11話 邂逅
お待たせしました。
遅くなってしまい申し訳ないです。
そろそろ海に帰ろうかな。
転生してから初めて人型になり、海から王都まで歩いた。
距離はおおよそ30キロくらいだろうか?
冒険者登録も済ませたことだし、これからは王都に直接《転移》することができるので定期的に通うことしよう。
冒険者登録をしたのに依頼を受けないのはよくないからね!
でも今日は疲れたから海に帰ろう。
私は異空間収納から串肉を取り出し、勢いよくかじりついた。
うん、美味しい!!
せっかくだし、もう少し食べ歩きしてから帰ろうかな?
見た感じ串肉以外にも美味しそうな物がたくさんあった。
楽しみになってきた!!
「おい嬢ちゃん、こっちで一緒に飲もうぜ」
「俺らはCランク冒険者なんだが、ちょいと付き合ってくれねえかな?」
串を咥える私の前に目の前に二人の強面の男が現れた。
何やら酔っているらしく、顔が赤い。
「・・・・?」
「おい、聞いてんのか?」
私はキョロキョロと周囲を見渡すが、周囲にお嬢ちゃんと呼ばれる年代の幼女はいない。
「...もしかして、私ですか?」
「お前以外いねえだろ!?いいからこい!!」
冒険者の男は大声を出すと私に手を伸ばしてきた。
..が、その手を横から掴む人物がいた。
「...君、今の行動は紳士じゃないぞ」
「あぁ!?離しやがれ!!お前俺が誰だと思っ....て...っ!?」
私は最初の声の人物に顔を向けると、そこには紅の鎧を装着した長身の女性が男の手首を掴み、真顔で男性を見ていた。
「君が誰かは知らんが、無理矢理連れて行くのはあまり良くないぞ。」
「「く、“紅の聖騎士“!?」」
男が勢いよく手を振り払ったが、その勢いで地面に尻をついた。
その女性はその男の腕を離した後でふと視線を私に向けると。
「っ!!!!」
一瞬、女性の顔が見るからに強ばり、すぐに取り繕った笑顔を浮かべる。
「大丈夫だった?」
彼女が礼儀正しく私に声をかけた。
「あ、はい。大丈夫です。」
私は口から串を抜き取りながら答える。
「く、逃げるぞ!!」
「あ、アニキぃ!!待ってくれぇ!!」
先ほどの男二人が立ち上がるとダッシュで逃げてしまった。
「あいつらめ...」
「あ、大丈夫ですよ何もされていないので。」
「そうか?まぁ君がいいならいいが。」
私からしたら、いきなり前に出てこられてびっくりしてる間に終わってたから特段気にしていないからね!
「それよりも、少し君と話したいことがあるんだが、後で時間をもらえないか?」
「へ?」
初対面の私に話?
聖騎士っていうくらいだから、結構偉い立場なんだよね?この人。
そんな人が私に話って...
厄介ごとの匂いしかしない!!
そういえば前世でのぞみが言ってた!!
『異世界で権力者に関わったら最後、結婚を迫られたり抱え込み冒険者としてこき使われたりするんだよ!!上位貴族に成り上がるための足掛かりとして献上されたり、遊びでオセロを作ったら商品化されてウハウハになったり...』
身なりからしてこの女性はお抱えの聖騎士とかなのだろう。
おそらく、仕える主人に献上して評価を上げることが目的なのでは...?
怖い、怖すぎる!!
というか私まだこの人の名前すら知らないし!!
あ、いい断り文句があったわ。
小学生の時に母親から口が酸っぱくなるほど言われたあの言葉が!!!
「知らない人について言っちゃダメって言われているので...」
「あ、あぁ、確かにそうだな....」
その女性は苦笑いをして引き下がった。
さすがだな、この断り文句。
常識のある人でよかった!!
「では自己紹介を。私はソルブレイユ王国に仕えており、紅騎士団の団長をやっている。聖騎士:カミラ・クリムゾンだ。よろしければ貴殿の名を教えてくれないか?」
名前を教えろだってぇぇぇぇ!!!!????
これはあれか!?『お互い自己紹介したんだから知らない人じゃねえだろう?』とかいうつもりか!?恐ろしい!!
これがお前らの、やり方かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
....失礼、取り乱しました。
「....アオです。」
名乗ってもらったのに自分は名乗らないなんて礼儀がなってないもんね。
「アオか、いい名だ。」
カミラさんはニコっと微笑んだ。
うわあ、整った顔の女性が微笑んでる、イケメンだ。
騎士の鎧といいその美形といい、男性騎士より親しみは持てる。話くらいなら聞いてもいいかな。
「ところで話というのはどこで...?」
「あぁ、そうだな...3時間後に冒険者ギルドの食堂に来てくれるか?流石に城に招待するわけにはいかないからな。」
ほほう、冒険者ギルドね。
「わかりました。ではまた後で。」
「あぁ、では私はこれで。」
そう言ってカミラさんはどこかへ歩いていった。
「....海へ帰ろう。」
待ち合わせまでは少々時間があるから、それまで海に戻ろう。
《転移》があるからまたすぐに来れるしね!
海は私の家だから。家に帰るだけだからなんの問題もない!!
♢♢♢
3時間後。容赦ない日差しを照りつけていた太陽もすっかり落ち、周囲はすっかり闇に包まれている。
私は一度海に戻って休憩をしたのち、再度王都へ訪れた。
そして現在、冒険者ギルドの食堂前...
...ではなく依頼ボードの前にいた。
食堂に向かったところカミラさんが見当たらず、配膳の人からはまだ来てないと言われたため多少の時間を潰すことにしたのだ。
それにしても海は本当に落ち着くわー。
身体をうんと伸ばせるからね。
人型ってのも楽じゃないわー。
「アオさん。」
声の方向に顔を向けると、そこには鎧ではなく普段着姿のカミラさんがいた。
鎧を着ていないからだろうか、先ほどよりも色っぽい。
「おっぱいの暴力......」
「何か言ったか?」
「いいえ、なんでもないです。」
「そうか、ではこっちに来てくれ。」
とても真摯な対応で私を食堂の一席に案内してくれた。
....若干、弾んでいる。
見てません、あなたの大きいおっぱいなんて見ていませんとも。
鎧くん、あなたはしっかり仕事をしていたんですね。素晴らしい。
「麦酒とソーセージ盛りを一つ、アオさんは何か飲むか?」
「私はオレンジジュースで...」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
ウェイトレスが席を離れる。
「君は王都に住んでいるのか?」
「いえ、今日初めて王都に来たんです。」
「一人でか?家族は?」
「いませんけど...」
なんかめっちゃ聞いてくるなぁ...
《音魔法》でカミラさんの声の意識を読み取り、悪意を持っているわけではないことはもうわかった。
でもこんなに私のことを知りたがるなんて...
こんな獣人が珍しいってだけかな?
はっ!!もしかして!
...純粋に心配してくれているのでは?
こんな小娘が一人で王都なんて危険!!ってことじゃないか!?
さすが聖騎士、王国民でもない見知らぬ獣人にも慈悲を与えるなんて.....!!
「...どうしたんだ?突然拝みだして。」
「いえ、なんでもないです。」
そんな会話をしているタイミングで注文の品が運ばれてきた。
カミラはジョッキを傾け、一口飲むと真剣な眼差しをこちらへ向ける。
「単刀直入に聞く、君は海の魔物だな?」




