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第16話 モーニングコーヒー、そして知略国家を攻撃する。

「ふう、やはりこのコーヒーというものは良いものですね、あっ生クリームは要らないですよ、このままで結構ですわ」


 街の中心に巨大な壁が引かれて東西に分けられていたという歴史を持つビスマルク国の地方都市ハイデルベルク。

 わたし、宇宙宮うつのみや 瑠詩羽るしはと空也、ハクリュウの3人はこの街の喫茶店で『モーニングコーヒー』というものを嗜んでいた。

 この地球産の飲み物、『コーヒー』というものをわたしは結構気に入っている。

 パミロンメイド三姉妹の入れてくれるコーヒーももちろん良いのだが、今日は気分を変えてこの星の人間が入れたコーヒーを飲みに来たという訳なのである。


 わたしは足まで伸びた黒髪に豪華絢爛ごうかけんらんな装束にマント姿、空也はニホンの学校の制服姿、ハクリュウは白髪で全身鎧姿、地球人からすればこれは珍しい組み合わせなのだろう。

 何人かの人が遠巻きでわたしたちを見ながら何か言っている様だ。

 喫茶店から見える景色には、周囲とは一線を介する頑丈な姿をした要塞塔がそびえ立っている。

 これはかつてこの国に侵攻してくる敵国の爆撃機を撃ち落とす為に造り上げた『高射塔』というものらしい。

 戦闘に特化した無骨な施設を見ながら飲むコーヒーもまた格別である。


「姫様。この星を支配する常任理事国と呼ばれる5つの大国の残り2つの国が、このエウロッパ州に存在するエイ国とブツ国になります。

二か国とも先の三国に比べると国力の差は如何ともしがたく、実質のところ三国に追従する形だったようですが情報戦と知略に優れており、この星の勢力図をかき回して自国の利益に繋げている様です」


 ハクリュウは手元の空中に浮かんだモニターを指さしながら言葉を述べる。


「力は無いけど頭だけは回る小賢しい国ということでしょうか、ハクリュウの言い回しだと戦力的には一切期待できないのですね。

そういえばこの国はどうなのでしょうか? このエウロッパ州の全ての経済を牛耳って実質支配しているのが、このビスマルク国というデータがあるみたいですけれど」


「姫様、このビスマルク国にはかつて『ナトー』と呼ばれるこの星全体の戦力の半分とも言える程の強大な戦力が在った様ですが、今は経済政策に全てを絞り、持っていた全ての戦力は手放してしまった様です」


「なるほど戦力を全て放棄して金儲けのみに固執した経済国家に変化したということですか? しかし戦力無くて星の支配国家などはありえませんから、この国は無視して良いでしょう。

かつての戦力に満ち溢れていた頃のこの国と戦ってみたかったですね」


 ハクリュウとひとしきり話し、コーヒーを飲み終えてカップを皿に置いたその時、突然複数の男たちが現れてわたしたちを取り囲んだ。

 その全員が完全武装の兵士の様であり、その手に構えた銃をわたしと空也、ハクリュウに向けている。


「貴様等全員、手を上げて、降伏しろ、抵抗しなければ命は保証する」


 彼らのリーダーと思われる人物がわたしに銃を向けながら言葉を述べる。

 なるほど、その物言いならわたしたちが何者か知っているということか。

 わたしはこの惑星上で自分たちの存在を隠す対策を何一つしていない。

 地球に来てから既に5日経つ、この星の国々も流石にわたしたちの存在は把握したということだろう。

 わたしは部隊のリーダーの言葉を意に介すること無く席を立とうとしたところ、男の一人が空也に銃を突き付けた。


「この少年を殺されたくなかったら大人しくしろ」


 ふふ、一番弱そうな空也を狙ったか。

 しかしそれでこの覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽を止められると思ったか。

 わたしは構うことなく席を立った。


「撃て!」


 男たちはわたし、空也、ハクリュウに一斉に射撃した。

 狙いは正確、腕の良さは褒めてやろう。

 しかし、その弾はわたしたちの頭に見事命中した瞬間に粉々に弾けて鉄の粒子と化して地面に落ちた。

 この中で一番弱い空也でさえも、昨日のルーシー国の核弾頭ミサイルの火力でも傷一つ付かなかったのだ。

 今更その程度の火力でわたしたちをどうにか出来る道理は無い。


「ば、化け物!? 一斉射!」


 男たちは銃を連射して来た。

 わたしは撃ってくる全ての男たちを”視た”。

 そして瞳に破壊の意思を込めて事象化させた。

 男たちは弾け飛んでその肉片も残さず消滅した。


「コーヒー、美味しかったわ、お釣りはとっておいて下さいね」


 わたしは喫茶店の店員にお代を渡し店をあとにした。

 旨いコーヒーのお礼として惑星ガリュマリンで取れた希少石も一緒に付けておいたが、この星ではその価値はわからないかも知れない。

 だがこれはわたしの純粋な気持ちなのである、例えそのまま捨てられても文句は無い。



 覇帝姫宮殿要塞はていききゅうでんようさいヴァーンニクスから瞬間移動光線テレポートビームが照射されヴァーンニクスの船内に戻って来たわたしたち。

 わたしはヴァーンニクスをエイ国とブツ国の国境のある海峡の上空に亜光速航行させ、全長数キロに及ぶその巨大な姿を空中に停めた。


「この二国は情報を操ってこの星のパワーバランスを崩して利益を得る国々でしたね。

なるほど、驕りと傲慢さはなかなかのもでしょう。

わたし、宇宙宮うつのみや 瑠詩羽るしはの持つ意識感応力は、この大宇宙に生きとし生ける、文明を持つレベルの生物の大まかな思考そして意思を感じることが出来るのですよ。

『この星の愚かな者共を意のままに操って我等の利益にしてやろう』その様な意思を感じます。

ですが先の三国と比べるとこの星全てを自分達でどうにかしてやろうとする強い心意気がまるで感じられません。

所詮は頭だけで戦力が供わない知略国家ではこの程度ですか。

わたしが出るまでも無いですね。ハクリュウ、覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクスの惑星級破壊砲プラネットカノンを最小パワーに絞って発射なさい!」


「姫様、御意。ヴァーンニクスの惑星級破壊砲プラネットカノンを最小威力で発射! それぞれの首都ロッドン、バリィに命中。共に消滅を確認しました」


 両国の首都が消えて幾ばくの間隔を置いて、それぞれの国から弾道ミサイル群が発射されヴァーンニクスに迫る。

 しかしそのミサイル群はヴァーンニクスを素通りしてそのまま対岸状に向かい合った隣国へと突き刺さった。

 凄まじい爆発が次々と巻き起こり、超巨大なキノコ雲が立て続けに吹き上がって、エイ国とブツ国の領土を削り荒野に変えていく。


「ハクリュウ、これはどういうことでしょうか?」


「姫様。これはおそらくですが互いに隣国を『核弾道ミサイル』を標的として前々から設置しており、攻撃を受けた瞬間に反撃をする手はずになっていたのではないかと。

…む、エイ国の機動兵器、『タイフーン』、『ライトニングⅡ』。

ブツ国の機動兵器、『ラファール』、『ミラージュ』が互いに上がって来ました。

ヴァーンニクスの前哨空域で互いに接敵、戦闘を開始します」


 エイ国とブツ国の戦闘機は互いに攻撃を開始する。

 機体と機体が音速飛行で交差して互いに武器を射撃する。

 バルカン砲と空対空ミサイルが飛び交って命中した機体が次々と爆散して落ちていく。


「幾ら何でもおかしいですね、それぞれの首都を消したのはわたしということは当然認識されている筈。それを無視して互いに戦いを始めるなど…」


 いぶかしむわたしの前に、突如巨大な力の波動が生まれ、ヴァーンニクスの2倍以上の全幅の巨大な城が空間跳躍してきた。

 煌びやかで絵本に出てくるおとぎの国の城の様な形をした宮殿が2つ左右に連なっていて、その城壁にはメルヘンな城には不釣り合いな巨大な砲が無数に並んでいる。


「あれは…『双子宮要撃城ふたごみやようげきじょうシンクロナイズ』ですか!」


「あははー、瑠詩羽ー、それはねー、私達が告げ口したからだよねー、ねえ慈留亜じるあー」


「うんー、私達がエイ国とブツ国の一番えらいひとに告げ口したからだよねー、紅留亜べるあー」


「この星の自分たちより強い国は全て消えたからー」


「あとは隣の国さえ消せばこの星の一番は自分たちものだよってねー」


 シンクロナイズから甘ったるい少女の声が周囲に響いた。

 第十皇女、紅留亜べるあ、第十一皇女、慈留亜じるあ、宇宙宮皇家末妹である双子姉妹の声である。





※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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