第17話 第十皇女、紅留亜(べるあ)。第十一皇女、慈留亜(じるあ)。
「宇宙宮皇族の末妹、紅留亜、慈留亜。どうして幼い貴女たちがこんな辺鄙な星にやって来たのです?」
「あははー、それはねー、瑠詩羽のくるしむ顔がみたいからかなー」
「ふふふー、年上ぶって偉そうな瑠詩羽がのたうち回るのがみたいよねー」
双子姉妹は手に持った傘をくるくると回しながら『双子宮要撃城シンクロナイズ』から姿を現した。
わたし、空也、ハクリュウも覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクスから船外に瞬間移動して双子姉妹と対峙する。
「そこの二つの国はねー、この星の一番になる為にいろいろ難しいことを考えていたみたいなんだよねー」
「わたしたちー、難しいことはわからないー、だからねー、わたしたちの言葉でかんたんにしてあげたんだー」
「「隣の国を無くせば自分が一番だよーってねー」」
紅留亜、慈留亜のシンクロした声が響く。
双子姉妹の甘ったるい言葉はそれだけで魅了の力を持つ。意思を双子姉妹の意図する方向へと誘導されてしまうのだ。
エイ国とブツ国は互いに殺しあう方向へと誘導されてしまったということか。
「これでわたしたちのお友達が増えるよねー」
「わたしたちは『死霊使い(ネクロマンサー)』だからねー、お友達が増えればもっと強くなれるよねー。」
なるほど、死者の魂を増やし、自分たちの力を高めるために多勢に殺し合いをさせたのか。
この双子姉妹、幼く可憐な少女だが、頭が働き、性格は冷徹にして残酷。
つまりわたしの追放劇の黒幕は…。
「紅留亜、慈留亜。お二人に単刀直入にお聞きします。わたしを皇家から追放させる様に父上に働きかけたのは貴方たちですか?」
「あははー、そうだよー瑠詩羽ー」
「わたしたちが父さまに告げ口したのー、瑠詩羽が父さまを殺して王様に成ろうとしているってねー」
「なるほど、父上に貴女たちの魅了が効くとは思いませんが、父上も人の子ですから宇宙宮皇族の末妹である貴女たちの言うことは尊重したのかもしれませんね。
まあ父上のことは今は置いておきましょう。
わたしに刃を向けた貴女達を生かしておくことは出来ません、ここで消えてもらいます」
「わー、瑠詩羽怖いー」
「でもー、そんなに簡単にわたしたちを倒せるかなー? それじゃ行こうか紅留亜ー」
「うんー、慈留亜ー」
二人はそう言うとコマの様に回転して凄まじい速度でわたしに跳び掛かって来た。
持っている傘を回転させて斬りつけ、傘を牙突剣の様に突き出し、その幼い手のひらから無数のエネルギー弾を生みだして撃ち込んでくる。
流石は双子、完全に息の合ったコンビネーション。
わたしは油断することなくその雷光の如き連続攻撃を捌き、あるいは躱してみせる。
双子姉妹の隙を見計らい、わたしは両手をかざし力を込めて破壊の波動を解き放った。
双子姉妹は傘を広げて波動を防ぎ切って、その場に踏みとどまった。
「うわー、傘壊れちゃったー、お気に入りだったのにー」
「でもやっぱり瑠詩羽強いねー、このままじゃ勝てない? かなー?」
「それじゃあ本気で行こうよ慈留亜ー」
「うんーそうだね紅留亜ー」
「「「合体ー!!」」
紅留亜、慈留亜の双子姉妹はお互いの両手を握り合う。その瞬間、二人を光が包み、それが収まるとそこにはわたしと同じぐらいの年齢の一人の少女が立っていた。
「「あははー、『合体双姫、紅留亜慈留亜』! 瑠詩羽、行くよー!!」」
合体して一人になった双子姉妹はわたしと真正面からぶつかった。
凄まじい速度の拳、蹴り、嵐のような連撃。
速度、力、技、あらゆる面で先程とは比べ物にならない。
「「死んじゃえー、瑠詩羽ー!」」
合体双姫、紅留亜慈留亜が手をかざすと破壊の波動が放たれた。
わたしはこの破壊力はまともに受けるのは危険と判断、身を翻してかわすとカウンターで合体双姫に蹴りを見舞う。
だが合体双姫は腕を交差させて受け止める、そしてその瞳が輝いて破壊光線が放たれる。
わたしも瞳を輝かせてその破壊光線を相殺する。
間髪入れずわたしは手をかざし破壊の波動を放つが、合体双姫は手を薙いでその波動を打ち消した。
合体双姫、紅留亜慈留亜は蹴りを放つ。わたしは腕を盾にして防御するが、その威力を殺し切れずに大きく吹き飛ばされてしまい凄まじい速度で海中に墜落した。
その衝撃は巨大な津波を巻き起こし沿岸の街を一瞬で飲み込んだ。
わたしは力場を発動し身体を濡らした海水を一瞬で蒸発させると、光速で海上の空へと舞い戻り紅留亜慈留亜と再び向かい合う。
強い、この星で戦ったどの皇族よりも。
わたしは両手をかざすと力を集中させ、全力を込めて破壊の光を放った。
「「う、うわあああーー!!」」
吹き飛ばされる合体双姫。今のは浅かったがダメージは入った。
このまま圧し切る、わたしは拳を握り力を圧縮する。
先程よりも強力な破壊の光で一気に止めを!
「「やっぱり強いねー瑠詩羽ー。うーん、このままじゃ負けちゃうかなー? よーし、お友達の力、借りちゃおうー! 借りちゃおー!!」」
「「『死霊創世界』!!」」
互いの核攻撃と機動兵器同士の戦闘で死んだエイ国とブツ国の大量の死者の魂が合体双姫、紅留亜慈留亜の身体に吸い込まれていく。
美しい少女の姿をしていた合体双姫の顔が崩れ、肌が剥がれ、骸骨が姿を現す。
そしてその骸骨はみるみると大きくなって、街を一撃で踏み潰すような大きさの超巨大な骸骨の化け物と化した。
「「死 ん じ ゃ え !」」
巨大骸骨の口から凄まじい勢いでガスが吐き出された。
…この威力はまずい!?
「ハクリュウ、空也をお願いします!」
「姫様、御意」
ハクリュウは空也を自分のマントの中に入れるとその場を離脱する。
わたしもその場を飛びのいて高速離脱する。
ガスが噴射された海峡の海は並みの生物では死滅する亜硫酸の海へと一瞬で変わり、海峡沿岸の街は全て溶け去って其処には何も無くなっていた。
「「あ あ あ あ あ あ !」」
巨大骸骨がおたけびをあげるとその身体の周囲から円形状にガスが噴射され広がった。
ガスに触れたものは何もかも溶けていく。このままだとこの星の何もかもが消えてしまうだろう。
そうすればこの地球という星を征服することが出来なくなったわたしは父上に処刑されてしまう、なるほどそれが紅留亜と慈留亜の狙いか。
今の彼女たちは闇の属性の最たる『死霊創世界』。
こちらに闇にうってつけの光属性の武器である『聖遺物』があれば良いのだが、わたしの【宝物殿】はとうの前に解散済みであり今は手持ちは無い。
「ハクリュウ、この星に聖遺物は無いかしら?」
「はっ、データによるとこのエウロッパ州にある長靴の半島の宗教都市に『聖遺物の槍』がある様です」
「ヴァーンニクス、わたしたちを急ぎその宗教都市に飛ばしなさい!」
「了解、マイマスター」
わたしたちは覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクスから照射された瞬間移動光線で『聖遺物』があるという宗教都市の上空に空間跳躍した。
「ハクリュウ、その聖遺物の槍はどこかしら?」
「あの大聖堂にある様です」
「「逃 げ て も 無 駄 !」」
巨大骸骨、紅留亜慈留亜もあたしたちを追って瞬間移動して来た。
そして巨大な口を開けると腐食ガスを凄まじい勢いで吐き出した。
聖遺物のある大聖堂ごと宗教都市そのものが全て溶け去って、辺り一面が一瞬で荒野と化した。
「消えてしまったということは、その聖遺物は偽物だったということでしたか。姫様、誤情報を申し訳ございません」
「とり急ぎでしたし、仕方がないでしょう。しかしこのままにはしておけませんね」
全てを溶かし、死者を増やし、その魂をその身体に取り込んで、更にその大きさを増していく巨大骸骨、紅留亜慈留亜。
この勢いではこの惑星上の文明の全てが溶かされてしまうのにそう時間はかかるまい。
わたしはこの星を征服しなければならない、だからそれだけは防がなければならないのだ。
闇属性の最たる『死霊創世界』を倒すには光属性の攻撃しかない。
光属性の武器『聖遺物』が無いのなら、わたしがそれに匹敵する”光”を作るしかない。
わたしは両腕を水平に突き出した。
自身の身体を中心に力場を生み出しそれはドーム状に広がっていく。
それは周囲の腐食ガスを全て吹き飛ばした。
続いて空に向けて両手をかざし力場を空に向けて撃ち放つ。
雲が吹き散らされて、太陽の光が地上に注ぎ込む。
闇の申し子である『死霊創世界』となっている紅留亜慈留亜も、流石に太陽の光には抗えずその顔を覆った。
だがこれだけでは紅留亜慈留亜を倒すことは出来ない。
わたしは両手をかざしたまま空に向けて力場を更に強く展開させる。
地球の大気層圏を全てこじ開ける。
対流圏、成層圏、中間圏、熱圏、
電離層、オゾン層、
魔力層、気層、波動層、
太陽の光を減衰させるこの地球のあらゆる障壁を一時的にこじあけて、太陽の光を直接『死霊創世界』に届かせるのだ。
「「う お お お お ! ?」」
紅留亜慈留亜はわたしの狙いに気づいた様だ。
この場から逃げようと瞬間移動しようとするが逃がさない。
右手はそのまま空にかざして大気層をこじ開けながら、左手を紅留亜慈留亜に向けて、力場で捉えて押さえつけその動きを封じ込めた。
「「や め ろ お お お ! !」」
地球を覆っていたあらゆる大気層をこじ開けられて、何の障壁も無くなった太陽の莫大な光の力が、『死霊創世界・紅留亜慈留亜』に降り注いで、その巨大な骸骨の身体を焼き尽くしていく。
白く光り輝く空間の中にわたしと紅留亜と慈留亜が向かい合って立っている。
ふたりは元の可憐な幼い少女の姿に戻っていた。
おそらくこの空間のわたしたちは精神体で、ここは精神世界の様なものなのであろう。
『死霊創世界』が崩壊し、溜め込んだ莫大な数の死者の魂が放出され、現世と彼の世が一時的に等しくなって起こった現象だろうか?
「あー、負けちゃったねー」
「やっぱり瑠詩羽強いよー」
「「ずるいーずるいー」」
「「ちーとだーちーとだー」」
「でもわたしたちと全力で遊んでくれて嬉しかったよー瑠詩羽ー」
「楽しかったよー瑠詩羽ー」
「父さまに告げ口したのはやり過ぎたかなー」
「「ごめんねーごめんねー」」
彼女たちはわたしに謝って来た。その言葉には全く嘘が無いことが感じ取れた。
あれほど好き勝手に邪悪に振る舞ってこの振る舞い。
だがこれこそが無邪気な子供ということ、この気ままな振る舞いこそが子供なのである。
「紅留亜、慈留亜、わたしからも言うことがあります。
多少は頭が切れると言っても所詮あなたたちは子供です。
大宇宙を支配する宇宙覇帝である父上が子供の戯言を聞いたとは思えません。
結局のところ、父上は貴女たちの告げ口以前にわたしを排するつもりだったのですよ。
所詮は気ままで融通の利かない子供風情がこの大宇宙の覇権を左右できたなどと思わないことですね」
「瑠詩羽最後まで厳しいよー」
「瑠詩羽最後まで偉そうだよー」
「わたしは貴女たちの姉ですから、粗相が悪ければ厳しくしますし、年上としての物言いも当然ですよ!
大体わたしを殺しに来たあなたたちにどうこう言われる覚えが無いのですよ!
…そろそろ時間ですね、わたしは気ままで性格最悪なあなた達は正直苦手でしたけれど…そう嫌いではありませんでしたよ。
あなた達は見た目は可憐な幼子ですからね。
それだけでこちらの戦意が幾らか削がれてしまう、まったくずるい双子ですよ。
それでは、ごきげんよう、さようなら、わたしの妹たち」
「瑠詩羽ーばいばいー」
「ばいばいー瑠詩羽ー」
太陽の光は紅留亜と慈留亜を完全に焼き尽くしてその一片も残さず塵に帰した。
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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