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20話 強者

お待たせしました。


もうじきです、もうじき決戦が...




「ふんぬあぁぁぁ!!!」


ギルドマスター:ガルグは戦斧を担いで勢いよく駆け出し、アオの身体に向けて横薙ぎに振るった。


攻撃をまともに食らったアオは吹き飛ばされ壁に激突する。砂煙で周辺が見えなくなる中、ガルグは額に汗を浮かべていた。


「さすがに力入れすぎたか?」


先代魔王の討伐パーティで攻撃の要だった元S級冒険者のガルグは自身の攻撃力に絶対の自信を持っている。ギルドマスターになって以降前線に出ることはなくなったが、今でも当時の力は衰えていない。


そんなガルグの攻撃をまともに食らうとただでは済まないのだが...



「おいおい、まじかよ...」


砂煙の中からは無傷のアオが姿をあらわすと、ガルグが驚愕の声を上げる。


アオは頭についた砂埃を手で払うと、ガルグに向き直る。


「随分と力込めましたね。」


「どの口が言ってるんだ...先代の魔王に傷をつけた俺の攻撃を受けて無傷じゃねえか」


再度アオに向けて駆け出し、野太い掛け声をあげながら戦斧を振り下ろすガルグを一瞥すると、アオは両手に魔力を集め刃の部分を両手で挟むように受け止めた。


え、この攻撃で先代の魔王傷ついたの?


確かにこの前会った魔王はあまり強そうには見えなかったな。いや、その後にきた大魔王の迫力が凄すぎて霞んでるだけかもしれない。


いずれにしろ、わかってることは一つ。


...ギルドマスター、私のこと本気で殺しにきてたよね?


訓練場に入ってきた彼が私を視界におさめた瞬間、微かに漏らした殺気。最初は気のせいだと思ったが、フル装備で全力で襲い掛かってきたところを見ると、気のせいではなさそうだ。


しかし最初に会った時はあんなに親切に接してくれたのに、どうしてこんなに殺意の篭った攻撃をしてくるのだろうか?


アオは戦斧ごとガルグを持ち上げ、そのまま力任せに壁に投げつけた。そして手に魔力を集中させると、《物質創造》でガルグの戦斧よりもひとまわりサイズの大きい大槌を生み出す。


このスキルを使用するのが初めてだったアオは匙加減がわからず予想よりも大きめの武器が作成されてしまった。見た目は重さ100kgはありそうな大槌だが、アオは片手で軽々と持ち上げることができた。


「っふん!!!!」


アオは大槌の柄を持って頭部を地面に叩きつけると、衝撃波が発生しガルグに襲い掛かる。


「くっ!!」


ガルグは空中で体勢を立て直すと、戦斧を大きく振るって衝撃波を打ち消す。そのまま地面へ着地するとアオに向けて一直線に駆け出し、戦斧を横薙ぎに振るう。


振るわれた戦斧目掛けてアオが大槌を振り下ろすと金属どうしの競り合いで火花が飛び散る。アオは一旦後ろに下がり、手に持った大槌をガルグめがけて横投げで投げつけた。


「武器の扱いが乱暴だ...な!!」


そう言って飛んできた大槌を戦斧で受け止めようとするが、大槌の重さと勢いに負けて後方に吹き飛ばされた。


地面に転がったガルグは即座に立ち上がると、そばに落ちている大槌を持ち上げようと柄に手をかけた。


「っ!?なんだこの重さは...!!!」


ガルグが渾身の力で動かそうとするも、大槌は地面に根を張り巡らせた樹木の如く微動だにしない。


顔を上げたガルグは目の前で拳を振り上げるアオに気づき咄嗟に戦斧でガードするが、アオの拳で戦斧は粉々に粉砕され、拳の勢いは止まらずガルグの腹部を捉えた。


「ごぼおぉぉ!!」


口から血を吐き壁に叩きつけられたガルグは、痛みを堪えながらアオに顔を向ける。アオはヒョイっと大槌を片手で持ち上げると、肩に担いでガルグに歩み寄る。


「ふっ...化け物かよ...」


ガルグは何かを諦めたように身体の力を抜く。


「ちょっと待って下さい!!」


副ギルドマスターのヘレンがガルグに駆け寄ってアオから庇う。


「ギルマス!冒険者たちから聞きましたよ!あなたがいきなりE級の彼女に戦いを挑んだって!その挙句ここまでボコボコにされてるんですよね!?馬鹿なんですか!?耄碌するほどおじいちゃんでもないでしょう!?」


「いや、確かめたいことがあったんでな...」


「なんですかそれは!!?」


ガルグはゆっくりと立ち上がると、アオに向き直る。


「最後に教えてくれ、嬢ちゃんは魔王の仲間なのか?」


「ん?全然違うよ?」


「...そうか」


ガルグの問いかけにそう答えると、ガルグは納得したように頭を下げた。


「いきなり襲いかかってすまなかった。後で話があるから俺の部屋まで来てくれ。」


「え?...わかった。」


正直めんどくさいと思っていたが、少し真面目そうな話をしそうだったので素直に頷くと、ガルグはヘレンに連れられ訓練場を出ていった。


「海人族じゃなかったのか...」


そんな呟きが聞こえたが、アオは特に考えることもなく聞き流した。





※※※




「こ、こちらです...」


新人の受付嬢がビクビクしながらアオをギルドマスターの部屋に案内する。


少し厄介な依頼の受付をしたことに加え、A級冒険者とギルドマスターを倒した化け物ということでだいぶ恐れられてしまったようだ。


アオが扉をノックして入室すると中には椅子に座ったガルグ、その背後に立つヘレン。


ガルグの話とは、アオの冒険者ランクについてだった。


アオの冒険者ランクを判定不可とし、仮のS級とすることにしたのだ。


最終的な判断は各支部のギルドマスターの統括会議で下されるが、元S級の王都ギルドマスターに勝てる新人を燻らせておくわけにはいかないというのがギルドとしての意見だ。しかしガルグ個人としては違う。


「(あの生物が人類が定めた強さの枠におさまるわけねえだろ!?)」


海の巨大生物の正体はアオ、しかしアオに人類をどうこうしようとする気がないことがわかるとひとまず安心した。専守防衛がアオの方針に近いのであれば、こちらから攻撃を仕掛けなければ攻撃されることはないはずだ。


そのことをアオに伝えると、彼女はさして興味もなさそうにしていた。


「一定期間依頼を受けなくても身分証が剥奪されないならなんでもいいよ。王都には肉串買いにくるだけだし。」


売店で購入したであろう焼き魚の串を食べながらそういうアオ。時々「本場の方が美味しいな」と聞こえるのは気にしないでおく。


アオが帰った後、ガルグとヘレンが紅茶を飲んで項垂れていると、受付スタッフの一人が形相を変えてギルドマスターの部屋に乗り込んできた。


「ギルマス!!大変です!!」


「どうした?」


「カマセイヌ侯爵が出していた『海の巨大生物討伐』の依頼ですが、一部のB級冒険者、A級冒険者が受注したようで。来週にでもカマセイヌ侯爵領の騎士と共に討伐に向かうそうです!!その他にもマケイヌ伯爵、カワズ子爵、コシヌケ男爵など、さまざまな貴族がかの魔物の討伐に協力するとのことです!!」


「なんだと!?」


ガルグが机をひっくり返して立ち上がり、まさかの報告に頭を抱える。


「奴の依頼は誰も受けないと思っていたんだが...!!」


「カマセイヌ侯爵にしては珍しく依頼料を弾んだようで、資金繰りに困った冒険者が受注したようです。奴を海から誘い出し、陸で戦いを仕掛けるつもりみたいですよ。海での戦闘ではないのでB級以下の冒険者も参加可能となり、爆発的にたくさんの受注がされたようです。」


「はぁ...この国もこれまでか?陛下もなぜ許可したのだ..」


「貴族会議で陛下の許可を得ずに強行したようですよ?」


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ.....念のため陛下と聖騎士長に連絡しとくか。ヘレン頼んだ。」


「はい」


人類存続の危機が迫っていることに身が震えるガルグなのであった。




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