13話 小競り合い
クジラの気ままな生活です。
相変わらずのんびりします。多分。
王都に行ってから1ヶ月後。
私は海にいた。
なぜかって?決まってるじゃん。
自分の家にいるだけだよ?
人化の魔法は肩が凝るので、王都に行く用事がなければ私は海にいる。
クジラの姿の方がのびのびと過ごせるからいいのだ!
そんな私は今、陸からとても離れた沖にて、海面から身体を出し日向ぼっこをしている。
太陽の光が背中に当たり、身体がポカポカと暖かい。
あまりの気持ちよさにうとうとしていると、何かが近づいてくる気配を感じた。
薄く目を開けると、やや大きめの船が徐々に近づいて来るのが見えた。
結構な人数が船に乗っているようで、波によって不規則に揺れながらこちらに向かって進んでいる。
(....なんだかすごく敵意を向けられている気がする。)
徐々に近づく船からはとてもたくさんの小さい気配を感じた。
これは人間だろうか?
人間の気配ってこんなに小さかったっけ?
しっかし、船って結構遅いのね。
気配を察知してから30分くらいはじっとしていたが、すごくゆっくり進んでくる。
私との距離がだいぶ縮まったところで船は止まった。
船をしばらくの間見つめていると、大量の魔法の気配を感じた。
次の瞬間、様々な魔法攻撃が放たれた。
火属性に風属性、土属性などの魔法が次々に私の身体へ着弾するが、痛みはそこまで感じない。
なんて例えようかな、頬を丸めたティッシュでツンツンされているくらい?
しかし、間隔を開けずに飛んでくるせいで少し鬱陶しい。
まぁ、気が済んだら帰るだろうし、放っておこう。
そして私は目を閉じた。
数時間が経過した。
攻撃?はいまだに続いている。
それが気になりすぎて全く寝れないんですが!?
なんなのさっきから!?
あの人たちも疲れていると思うのに、全く攻撃を止める気配を見せない。
私も少々イラついてきた。
根本的な原因を潰そうか考えてしまう。
あの船壊すか?とかね。
しかし、いきなり反撃してそれで全滅してしまったらなんか悲しいじゃん!?
死んでしまったら私が悪くなっちゃうわけだし!!
まずは警告だ。
いきなり暴力に頼ってはいけない。
まずは言葉による対話を。
「ボオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
ひとまず声をあげて警告をする。
「ーーーーーー!ーーーーーー」
船の乗員たちは何やら騒いでいるみたいだが、声が小さいせいで全くわからない。
《時空魔法》と《音魔法》を組み合わせて範囲内の音を拾う結界とか作ればいいんだろうけど、即興では作れない。
次回に持ち越しだ。
というかあの人たちどんだけ魔法放ってくんのさ。
まさか、あれが海賊ってやつか?
誰彼構わず襲いかかって人を殺したり宝を奪ったりするアレか?
確証はないが、多分そうなんだろう。
それじゃあ国の騎士たちに引き渡すほうがいいな。
海流操作であの港町まで送ってあげよう。
《海魔法》の海流操作で強制的に撤退させます。
それではさいなら!!!
「ボォォォォォォォ!!!!!!」
突如発生した波に船は舵を取れず、どんどんと私から離れていった。
必死に戻ろうとしているようだが、私の海流操作には敵わないようだ!はっはっは!!!!
ある程度距離が離れたところで私は海の中に潜った。
戻ってこられても困るし、魚でも食べに行こうっと。
♢♢♢
深海でタコの魔物を頬張りながら私はふとカミラさんとの会話を思い出していた。
空を飛ぶ黒く巨大な海の魔物...ね...
この1ヶ月、私は海の中に超音波を張り巡らせ、その魔物を探した。
超音波のタイミングで空を飛んでいる可能性も考え、海だけではなく空に向けても超音波を発信した。
しかし見つけることができなかった。
海の管理を任されているものとしては、その魔物をできるだけ早く発見して話がしたいんだけど...
まあ見つからないものはしょうがない。
もしかしたら超音波から身を隠す魔法とかがあるのかもしれないしね!!
と言うわけで、新たな魔法を獲得できればと思っている。
私の身体の大きさだと目視では難しいところも存在するから、小魚サイズの私の分体を作り出す魔法でもあるかな?
こんな時こそ教えて!創造神様!!
なになに....《物質創造》でそれっぽい身体を作ってその身体に魔力で核を作ればいける?
なるほど...わかったありがとう創造神様!!
てなわけで作りました!拳サイズのクジラ!
人間の拳サイズだから今の私から見たら米粒よりも小さい。
とりあえずそんなミニクジラを100体ほど作っておいた。
彼らに個々の意識はなく、視界に映った情報は私に全て伝達される。
言うなれば私の操り人形のようなものだ。
情報伝達(音声、視覚)及び反撃を自動で行う以外はただのミニクジラだ。
魚なので食用にもできる。まぁ食べてほしくはないが。
一見はただの魚だが、そこらの魔物よりは強いよ多分!!
あ、カミラさんの顔を思い出したら串肉も思い出した。
そういえばストックが少なくなっていたような...?
収納の中を確認すると、まさかの残り一本!?
今ここで食べたら終わりじゃん!!!
買いに行かなきゃ!!!
と言うわけで、転移で王都へやってきた。
なぜだかわからないけど、たくさんの騎士とすれ違った。
その全員がやたら険しい顔をしていたのは気のせいだろうか?
前に串肉を購入した出店が今日は営業していなかった。
別の店で買おうとしたが、なぜか全ての出店が閉まっていたので仕方なく冒険者ギルドに寄ってから帰ることにした。
なんで来た日に限って全部閉まっとるんや。今日は祝日だったのかな?
しょうがないので冒険者ギルドに向かっておく。
そういえば私って冒険者登録してから今まで一つも依頼をこなしていないんだよね。
前世の情報によると、身分証明書として使用するだけの場合は依頼をこなさなくてもいい場合もあるらしいが、依頼をこなさないと剥奪される場合もあるらしい。
それはまずい。非常にまずい。
と言うわけで向かうことになった。
歩いて冒険者ギルドまで行くと、なにやら中は騒がしかった。
騒がしいというか、殺気立っているというか...
それなりに強い冒険者たちがピリピリとした雰囲気を醸し出している。
私はそんな冒険者たちを横目に受付へ向かった。
「あのぉ、すみません...」
「あら、あなたは....」
「なんか妙に殺気立ってますけど、何かあったんですか?」
「以前から噂になってる海の魔物が先ほど海面にいたのを確認したため、討伐のための戦力調査に行っていたBランクの冒険者たちが先ほど戻ってきたんですよ」
噂になってる海の魔物...カミラさんが言っていた黒くて巨大ってやつかな?
Bランクって上から3番目でしょう?かなりの強さだよね?
今戻ってきたってことは、私があの海賊船を送還したのとちょうど同じタイミングじゃないか!
でもおかしいな、今海には僕の分体がたくさん配置されているのにそのどれもがその魔物を視認できていない。
どういうこと?さっき海にいたんだよね?
私の超音波でも目視でも存在を確認できないってもはやステルス性能の枠を超えていないかな?
「そのため、今は上位ランク冒険者の緊急招集が行われている関係上、業務を縮小しています。」
つまり、自宅待機を余儀なくされているというわけですか。なるほどなるほど...
ところで...
「私ってギルド登録してから今まで何も依頼を受けていないんですけど、今受けられる依頼ってあります...?」
「......あなた私の話聞いてた?」
受付嬢の女性が目を丸くして聞き返してきた。
「流石にここまで何も受けていなかったのはまずいと思いまして...」
「...それは確かにそうですが...はぁ...」
受付嬢さんはため息をつくと私に向き直る。
「今ご紹介できるのはないですね。明日でしたらこの依頼が受注できます。回復薬の元になる薬草の採取です。報酬は銅貨10枚になります。」
「回復薬の薬草?どんな種類のやつですか?」
「?薬草といったら一つしかないのですが...こんなやつです。」
受付嬢さんが薬草の絵を見せてくれた。
一見ただの雑草のようにしか見えないが、よく見ると特徴がどことなくヨモギに似ている。
「じゃあ明日またきます!その依頼取っておいてくださいね!」
「早いものがちなので早くきてくださーい。」
なんだって?それじゃあ朝イチでギルドに入ってやろう!
明日こそはちゃんと冒険者をしなくちゃね!!!




