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渡し愛  作者: 稲穂ぴす
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05_ホテイアオイ-後編-

  目が覚めた時には私はベットに寝かされていた。

慌てて体を起こすと、シスターリリィがベットの横でびっくりして小さな悲鳴を上げる。


「シスターリリィ・・・・・・。なぜ私は教会に?」

「ソラティ、ムーマに襲われたの。」

「ムーマ?」


 シスターリリィはカスティール司教様を呼びに行くと言って、部屋を出て行ってしまう。その背中を見送ってから私は何をしていたかを思い出していた。

 確か、リヒシュとご飯に行って。そこからリヒシュの様子がおかしくなって・・・・・・。そこまでしか思い出せない。

 周りを見渡してみると衝立に区切られたベットがいくつか並んでいる。ここは救護室かなと考えているとカスティール司教様とシスターリリィにレト司教様、そしてジーク司教様も入ってくるのが見えた。カスティール司教様がベットの横に来て私の顔を覗き込む。


「気分はいかがですか?」

「もう、大丈夫です。・・・・・・あの、シスターリリィが言っていたのですが。私はムーマというものに襲われたと。」

「ええ、まさかオリキュアル国に入ってきているとは思ってもみませんでした。あれは本来この国にはいない魔物なのです。」


 魔物、その言葉にリヒシュの事が気になったことに気付いたレト司教様がリヒシュも無事だと話してくれて、小さく安堵の息をこぼした。リヒシュはまだ眠っているらしく、おそらく今日の出来事を覚えていないだろうとカスティール司教様に言われた。

 ふと、ジーク司教様の事が気になって視線を向けると視線がぶつかり合う。そういえば、あの時ジーク司教様の声が聞こえたような・・・・・・。

そう考えているとジーク司教様が顔を逸らしたので、私は声をかけられずに俯く。


「レトと私はソラティさんに飲み物を持ってくるのとリヒシュさんの様子を見てきます。ジーク、その間ソラティさんの事をお願いいたしますよ。」

「な、なんでオレが。」


 カスティール司教様の言葉に驚いた声をあげたジーク司教様だったけど、カスティール司教様の顔を見た途端バツの悪そうな表情に変わって分かったと呟いた。

それに頷いてシスターリリィとレト司教様と共に救護室を出て行ってしまい、残されたジーク司教様はその場から動かず、視線もそらされたまま静寂が続く。


「身体は、大丈夫か。」


 気まずさでそろそろ耐え切れなくなりそうな時、ジーク司教様の声が私へ向けられた。その質問に私は顔をあげてジーク司教様を見る。


「まだ、何が起きたのか整理がつかなくて。混乱してます。」

「そうか・・・・・・。」


 ジーク司教様がベットの右脇に置かれた椅子に腰かけて私の手首に触れる。脈でもとっているのかと首をかしげているとジーク司教様が深呼吸をして意を決したように私の方を向いた。


「何があったか、知りたいか?」

「え・・・・・・。」

「基本的にはこういった事があった時は当事者には何も告げないのが決まりだが、ソラティには知ってもらいたい。そして、知った上でオレの気持ちを聞いてほしい。」


 ずっと考えていたのだろうか、ジーク司教様の表情は真剣そのもので私は言葉に詰まってしまった。

これまで恋愛そのものを自覚したこともなかった私にはこの緊張感の中で何を言えばいいのか分からず、俯いてしまう。

そんな私にジーク司教様は今すぐに決めなくていいと声をかける。


「ソラティ、悩んでいるのなら今結論は出さないでいい。」

「・・・・・・すみません。」

「いや、まだ落ち着いていないのに急な事を言った。すまない。」


 その代わりに、とジーク司教様はムーマについて説明をしてくれた。


「ムーマっていうのは人にとりついてその人の心の欲求を解放させる魔物で、人の心をじわじわと食い尽くすという特性がある。」

「人の心を食べるんですか?」

「そうだ。だから一見するととりつかれているのか見分けがつかない。

教会では魔物に襲われた人々の手当てもしているが、ムーマは本来この国に入ってこれないから油断していた。」


 ジーク司教様の説明を聞いているとレト司教様とカスティール司教様が戻って来て、ホットレモンをいただきながら私は再びジーク司教様の熱弁に耳を傾けることにした。

 未だ胸の中ではジーク司教様の言葉に心が揺れていた。



ホテイアオイの花言葉は揺れる心

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