7話 上陸
陸に上がります。
海にもちゃんと帰ってきますよ!
陸に向かって泳いでいるとき、なぜか海上にはたくさんの船が出ていた。
いつもはこんなにたくさん沖まで船が出ていることないのに。
何かあったのかな?
海に関係することなら私の超音波で感知できないはずないんだけど...
まぁ今はいいか。
人型で泳いでいると、クジラ姿のときよりも早く泳いでいる気がする。実際の進みスピードは変わらないんだけどねっ!
人型でも泳ぐ時も主に尻尾を使って泳ぐのでクジラの時とそう変化はないが、小さくなるとやはり小回りが効くようになるね!!
そこに泳いでた魚食べるときに、手掴みで捕まえようとしてすり抜けられたんだけど、急旋回して捕まえてやったもんね!ふふん!!
クジラ姿の時は口を開けて閉じれば魚入ってたから、そんなに追いかけることもなかったからね!
そんな話をしているうちに陸に辿り着きました。
陸、といっても港ではない。
だって考えてもみてよ。
知らない人が海からぬっと出てきたら怖いでしょ?
だから、誰もいなさそうな浜辺に来ました!
海から上がり、浜辺で伸びをする。
そういえば、私ってばこの世界に来て初めて二足歩行してるけど、なんとかなるもんだね。
久しぶりだとバランス取れなかったりするのかと思ってた。まぁどうでもいいか。
そんなことを考えていると、私は不意に自分の身体を見下ろした。
...うん、ウェットスーツだなぁ。ライフセーバーみたい。
というか、私これのみの状態で町を練り歩くんか?
なんだか急に恥ずかしくなってきた。
服を生成したときに「これでいいや」と思ってしまったのは、多分海の中だったからかな。
水着と同じ感覚だったからだね。
しかし陸に出てみるとこれはなかなかに恥ずかしく、追加で服を生成することにした。
ヒレや尻尾を邪魔しないような服を生成する。
《物質創造》にてなんとか作ったものは、白いミニスカートと上半身を覆う紺色の鎧、ちなみに腕の部分はない。
そして黒く平べったい靴。
結構変な気もするが、とりあえずはこれでいいと思う。
そう考えた私は、町に向けて歩き始めた。
♢♢♢
「こんな獣人初めてみたぜ!!!これは高く売れるぞぉ!!」
「ヒャハッ!!とっとと捕まえろぉ!!」
「「「おう!!!」」
私が歩いていると、山賊のような格好をした男たちが縄を持って襲いかかってきた。
異世界転生したとはいえ元々は17歳の女子高生、大人の男が複数人で襲ってくるなんて恐怖しかない。
いくら魔法が使えるからって怖いものは怖いのだ。
「キャアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
私が悲鳴をあげると、その声に魔力が乗り衝撃波として男たちに襲いかかる。
「グハァッ...このクソガキ..!妙な魔法を使ってきやがって、俺たちを怒らせるとただじゃ済まな....」
「イヤアァァ!!!!来ないでぇぇぇ!!!」
再度掴みかかってきた男を力任せにぶん殴ると男はものすごい勢いで飛んでいき、数百メートル離れたところでようやく勢いが止まった。
「「あ、アニキぃ!!」」
他の男が殴られた男のもとに向かったところで私は町に向けてダッシュした。全速力で。
瞬く間に私の姿が見えなくなったその男たちは、殴られたアニキの容態をみていた。
華奢の女の子に一撃殴られたにしては身体がボロボロになり過ぎており、気を失っているアニキ。
「あいつは一体何の獣人なんだ...」
彼女が逃げるために一歩踏み出したところには、ひび割れた地面とめり込んだ足の跡が残っていた。
「...ここまで逃げれば大丈夫かな?」
私は結構な距離を走っていた気がするが、不思議と全く疲れはない。
気づけば周囲は森だ。木々の間から光が差し込んでいる。
しかし、私はこの姿だと獣人扱いされるみたいだ。結構稀少なタイプの。
私以外にこういうタイプの獣人はいないのかな?探してみるのもありか。
ーーガキン!!
でも稀少なんだったら歩き回ったら目立つだろうなぁ。あまり気乗りはしない。
町に着く前に外套でも生成して姿を隠しておこう。
ーーカキン!カキン!
なんかさっきから金属音が聞こえるのは何でだろう?
周囲を見渡した私の目に入ったのは地面に散らばるいくつもの金属片、いくつもの矢。
そしてすぐ近くに佇む折れた剣を持つ男と私を取り囲むように武器を構える数人の男女。
「くっ!俺の武器が折れるなんて!この魔物相当厄介だぞ!!」
「全員でかかれば怖くないわ!!このあり得ないほどの魔力を撒き散らす変異種は町に近づけてはだめ!!」
全員が殺気を私に向けている。え、待ってなにこの状況?
てか誰!?
見た目は冒険者っぽい人たち。
でもこんなに殺意を向けられる謂れはないんだけど!!??
「焼け死になさい!!《ファイアーストーム》!!」
魔術師のような女性の持つ杖から火炎放射のような炎が飛び出した。
え!?ナニコレ私に向かってくるぅ!!??
「あぶなぁ!!!」
思わず叫んでしまったが、炎の勢いは止まらず私の身体を包み込んだ。
「熱っ....」
熱ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!?!?!??!?
え“!?なんで私焼かれてんの!?私なんかした!!??
「よし!そのまま畳みかけろ!!」
「はい!」
はい!じゃねぇよぉぉぉおおお!!こちとら焼かれてんだゾォ!!助けろやあぁぁ!!!!
....助けろも何も、私この人に焼かれてるんだった、まる。
「《アイシクルショット》!!」
巨大な氷の棘が私に向かって飛んでくる。
この人たち、私が無抵抗だからってやりすぎじゃない?
いくら何でも酷すぎよ?話し合いもなしにさ。
私だってクジラだけど人並みの心は持ってるわけなのよ?クジラだけど。
大事なところなので2回言った。
そんなわけで、やり返します。
とりあえず、周囲の炎を消します。
「《潮》」
ボソッと呟いた私を中心として魔力によって生み出された潮水が波となって流れていく。
周囲の炎が瞬く間に消失した。
「な!!?私の炎がこんなに簡単に...?」
魔術師の娘が驚愕の声をあげる。
他の冒険者も波に足を取られて思うように近づくことができない。
このまま飲み込んでもいいけど、町に行く前に森を飲み込んでしまうのは良くないかもな...
こういう時こそ、《時空魔法》の出番です。
「“結界“」
《時空魔法》の応用。空間を固めて壁を作り、それを張り巡らせることで世界と隔絶した空間を作り出す魔法。
私は指を鳴らして自分を周囲の冒険者ごと結界で覆い、その中を潮水で満たした。
「モガガガゴゴッッッッッ!!!」
「ゴポポポポ!!!」
冒険者たちはしばらく結界内で暴れていたけど、一人、また一人と息が続かずに気を失っていった。
全員の意識がとんだことを確認し結界を解くと、冒険者たちが地面へと崩れ落ちた。
私はそんな冒険者たちを気にすることもなく、再度町に向かって歩き始めた。
介抱しないのかだって?
あなたは自分を殺そうとしてきた人の介抱をするの?
つまり、そういうことです。
さぁ!気を取り直してレッツゴー!!!
彼女からしたら暴漢同然の冒険者たち。
しかし冒険者側からすると...?