3話 人類Side①
題名の通り、人類Sideです。
人間たちにクジラの存在が知らされます。
「なぁ、知ってるか?」
「あぁ?」
とある港町の露店通りにて、ジョニーとボブの2人が串肉を頬張りながらある噂話を話し始めた。
「俺の知り合いから聞いた話によると最近、海産物の漁獲量が減って来てるんだとよ。」
「それ本当か?」
「あぁ、どうやら海に生息する魔物が突然強くなったらしくてな。船を出すのも危険らしい。」
「はぁ、魚がさらに高くなるのか...ただでさえ高いってのに。このままじゃあ店が続けられなくなっちまう。」
ジョニーは一口串肉を口に含むと、続けて話す。
「だから王国側が冒険者ギルドに調査依頼を出したそうだ。」
「それは高位の冒険者が必要になるだろうな。何せ海だ。中途半端なやつは出せねぇだろう?」
「あぁ、だから最低でもBランクの冒険者が出るかもしれないってさ。」
ボブは口の中の肉を噛みながら話を続けた。
「Bランクか。それでも結構な金が必要だろうが適任だろうな。俺たち一般人にはどう頑張っても魔物には勝てないわけだし」
「というか、Cランク以下の冒険者は海関連のクエストを受注できないからな。何が原因かわからない状態でAランクやSランクの冒険者様を駆り出すわけにはいかないんだろう。」
「確かにそうだな。ま、俺としては店が続けられればそれでいいさ。」
彼らはそう言いながら残りの串肉を口に放り込み、談笑を続けた。
ーーーーォォォォォォォォ......
微かに響く地鳴りのような鳴き声に気づかぬまま。
♢♢♢
公式に王国から冒険者ギルドへ海の調査依頼が出てから1週間、未だ原因が掴めていない今日この頃。
風を受けて帆を大きく広げた船が、沖を横断するように海上を走っていた。
国と国を繋ぐ定期輸送船として使われるこの船には、旅行客や旅人、護衛の冒険者、交易のために国の重鎮なども乗船している。
そして国の重鎮がいるということは、それを守る騎士も同乗している。
王国の騎士の中でも特に実力が秀でている騎士10人に与えられる称号【聖騎士】。この船の護衛を務めるのもそのうちの一人。
【紅騎士団】団長 聖騎士:カミラ・クリムゾンである。
紅の全身鎧を纏う彼女は聖騎士になって5年と少し。騎士の中で最も若く聖騎士としての経験も一番浅い彼女だが、聖騎士の中でも実力は折り紙付きである。
「会談帰りで疲労もあるだろうが、冒険者とも協力し周囲の警戒を怠るな!」
「「「は!」」」
カミラの飛ばした激に騎士が再度気合を入れる。
ここ最近海の魔物の危険度が高くなっているという噂もあり、カミラはこれまで以上の警戒をしていた。
「聖騎士さん、あんたらはお偉いさんの警護もあるだろう?何かあったら呼ぶから周囲の警戒はその時まで俺らに任せてくれないか?」
船の護衛として雇われていたB級冒険者の一組、6人組のパーティのリーダらしき剣士の男がカミラに提案する。
この提案にカミラはこう返した。
「あなたたちの申し出はありがたいが、この船ごと御仁をお守りすることが今回の任務でありますゆえ。しかし騎士たちも疲労があるのは事実なので、好意に甘えて騎士達は交代で休ませていただく。それでもよろしいか。」
「あぁ!俺らに任せてくれ!」
剣士の青年は笑顔でそう答えた。
その後カミラは、船の警戒班、御仁の警護班、休息班を編成し騎士たちに伝える。
騎士たちは従順に従い、それぞれの支持された場所へと向かった。
周囲の警戒を始めて3時間が経過した頃、海を眺める剣士の男にカミラは問いかけた。
「あなたは海での依頼は始めてなのか?」
「あぁ、海関連の依頼というだけで報酬が高いからな。張り出された瞬間に無くなっちまう。今まではタイミングが悪くてできなかったが、今回は俺が張り出された瞬間に持ってきたさ。」
ガハハッと笑う男はそのまま話を続ける。
「そして今日、この景色を始めて見たんだが...」
剣士の男は感慨深く呟いた。
「こんなにきれいなんだな、海って。」
到底危険だとは思えねえよ、と続けて呟く剣士の男にカミラが口を開きかけた瞬間、
「「っ!!」」
危険な気配を察知し、カミラと剣士の男は船の後方に顔を向けた。
その瞬間、警戒中の騎士から声が上がる。
「船後方の海面に巨大な影出現!!こちらに向かってます!!」
聞くが早いかカミラは船後方へ向かい海面を覗くと、船のすぐ後ろの海面に巨大な影を見つけた。
その影は徐々に海面へと近付き、飛び出して姿を現した。
「....っクラーケン、だと...?」
騎士の1人が恐怖で声を漏らす。
クラーケンは海の魔物の中でも上位に位置する魔物であり、腕を獲物に巻きつけて海中に引き摺り込み捕食する。
いくつもの船がクラーケンに沈められており、災害級の魔物として認定されている。
「怯むな!!腕を斬り続けて巻きつかれないようにしろ!!!魔法班は攻撃魔法で迎撃!私は冒険者諸君には命令権は持っていないがそれぞれ船を守ってくれ!!」
「「「は!!!」」」
「「「「「「任せろ(て)!!!!!」」」」」」
騎士と冒険者の気合いが入り、戦いが始まった。
クラーケンの腕が海面から顔を覗かせ、船に襲いかかる。
カミラは伸びてくる腕を剣で斬り落とし、船と接触させないように立ち回る。伸びてきては斬り、伸びてきては斬り、斬り、斬った。
すぐそばでは剣士の男もカミラと同じように動き回っていた。
「あなた、なかなかやりますね。」
「へっ、これでも剣一本で冒険者してたからな。それでもB級だが、」
「剣の腕はなかなかですよっと!!」
「はっ!聖騎士サマにそう言ってもらえるのは嬉しいモンだなぁ!!」
また一つ、剣を振り下ろし腕を切り落としながら剣士の男は答えた。
「でもしかし...」
2人の視線の先には次々に伸びてくる腕。
「再生されちゃあキリがないな...」
切り落としたところから再度腕が生えてくるのはとても厄介だ。
こちらとしてもクラーケンが魔力切れになるまで斬り続けなければいけない。
魔法も効果が薄いらしく、クラーケンは気にせず船に手を伸ばしている。
カミラがこれはまずいな...と思い始めた瞬間、
ーーーーオオオオオォォォォンンンンン!!!!ーーーー
突如鳴り響いた耳をつんざくような音に船に乗る全員が耳に手を当て、顔を顰める。
「っっなんだこの音は!?クラーケンの攻撃か!?」
「いや!クラーケンがこんな攻撃をするなんて聞いたことがないぞ!!?」
周囲の騎士が声を上げる中、カミラはある気配を捉えていた。
今まで感じたこともない圧倒的な気配が海中から徐々に近づいてくる。
「各員!!!衝撃に備えろ!!!!」
カミラが咄嗟にそう言い放った瞬間、クラーケンのすぐそばで水飛沫が上がった。
水飛沫から飛び出してきたのは、船の何十倍もの大きさの黒い生物。圧倒的なサイズとその重厚感に圧倒され、騎士たちや冒険者は恐怖で声を上げることができなかった。
その生物は船の帆よりも大きな眼をこちらへ向け、そのまま船を丸呑みできそうなほど大きく顎を開くと、クラーケンを丸ごと口に含んだ。
その黒い生物は、大きく水飛沫を上げるとそのまま再度海中へ泳いでいった。
「な、なんだったんだ....今の...?」
冒険者の男が尻をつき震えながら呟く。
他の騎士や冒険者も足に力が入らないらしく、へたり込んでしまっている。
剣士の男も同様である。
「は...これが海か...確かに危険だ。」
ここまで圧倒的な恐怖を味わったのは初めてだ。
彼はしばらく立ち上がることができなかった。
カミラだけはしゃがみ込むことはなかったものの、現在も気合いのみで立っているようなものである。
最後の最後、彼女は確かに見たのだ。
海に飛び込む黒い生物の眼がこちらへ向き、カミラと眼が合ったことを。
その後視線を外すことがないまま海に戻って行ったことを...
「っ早く陛下に...伝えなければ....!!」
彼女は平穏が戻った海を見つめたまま、しばらく動くことができないのだった。
次回はクジラ目線になります。
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