第1話 皇家を追放される。
三千メートル以上の高山が連なる巨大な山脈地帯の側に位置する巨大国家。
この国の中心都市の上空に突如、巨大物体が降下してきた。
全長数キロに及ぶ巨大な城とも、船とも思える巨大人工物体。
いや、これ程の巨大かつ浮いているものを人間の手で作れる訳が無い。
こんなものを一体誰が作ったのか? 宇宙人? まさか神の御業だとでもいうのか?
便宜上『空中城』と名付けられた謎の巨大物体を攻撃目標として、この星で最新鋭の第五世代戦闘機である『ライトニングⅡ』が我が軍の滑走路を次々と離陸していく。
空軍部隊に続いて地上軍部隊も迅速に展開し、自走砲台が、対空高射砲が、歩兵火砲が、移動ミサイル発射台が、『空中城』を標的に捉える。
「攻撃開始!」
国家元首からの命令が降り、我々は『空中城』に攻撃を開始した。
我々の国はこの星における永遠中立国、この国の境を侵すあらゆるものは速やかに攻撃の対象とされる。
空と地上に展開する我が軍の全兵器群は高い技術と士気に導かれて目標に向けて正確に射撃される。
戦闘機のミサイルが、バルカン砲が、自走砲台の砲弾が、対空高射砲が、歩兵火砲が、移動ミサイル発射台のミサイル群が、流星の如き無数の攻撃火線となって我々の国の上空に無粋に浮かぶ『空中城』に突き刺さった。
凄まじい大爆発が『空中城』を包み込み、巨大な爆煙が巻き起こる。これ程の攻撃を受けて無事な物体はこの地上において有り得ないだろう。
だがその巨大な爆炎が消えたあとには、攻撃前と全く変わらぬ姿で『空中城』は浮いていた。
戦闘機『ライトニングⅡ』は『空中城』へと突撃を開始した。
遠距離攻撃が効かないのなら短距離攻撃あるいは至近距離で攻撃を仕掛ければ良い。
我が軍は技術も士気も高い。
敵が我が方の攻撃を防いでみせるならば、すぐに戦法を変えて対応するまでだ。
『ライトニングⅡ』の一部隊は『空中城』の間近にまで迫ると、ミサイルを、バルカン砲を射撃開始した。
その戦闘機群の前に突然、一人の少女が空中に姿を現した。
流れる長い黒髪に豪華絢爛の装束にマントを羽織った、十代と思われる年若い少女である。
彼女は手を振るった。
次の瞬間、『ライトニングⅡ』の一部隊は射撃したミサイルごとその全てが粉々に撃ち砕かれて、その欠片も塵となって瞬く間に消滅した。
何があった!?
少女は立て続けに手を振るった。
次の瞬間、『ライトニングⅡ』の別の1部隊が吹き飛んで消滅した。
前線の『ライトニングⅡ』の部隊は自分達の目の前に浮いている少女を『恐るべき敵』と認識した。
攻撃目標を『空中城』から『怪奇少女』と名付けたその少女へと変更、ミサイル、バルカン砲を即射撃開始した。
無数の爆発が『怪奇少女』を捉え、鋼の弾の嵐が突き刺さる。
だがその攻撃の全ては『怪奇少女』に傷一つ付けることは敵わなかった。
『怪奇少女』は何かを叫んだ。
次の瞬間何かの”波動”が彼女を中心に球状に広がった。
その”波動”に触れた戦闘機も、ミサイルも、バルカンの鋼の弾も、その何もかもが粉々になって、塵になって消滅していく。
そしてその”波動”が地上部隊に到達して、自走砲台が、対空高射砲が、移動ミサイル発射台が、歩兵部隊が、待機していた戦車が、我々が誇る精強な軍の何もかもが消滅した。
何なのだ?
何なのだこれは!?
彼女は一体何だというのだ?
我々は何と戦っていると言うのだ??
まさか神だとでも言うのか?
いや、そんなものが居る訳が無い。
この世界を、いや、この星を全て支配しているのは我々の所属するこの国家なのだ。
いわば我々の国がこの星の神なのだ。
そしてその神の兵士である我々が負けるなどあってはならないのだ!
『怪奇少女』は手をかざした。
次の瞬間、『空中城』の下部」が煌めいて辺り一面を一陣の閃光が走った。
そして、我々が居る基地司令部の頑強な建物も、そしてこの星を支配する我々の国家の中心都市も、その何もかもが光に包まれて、一つの例外も無く消し飛んでいった。
******
「グガアアアッ!! この余が! 小娘ごときにィ!!」
わたしの手から放たれた破壊の斬撃が幾つもの星々を支配する邪神竜メディアスの首を跳ね飛ばす。
確かに長命の竜からすればたった160年しか生きていないわたしは小娘同然だろう。
下手な都市よりも巨大なその竜の首は地に転がってなおわたしを見下ろして断末魔の言葉を吐いた。
「ググァ…この邪神竜メディアスがこの様な小娘に敗れるとは…だが心せよ…この大宇宙を支配する宇宙覇帝の娘であり次帝として名を馳せる覇帝姫、瑠詩羽よ…。
この大宇宙の覇権は戦闘力だけでは無い…ヒトの弱き心に…くだらぬ策略に左右されることも有ることを…せいぜい身の内に気を付けることだ…余には見えるのだ…キサマのその強大な力を妬む者共のさかしい策が…」
「今際の際に言い残す言葉はそれで終わりですか? 絶命なさい!」
「ギャアアアア」
邪神竜の巨大な首はわたしが放った破壊の光に眉間を撃ち抜かれて完全に息絶えた。
「はあ、邪神竜ともあろう者がくだらぬ負け惜しみでしたね」
「しかし姫様。邪神竜メディアスは予知の力を持つ竜と聞いております。その言葉は無視できぬかもしれません」
わたしが幼い頃から仕える最も信頼する配下、全身を白い鎧に身を包んだ男、ハクリュウが言葉を返す。
「ふふ、ならば問いましょう、我が忠実なる僕、ハクリュウ。
もしその予知の力が本物なら、邪神竜メディアスは何故このわたし、宇宙宮 瑠詩羽に敗れたというのでしょうか?
所詮は眉唾だったということですね。
それよりもわたしはメディアスの残党達の掃討について聞きたいです」
「邪神竜の眷属の邪竜達には姫様の直属の配下である『覇帝姫八天将』を、邪神竜の主力軍である邪兵軍には『覇帝姫直属軍10万』が向かい既に掃討中でございます。もう間もなく片が付くでしょう」
「ふふふ、流石はわたしが手塩にかけて育て上げたた配下と軍団の力ですね。そしてその采配振りも見事ですよハクリュウ」
「お褒め頂き光栄至極でございます。姫様の全ての配下を代表して謝辞を述べさせて頂きます」
「ふふっ、それではハクリュウ、邪神竜の首を手土産に宇宙覇帝城グランディアスに凱旋といきましょうか。きっと父上も喜んでくれる筈です」
わたしは邪神竜メディアスの首を手に自分の城であり宇宙船でもある『覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクス』を、父であり大宇宙の絶対的支配者である宇宙覇帝の大宮殿、『宇宙覇帝城グランディアス』へと向けた。
「我が娘、瑠詩羽よ! お前を宇宙宮皇家から追放する! 理由は我が皇座を狙い謀反を企てからだ!」
数多の宇宙を統べる宇宙覇帝の大宮殿、宇宙覇帝城グランディアス。
惑星ひとつをまるごと城とした途方もなく巨大な城である。
その余りも広すぎる城の中央に在る、これまた広すぎる宇宙覇帝の謁見の間。ひとつの島、いや大陸規模の広間。
そこには宇宙覇帝の配下の者と上級民衆、数百万が並び、その上座には数多の皇族、貴族が並ぶ。
そして最上座の玉座に鎮座する大宇宙の絶対的支配者・宇宙覇帝が発した激しい言葉が、謁見の間にただ一人ひざまづく美しい黒髪を長く伸ばした少女に突き刺さった。
しかしその少女は聞くだけでその身を焼かれる様な凄まじい声に屈することなく宇宙覇帝を見上げると、強い意思を宿した瑠璃色の瞳でこの大宇宙の絶対的支配者を見据え言葉を返した。
「何をおっしゃっているのでしょうか父上? この瑠詩羽がそんな愚かなことをする訳がありませんわ」
わたし、宇宙宮皇家第三皇女・宇宙宮 瑠詩羽は自分の父で数多の宇宙を統べる宇宙覇帝から皇家追放を言い渡されてしまった。
しかしわたしには謀反の思い当たりは無い。あらぬ濡れ衣という奴である。
何故なら宇宙宮皇家は実力主義の皇族、わたしは第三皇女だけど並みいる皇族の中でも抜きん出た力を持っていて、最有力の次帝候補で覇帝姫と呼ばれ恐れられている。
そんなわたしがいらぬ危険を犯してまで皇座を簒奪するなんてありえない。
「ははは、瑠詩羽。火遊びが過ぎたようだね、幾ら持っている力が強くても流石に父上に逆らってはいけなかったね」
「うふふ、瑠詩羽。実力があってもあなたは所詮庶子の女から生まれた第三皇女だから焦りがあったのかしら? もう少し辛抱すればよかったのにねえ」
第一皇子で長兄の導名雅と第二皇女で長女の愛衣羅が嘲りの笑みを浮かべてわたしを煽る言葉を投げかけてきた。
なるほど、二人の策略か。特に愛衣羅はこの手の策は得意の筈だ。
「わたし、瑠詩羽のこと嫌いー」
「強いからって生意気ー、年上ぶって生意気ー」
第十皇女、十一皇女の双子姉妹。紅留亜と慈留亜が可愛げのない言葉でわたしの気を逆立てる言葉をつぶやいた。
この二人の策略か? 性格は最悪だがその容姿は可憐な少女であるから上手く周りの大人達を取り込むことも出来るだろう。
「瑠詩羽! 貴様の謀反の証拠は我が皇族から、そして我が配下からも多数上がっておる! もはや言い逃れはできぬぞ!」
…なるほど、父上の策略か。自身がいつまでも皇座に君臨するために、次帝候補として名を上げていくわたしが煩わしくなったか。
「叛逆者を許すな!」
「傍若無人な鬼畜姫を殺せ!」
「汚らわしき売女の娘を処刑せよ!」
「偉大なる宇宙覇帝に逆らう者に死を!」
この場に居る数百万の者たちが一斉にわたしに殺意を持った罵声を浴びせる。
わたしは宇宙覇帝の命には従順だったし、皇族、貴族ともなるべく軋轢無い様に付き合い、民衆に求められている節度を持った強い皇族を演じてきたつもりである。
それなのにこの扱いとは…力に溢れるわたしへの妬みか? それとも絶対なる支配者たる父上への忠誠もしくは媚びからか? それともその両方か?
邪神竜メディアスの断末魔の言葉がわたしの脳裏によぎった。
「瑠詩羽よ! お前を数多の宇宙の中でも辺境中の辺境と呼ばれる天の川銀河系の更に辺境の、地球という星に追放する!
お前の力を封じ、持っている領地惑星、配下、軍隊、宝物殿、美食殿、モフモフ殿、後宮、その全ては没収し、しかるのち反逆罪で処刑!
…と言いたいが我も鬼では無い。お前に生きる為の好機をやろう。
地球の最弱国ニホンに住まう最弱の人間を常に生きたまま側を置くという枷を付けた身の上で、追放先の地球を手早く征服して見せよ。それが出来れば命は助けてやろうではないか!」
これは事実上の処刑宣告では無いか。なるほどこれは余興なのだ。わたしが地球で苦しむその様を見て楽しもうとする父や兄姉皇族に貴族民衆共の。
「わかりましたわ、父上。その地球とやらに参りましょう。それでその手早くというのは具体的にはどれぐらいの期限なのでしょうか?」
「はっはっはっ、我は鬼では無い。ひと月ぐらいはやっても良い」
「なら7日で充分ですわ、わたしにはそれで充分です。覇帝姫と呼ばれる宇宙宮 瑠詩羽の力をお見せいたしましょう」
わたしは力を封じる首輪を付けられた。無理に外そうとすれば星の表面を焼き払う程の威力の爆発が起きるシロモノである。
そして本来は惑星侵攻の際に物資を運搬する亜空間航行ロケットの中に拘束具を着せられて押し込められた。
わたしはロケットの窓から外を見渡した。父上、皇族、貴族、民衆達はわたしが乗っているロケットの周囲を囲んで嘲りの笑みを浮かべながら罵声を浴びせている。
何て愚かで穢らわしい光景か。
わたしは下らない奴等から少し離れた所に整列していた元配下たち、軍団を見た。彼等は直立不動で口をつぐんだままわたしのほうを見つめている。
わたしはそれで満足だった。今迄よく尽くしてくれた彼等に労いの視線をかける、上手く伝わっていると良いのだが。
そして彼等の先頭に居たハクリュウに目配せをした。わたしとハクリュウだけがわかる所詮アイコンタクトという奴である。
亜空間航行ロケットの噴射口から凄まじい火柱が噴出され、わたしは一気にグランディアスから宇宙へと打ち出された。
そして宇宙空間に到達すると只の物資の如き扱いで何の前触れもなく容赦なく亜空間跳躍させられた。
目的地座標は、天の川銀河系、太陽系第三惑星、地球。
降下地点は宇宙覇帝が言う所の地球の最弱国、ニホンという国である。
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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