12話 会談
「君は海の魔物だな?」
カミラさんが真剣な目つきで私に問いかけた。
その眼は狩人のように鋭く光っており、一つ間違えば自分の命が刈り取られそうな錯覚を覚えた。
私はそんな様子のカミラさんを見ながら考えを巡らせていた。
なぜ私が海の生き物だとバレた!?人化の魔法が甘かったのか!?
確かに尻尾とかヒレとか所々クジラ要素出ちゃってるけども!!
それだけで海の魔物だなんて思わないでしょ!?
いや、もしかしたら何か致命的な間違いが...?
「ど、どどどどうしてそう思ったんですか...?」
私はとりあえずカミラさんの根拠を聞くことにした。
具体的な根拠がないのであればなんとなく流せるかも...?
カミラさんは麦酒を煽ると、テーブルにジョッキを置いた。
「君を纏う微弱な魔力が海の魔物から発せられるものと同じだからだが...」
はい!アウトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
決定的な証拠いただきましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
というか私ってこの世界で魔物の部類だったのぉ!?
まずい、確かカミラさんは聖騎士とかいういかにも強そうな地位にいる人だよな...?
ということは...?
私討伐対象なんじゃない!?
あ、まずい怖くて震えてきた....
「あぁ、だからといって君を討伐しようと思って聞いたわけではないからそんなに怯えないでくれ。私は君と話がしたかっただけだ。」
カミラさんが手をひらひらと振って私にそう言ったので、私も震えていた身体をなんとか落ち着かせた。
「そ、それで話とは...?」
「あぁ、単刀直入に聞くが、君は巨大な黒い魔物は知っているか?」
「...巨大な黒い魔物?」
一体なんの話だろうか。
私を海の魔物と確認した上で聞いてくるということは、海に巨大な黒い魔物がいるということだろうか?
うーん、海の管理をしているとはいえ、そんな魚とか魔物は見たことがないなぁ。
最近見た大きいのはイカだけだし。
「...ちょっとわからないですね。」
「そうかぁ、そうだよなぁ。」
カミラさんは顔を真っ赤にして机に頭を落とした。
「同じ海の魔物だったとしてもあいつに接触するのは難しいか...」
「何か伝えて欲しいことがあるんですか?私でよければ伝えておきますよ?」
「いや危険だ。知り合いだったなら話し合いの余地もあるだろうが、そうでないなら一方的に食われておしまいだ。」
まじですか。
クジラ形態の私が一方的に食われるなんて....
海っていうのはまだまだわからないことがたくさんあるんだなぁ...
でもそんな危険な魔物がいるならもう少し調査した方がいいかな...
「それじゃあ私はその魔物を探してみるんで、結果がわかったらまたカミラさんに伝えますよ。」
「なに?」
カミラさんが驚愕した目で私を見つめる。
「しかし、つい先日も空を飛んで王都上空に来て我々に威嚇をしてきていたのだぞ?いくら君が同じ海の魔物とはいえ、かの魔物が君の言葉に素直に耳を貸すとは思えん。近づいた途端一口で食われて終わりだ。」
「え?空を飛んで?海の魔物ですよね?」
「あぁ、なぜかは知らんが飛んでいた。」
ドユコト?私以外にも空を飛べる海の魔物がいたってこと?
えー尚更会って話をしてみたい。
「じゃあ調査をして新しい情報がわかったら連絡すればいいですかね?」
「本当に頼んでもいいのか?君には何のメリットもないだろう?」
カミラさんは申し訳なさそうに私に問いかけるが、私は軽く答えた。
「気にしないでください。海に住んでるのは事実なのでついでに調査するだけです。」
「...そういうことなら助かる。できれば私からも連絡を取れるようにしておきたいんだが、」
「冒険者登録をしているので、それでできませんか?」
私がそういうと、彼女はひどく驚いた顔をした。
「冒険者登録?あれは確か種族や魔法の検査をするだろうに。よく引っ掛からなかったな?」
「ギルマス?と呼ばれていたおじさんがやんなくていいよと言っていたので。」
「...ほう?」
私の言葉に彼女が目を薄くする。思わず身震いしてしまった。
「..まぁ冒険者の登録をしているのなら助かる。登録番号がわかれば直接連絡が取れるからな。教えてくれないか?」
「はい、カードこれです。」
私が冒険者のカードをカミラさんに手渡すと、彼女は番号を見ながらメモを取りカードを返す。
私は用事も済んだし帰ろうかな。人化の魔法で疲れたから海で休みたい。
「それじゃあ私はこれで...」
「あ、すまん.最後に一つ。」
カミラさんは先ほどよりも鋭い目つきで私に視線を向ける。
「君は魔王と関係があるか?」
「魔王?そんなのがいるんですか?」
即座に返したこの返事でカミラさんの視線は元の温かみを取り戻した。
「いや、知らないならいい。時間を取らせて済まなかったな。宿屋まで送っていこう。」
「大丈夫ですよ、すぐ近くなので。じゃあ失礼しますね。」
そう言って私は食堂から出た。
「...私を食べるほどの強い魔物、か。」
私よりも巨大ってどんだけ大きいんだろう。
すごーく気になるけど、先に仕事をこなそう。
それよりも...
「ねむっ......」
早く帰って元の姿で寝よう。
そう考え、私は海に直接《転移》したのであった。




