文字通り一皮むけてツヤツヤになった自分のカラダを見回した。

 問題は無し。あの醜男に触れられたカラダも全て消え去って言うこと無しである。

 邪神竜メディアスが戦闘中に脱皮して進化していたのを見様見真似でやってみたのだが、我ながら上手く出来たと感心する。

 まあわたしはメディアスの様に脱皮するたびに角が増えたり巨大化したりは出来ないが。

 そこへ男達が勢いよくドアを開けて部屋の中に入って来た。

 爆発力は抑えたものの、この建物内にそれなりに音は響き渡っていた様だ。

 男達はもの凄い勢いでわたしを問い詰めてきた。

 何があった? 客の男はどうした? あの男は区議員で上客だったんだぞとか色々抜かしているがそろそろわずらわしくなって来た。


「…五月蝿うるさいです、爆ぜなさい!」


 わたしの言葉は意志となって男達の耳に伝わり事象として具現化された。

 そして文字通り弾け飛んでその場から跡形も無く消え失せた。


 目の前の男達が一瞬で弾けて消えたことにこの店の売女共が恐怖の声を上げ、他の男達は棒状のものや銃を持ち出して集まって来た。

 更に騒がしくなってきた。わたしは今、思考の邪魔をされたくなかった。わたしは息を吸い込むと声を上げた。


「消えなさい!」


 わたしはこの建物内に響き渡る程の声量で言葉を放った。

 その声を聞いた人間全てにわたしの意思が伝わりその肉体は一瞬で消し飛んで肉片も残さずこの世から無くなった。

 静寂が訪れわたしは安堵した。さて、まずはどうするか。

 そういえばわたしは現在裸である、なるほどついさっきまで下賤げせんな者達にこの身を晒していたか。

 わたしの肌は決して安くは無いのだが目にした者は全員既に消去済み、あの世への駄賃替わりとしてくれてやることにした。


「ウィナ! フィナ! ティナ!」


「「「ハイ! 姫サマ!」」」


 わたしの呼びかけに答えて周りの空間が歪んで三人のメイドが姿を現した。

 彼女たちは滅亡したパミロン星の生き残りの三つ子、戦闘力は一切無いがわたしの身の回りの世話をしてくれる一流のメイドである。

 その素晴らしい奉仕力はわたしの力の原動力でもある。

 彼女たちはその迅速な手際でわたしの全身を拭いて磨き、髪をとかして結い上げて、衣服を着せた。

 わたしは覇帝姫の衣装に身を包むとその豪華絢爛ごうかけんらんなマントをひるがえした。


「ふふふ、あいかわらずの素晴らしい仕事です。ありがとういつも感謝していますよ」


「「「姫サマコチラコソー、ソレデハ御用件ガ有リマシタラ、イツデモオ呼ビ下サイマセー!」」」


 三つ子はそう言うと空間に消えていった。


「ハクリュウ!」


「はっ、姫様。ここに」


 わたしの呼びかけに応じて、子供の頃から仕えてくれている忠臣ハクリュウが何処からともなく現れてわたしにひざまづいた。

 頭の先からつま先まで全身を白い鎧に包み込んではいるがその中身は白髪の美青年である。

 ハクリュウが言うに自分の種族は若い時期が長く今の自分は年老いた姿、その醜く衰えた姿を隠すために全身に鎧を着けているということらしい。

 わたし個人としては隠すのは勿体ないとは思っているのだが。


「わたしの命令通りに来ていますか?」


「はっ、姫様のご指示通り最小限度の戦力を持参して地球に参りました」


 わたしがグランディアスから追放される前にセイリュウにアイコンタクトをした通りに動いてくれている。

 流石はわたしの腹心である。


「一度ヴァーンニクスに戻ります、続きなさい!」


「姫様、御意」


 わたしは地球の衛星軌道上に停泊していた自分の城であり宇宙船ふねでもある覇帝姫宮殿要塞はていききゅうでんようさいヴァーンニクスの前に瞬間移動する。

 その全長は数キロに及ぶ巨大な宇宙要塞でもある。


「おかえりなさいませ、マイマスター」


 ヴァーンニクスの電子音声が宇宙空間に響く。覇帝姫宮殿要塞は自我を持った生きた城なのだ。


「ただいま、ヴァーンニクス。早速だけど格納庫ハッチまで案内してくれますか」


「了解、マイマスター」


 ヴァーンニクスから瞬間移動光線テレポートビームが照射され、わたしとハクリュウはヴァーンニクスの船内にある格納庫ハッチに一瞬で跳んだ。


 そこには無数のメンテナンスロボットがせわしなく動きまわりそのメンテの相手である巨大な鋼の巨人が数多あまた、起立している。

 自立式人型機動兵器オートアーマー、『シルフィア』。宇宙宮皇族が使う一般的な人型機動兵器である。

 全長20メートル。空間跳躍機能、亜光速移動、防御光壁ライトウォール、次元剣、空間切取砲デジョンカノンなど様々な武装を持つ。

 完全自立式の無人機だが優れた指揮官が居れば更に高い能力を発揮する。

 この格納庫に収められた総数は120機。


「姫さん、幾らメンテロボが居るからって言ってもちょっと人手が足りねえなあ。もう少し増やしてくれないかねえ?」


 筋肉隆々の身体をして顔に深いシワを刻んだ老人の男は格納庫の中心にある端末機のキーボードを叩きながらわたしに声を掛けた。


「悪いですねエドガン、父があなたの部下のメカニックも含めてわたしの部下を全て獲り上げてしまいましたのでしばらくはこの調子になります。

惑星サーペニアンの白巨蛇を漬けたお酒を下賜かししますから、それでもう少しだけ頑張ってくれませんか?」


 わたしは片目をつぶって両手を合わせお願いをする。

 彼は機械に広い知識を持つマシンニスト族であり、一族は惑星間戦争で散り散りになってしまい独りで流浪していた所をわたしが召し抱えた一流のメカニックである。

 エドガンの手にかかれば自立式人型機動兵器オートアーマーもヴァーンニクスも300パーセントの力を発揮する。


「へっ、絶滅したサーペニアンの白巨蛇の酒とか大盤振る舞いじゃねえか? 姫さんにそこまでお願いされちゃあ仕方ねえからもう少し踏ん張ってみるかあ!」


「頼みます、エドガン」


「姫さん、任せときな!」


 わたしは格納庫ハッチを出るとヴァーンニクスの巨大な回廊を歩く。少し前までこの船に務めていた多数の乗員も全て父に獲り上げられ、誰も居なくなりがらんとなった船内を進む。

 すると前からパミロン星の三姉妹のメイド、ウィナ、フィナ、ティナが掃除道具を巧みに操りながらやって来た。彼女たちの後ろはピカピカに掃除されて輝いている。


「「「姫サマ! オ帰リナサイマセ!」」」


「ただいま、ウィナ、フィナ、ティナ。お腹が空きましたので食事の準備をしてもらえますか?」


「「「ハイ! 姫サマ! タダイマ!」」」


 パミロン星三姉妹はきびすを返すと、もの凄い勢いで飛んで行き、あっと言う間に見えなくなった。


「それでは食堂まで歩きながら現在のわたしの状況を確認をしましょう。ハクリュウ、まずはわたしの現戦力数を報告してください」


「姫様、御意。

覇帝姫宮殿要塞はていききゅうでんようさいヴァーンニクス。

自立式人型機動兵器オートアーマー『シルフィア』が120機。

メカニックが1人。

メイドが3人。

そしてこの私ハクリュウ。

以上でございます」


「父上や皇族連中に感づかれない様に最小限度の戦力で来なさい。というのはわたしの望みではあったのですけど、こう言葉にして具体的に戦力数を出されると結構くるものがありますね…。わたしが治めていた領地惑星はどうなっていますか?」


「替わりに治めに来た皇族の配下と軋轢あつれきが生じているの事、既に反乱の兆候が出ているとのことです」


「わたしは7日はこの地球から動けません、それまでで良いから抑える様に伝えなさい」


「姫様、御意」


覇帝姫八天将はていきはちてんしょうや覇帝姫直属軍10万はどうでしょう? 皆大人しくしていますか?」


「はっ、姫様の言いつけ通りに」


「時が来るまで別の主に仕えても構わないと伝えなさい」


「姫様、御意」


「ヴァーンニクスの乗員にメイドやメカニックはどうでしょうか? 再就職は上手くいっていますか?」


「皆、姫様がお選びになり雇い入れた優秀な者達です、何処に行っても引く手あまたで問題ありません」


「なら問題は無いですね、わたしが再起してからでも良いのならその時は再雇用するとだけ伝えておきなさい」


「姫様、御意」


「宝物殿、美食殿、モフモフ殿、後宮ハーレムはとうに飽きて解散済みでしたから抜け殻の建物ハコだけ獲られただけだし問題は無かったですね」


「姫様は無限の欲をお持ちになりながら飽きっぽいお方ですからな、大宇宙に名だたる宝物も、極上の料理も、愛玩動物も、美男美女もすぐに興味を無くされてしまう」


「常に新しい刺激を求めていると言って欲しいですねハクリュウ、それともあなたがわたしの相手をしてくれますか?」


「これはお戯れを。私如きでは貴方の御相手などとても務まりません」


「そうでしょうか? かつて父上の懐刀ふとごろがたなとして大宇宙に名を馳せ恐れられたあなたなら出来るとは思いますけれど?

宇宙宮皇族の女はこの大宇宙のあまねく生物種の中でもひと際強大な力を持つめすが故に、自身より弱い生物の雄の子種では子を成すことすら出来ません。

覇帝姫はていきと呼ばれるこのわたしを孕ませる程の強さを持った殿方はこの大宇宙でも父上とあなただけじゃないでしょうか?」


「姫様。それは私が全盛期の頃であればの話でございましょう」


「そう? ならそういうことにしておいてあげましょう。あら…食堂に着いちゃいましたね。残念、この話の続きはまた別の機会でしょうか」


 わたしは食堂の扉を開けた。

 そこには大宇宙の様々な星から集めた食材をふんだんに使った料理が大量に並べられていた。

 パミロン星の三姉妹メイドはわたしの側に来ると瞬く間にマントを外し食事用の衣服を着せた。


「流石は三姉妹、この短時間に見事な料理です。それでは早速、いただきます!」


 わたしはテーブルに並べられた料理をどんどん平らげていく。食い散らかすとかそういうことはしない。

 あくまで粗相そそう良く、汚すことなく、しかし迅速に、大量に口に運んで咀嚼そしゃくして胃に消化していく。

 食事は大切なモノである。食べたものが血肉となり心身を構成する。そして力になる。

 覇帝姫はていき宇宙宮うつのみや 瑠詩羽るしはを造り上げるモノはこの食事と言っても過言では無いのである。


「「「姫サマ!今日ノメイン料理ハ、邪神竜メディアスのヒレ肉ステーキ! ドウゾー!」」」


 わたしは先日倒した邪神竜の肉を口にした。幾つもの宇宙を支配し、八つの豊かな惑星をその領土としていた竜もこうなっては只の食材なのだ。

 肉の触感は良い、食肉として上質であろう。もう二度と獲れる食材では無いが。


「美味しかったですよ三姉妹。竜の肉感も良いですけど、それを料理する貴方達の腕前は見事と言ったところでしょう」


「「「姫サマー、オ褒メ頂キアリガトウー! 次ハ、デザートヲ、オ持チシマスー!」」」


「待ってください、デザートは結構です。少なくとも地球にいる間は不要ですからそう認識しなさい」


「「「姫サマー、了解デスー!」」」


 メイド三姉妹はそう言うと空になった大皿を下げて食堂の奥へ消えていった。

 デザート、甘いモノ、甘味は思考を鈍らせ甘い考えへと至らせ怒りの炎を弱らせる。

 復讐にたぎる今のわたしには甘味を摂り堕落する余裕は無いだろう。

 それは復讐を果たしてからたっぷりと摂れば良いのだ。

 そう思っていたわたしの前にメイド三姉妹は真っ黒な飲み物を差し出した。


「何でしょうかこの黒い水は?」


「「「コーヒー、コノ地球産の飲ミ物デスー!」」」


「へえ…これは変わった飲み物ですね」


 メイド三姉妹曰く地球産の豆を煮出ししたものらしい。

 なるほど豆の栄養で力が沸き立つのか?

 悪くは無い飲み物だろう。


「良かったです、今度からはこのコーヒーも食事メニューに加えておいてくださいね」


「「「ハイー、姫サマー!」」」


「ハクリュウ、これから謁見の間に皆を集めなさい。わたしから配下全員に言う事があります」


「姫様、御意」



 わたしはヴァーンニクスの船内中央の謁見の間に移動した。

 そこには既にわたしの配下たちが控えていた。

 わたしは玉座の前に立つと部下の名を呼んだ。


「覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクス!」


「はい、マイマスター」



「エドガン!」


「あいよ、姫さん!」



「ウィナ! フィナ! ティナ!」


「「「ハイ! 姫サマ!」」」



「ハクリュウ!」


「姫様、ここに」



「わたし達はこれから大宇宙の辺境中の辺境にあるこの地球という星を征服します!

我が父、宇宙覇帝は言いました!

『地球の最弱国ニホンに住まう最弱の人間を常に生きたまま側を置くというかせを付けた身の上で、追放先の地球を手早く征服して見せよ。それが出来れば命は助けてやろうではないか!』と!

わたしは死ねません、生きて次帝を継ぐという目的があります。その為には殺されるわけにはいきません! だからこの父の命を確実に実行する必要があるのです!

ですが逆に取れば、父のこの言葉通りに命令を遂行する限りわたしは決して殺されないという事です!

宇宙覇帝の公的な発言はこの大宇宙で絶対的な意味を持ち、それは宇宙覇帝本人もくつがえすことは出来ません!

命令達成期限は7日、これはわたしが決めました!

覇帝姫はていきと呼ばれ恐れられるこの宇宙宮うつのみや 瑠詩羽るしはがこの程度の星を速やかに征服できずに何が次帝なのでしょうか!

わたしはいずれこの大宇宙を支配します! 今回の地球はその為の第一歩となります! その歩幅は小さけれど大きな意味を持つ一歩となるでしょう!

あなたたちも持てるべき全ての力を持ってわたしに尽くしなさい!

共に生き残り、全てを掴み取るために!」


「「「ははっー!」」」


「という訳ですからハクリュウ、あなたはその兜を取り以後その素顔を晒しなさい」


「し、しかし姫様…私は…」


「老いて醜い顔を晒したくないということでしょうか? そんな取るに足らない恥は捨てなさい。それが持てるべき全ての力を持ってわたしに尽くすという証明になりましょう」


「…はっ、姫様」


 そういうとハクリュウは兜を取った。見た目麗しい白髪の美青年の顔が白日の下に晒された。


「マイマスター、無機物の私から見てもハクリュウの顔は眩しいです」


「へえ、随分と美形じゃねえか? 何で隠してやがるんだよ嫌味かあ?」


「ビダンシ! イケメン! イロオトコー!」


「…姫様、やってくれましたな」


「あら、何の事でしょうかハクリュウ」


 ハクリュウは私に何か言いたげに視線を送るがわたしは舌を出してさらりと受け流した。

 少ないとは言え配下一同の前で言質をとって兜を外させてやった。してやったりである。

 これでわたしにとっても日々の良い目の保養になるだろう。




『地球の最弱国ニホンに住まう最弱の人間を常に生きたまま側を置くというかせを付けた身の上で、追放先の地球を手早く征服して見せよ』


 わたしは父の言葉を頭の中に思い出しながら、自分の目の前の宙に浮かぶ映像モニターに映し出されたニホンの首都、東京を見る。

 わたしは東京中の映像を自身の意識とリンクさせ超高速識別を開始する。そしてひとつの映像でその識別を停めた。


「ふふ、わたしの側に置く最弱の人間はこの子が良いですね」


 わたしは獲物を定めた獅子の様に目を細めて笑みを浮かべた。





※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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