14話 人類Side④
長らくお待たせしました。
人類Sideでのお話になります。
「へへ!うまく護衛を撒けたな!」
ソルブレイユ王国第三王子のクリストファーは城下町を歩きながらそう呟いた。
学院の勉強と王子としての執務、騎士との合同訓練が繰り返される毎日に嫌気がさした彼は、護衛に一言も告げずに城を出た。
「今日は初めて魔物を討伐して聖騎士団長に自慢してやろう。」
いつまで経っても討伐に参加させてくれないことに痺れを切らした彼はこうして一人で城壁の外へと出たのだった。
手始めに森で適当な魔物を討伐することにした彼は森に向かって歩を進めた。
道中誰ともすれ違うこともなく、魔物とも遭遇しなかった。
「そういえば魔物ってどんな姿をしてるんだっけな?」
第一王子や第二王子と違って討伐に参加したことのない第三王子のクリストファーは、魔物の姿を見たことがない。
魔物の姿が記された文献は存在するものの、彼はその文献すら見たことがない。
彼はその文献の存在を知ってはいたが、魔物の姿を見るのは討伐の時まで取っておくつもりでいたのだ。
しかしいつまで経っても討伐の許可がもらえないので彼は待ちきれなくなったのだ。
「...ん?」
森に差し掛かったところで彼は木の影から何かが見えた。
木の影から見えているのは尻尾だった。地面にビタンビタンと叩きつけている。
しかし、その尻尾は獣人のものと違い毛も生えていない。尾の先が左右に広がっている獣人なんていただろうか?
は!もしかして魔物の尻尾!?
尻尾の大きさからして体調は自分と大差ないだろうと当たりをつけたクリストファーは腰の剣を抜いた。
初めて討伐する魔物はこれに決めた!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
大きく声をあげて木の影に潜む魔物へ飛びかかり、勢いをつけて斬りかかった。
「...へ?」
斬りかかった先には紺色の髪を靡かせた少女がいた。
しかしその腕と足には獣人とは思えない物体がついており、それはクリストファーの苦手な魚を彷彿とさせた。
その少女は剣をひらりとかわすとこちらを睨みつけてきた。
「いきなり何?」
少女型の魔物は静かにこちらに問いかける。
魔物っていうのは言葉を喋るのか。惑わされないようにしなくては!!
「ふん!!!」
再度剣を振り下ろすが、魔物はそれを腕で受け止めた。
傷ひとつなく。
「剣が効かないなら魔法だ!!《ファイアーボール》!!」
いくつもの火の玉が魔物に向かって飛んでいき魔物にぶつかり爆発する。
もくもくと煙が立ち上り砂埃が舞うものの、そこから姿をあらわした魔物は無傷だった。
「くっ!《ファイアーボール》では傷もつかないのか!魔物というのは存外頑丈なのだな!!」
クリストファーは新たな魔法の準備を始める。
魔物は眉を顰めながら腕を組んで見ているが、こちらに攻撃を仕掛けてくる気配はない。
そう考えている間に魔法の準備が整った。
「喰らいやがれ!!火属性上級魔法!!!」
巨大な炎の塊が飛んでいき、魔物の着弾して大規模な爆発が巻き起こる。
火属性魔法を打ったことで木に燃え移り、あたりは火の海となってしまった。
木も花も全て火に包まれている。
「ふう....まぁ僕の実力はこんなものかな....」
クリストファーが満足して帰ろうとすると
「....なんてことしてくれたんですか.....!!」
「っ!!」
砂埃の中から姿を現したのは無傷の魔物。しかし爆発のせいで全身に砂をかぶっている。
「せっかくの薬草が...あんなにたくさん生えてたのに...!!!」
「馬鹿な!!上級魔法だぞ!!なぜ傷ひとつついていないんだ!!」
クリストファーが叫ぶ声に魔物は反応しない。
「いきなり斬りかかってくるわ魔法は撃ってくるわ、挙げ句の果てには依頼の邪魔をするなんて...向こうから攻撃して来たんだから正当防衛だよね...」
魔物は何かボソボソと呟いているが、クリストファーには聞き取れなかった。
おもむろに魔物がクリストファーに手のひらを向ける。
「...《शियोमिज़ु》」
何か聞き取れない言葉を呟いたかと思えば、魔物の手のひらから大量の水が噴き出しクリストファーに迫る。
「な!?魔物が魔法だと!?...なんだこの水しょっぱ!!!」
大量の水によって足が地面を離れ、自分を襲う水が塩水であることに気が付いたが、水の勢いに逆らえず森の外まで押し流された。
「くそ!塩水を出す魔法なんて知らないぞ!!」
地面に転がされたクリストファーはなんとか体勢を整え立ち上がると、森から溢れる塩水は消え去っていた。
代わりに森からは今までとは比べ物にならないほど莫大な魔力が溢れていた。
「...依頼を失敗すると冒険者ランクが低下するらしい。初依頼で失敗した私は一体どうなるんでしょう?」
その魔物が鬼のような形相でクリストファーに迫る。
♢♢♢
「くそぉ、あのバカ王子どこ行きやがった...」
「ヘンリ様、いくら何でもその言葉遣いはまずいんじゃ...?」
「いいんだよ、それより早く見つけねぇとニコラス様に怒られちまう!」
聖騎士ヘンリ・アジュールはそう言って廊下を駆ける。
書き置きを残して消え去った王子を探し、これから城壁の外へと向かうところである。
まぁ確かに最近のクリストファー様はストレスを溜め込んでいる様子だった。
今までも何度か脱走したことはあったが、城壁の中で収まっていた。
わざわざ城壁の外に出てストレス発散することもないだろうに。
「また脱走したのですか殿下は。」
声の聞こえた方向を向くと、そこには紅の鎧をつけたカミラが歩いていた。
「...カミラか。あぁ今度は城壁の外まで出たらしい。」
「はぁ、よりによって城壁の外とは。一緒に行きましょうか?」
「あぁ、どこまで行ったかわからんからついてきてくれると助かる。」
そんなふうに二人で話していると突如
ーードオォォォォォォン....
「「!!??」」
突然の地鳴りに二人は周囲を警戒する。
窓の外から外を伺うと城壁の外で火柱と煙が上がっているのが見えた。
「カミラ、カルロス様に報告だ。俺はこのまま外へ向かう。」
「了解。報告後に合流します。」
「頼んだ。」
そういうが早いかヘンリはその場から姿を消した。
カミラも報告のためにカルロス様を探しに行くことにした。
「...そういえばアオさんも今日外にいくって言っていたな...」
最初に話をした後に何度か話をする機会があり、今ではカミラの飲み友達となってくれている冒険者にして魔物のアオさん。
先日夕食を共にした時にそう言っていたのを思い出した。
「まさかな...」
いくら彼女が魔物とはいえ見境なく人を襲うなんてことはしないだろう。魔力から見て彼女は善人だ。
とりあえず私は急ごう。
そう考えたカミラは急いでカルロスを探しに行ったのだった。
♢♢♢
ーーードゴォォォォン!!
「グハッ!...がは....」
傷だらけで身体の至る所に打撲痕を作ったクリストファーは地面を無様に転がった。
衝撃で地面に血を吐いた。
あの人型の魔物が反撃を始めてから、僕は一方的に攻撃を受けているように感じる。
「...そんなに力を入れていないのにこんなに吹っ飛ぶとは...クジラの身体の時の筋肉量がこの体に凝縮されてるのかな?」
こちらに歩いてくる魔物は何かを呟いているが、聞き取ることはできない。
「..魔物というのがこんなにも強いものだとは..今まで止められていたわけがようやくわかったよ。」
兄上たちはこの魔物を倒せるほどの実力をすでに身につけているという訳だな..僕では力不足もいいところだ。
一方的に攻撃を仕掛けて魔物を怒らせ、その魔物に嬲られているこの状況。今の自分はさぞ滑稽だろう。
「くっそぉぉぉぉぉ!!!!」
声をあげて斬りかかるクリストファーだったが、その魔物の頭部に剣が当たった瞬間剣は砕けてしまった。
その魔物が身体を捻って大きな尻尾でクリストファーの腹部を叩き、クリストファーは大きく吹き飛ばされた。
城壁に勢いよく激突し城壁にのめり込んだクリストファーは頭部から血を流し、口ぼ端からは血をこぼしている。
「ぐふ....」
「最後に言い残すことは?」
「....」
「そう....」
魔物はクリストファーに問いかけるがクリストファーはすでに満身創痍、意識はあるものの反応などできるはずもない。
トドメを刺そうと魔物の指先に魔力が集まり始めたその時。
「そこをどけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「!」
ヘンリから魔物に対して振り下ろされた直剣を魔物は片腕で受け止めた。
火花を散らす迫り合いはヘンリが引いたことで収まる。
「殿下!!無事...ではないですね!?早く救護班を!!」
「...その声は...ヘンリ...か...?」
ヘンリはクリストファーを兵士たちに任せると元凶に目を向けた。
凄まじいほど大量の魔力を放出する人型の魔物...いや、もはや魔族とも言えるか。
そんな魔物が怒気を放ちながらこちらに歩いてくる。
「初戦闘でこの相手はまずいだろう...俺たち聖騎士が数人がかりで戦うような相手だぞこれは...」
額に汗を浮かべながらヘンリは呟いた。
正直、自分一人ではまともな傷さえ与えることができないとヘンリは考えている。
「早く来てくれよカミラ..!!」
そうしてヘンリは剣を構えるのだった。
※クジラが言っているのは日本語です。日本語だから言語の異なる異世界人が聞き取れないというだけです。




