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渡し愛  作者: 稲穂ぴす
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05_ホテイアオイ-中編-

「それは、どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味だよ。」


 私は目の前で私を見つめ返しているレト司教様の言葉の意図を理解しきれなかった。

頭にはてなが浮いていたのか、レト司教様は申し訳なさそうな表情で自分のカップに紅茶を足しながら話を続ける。


「司教は恋愛をしてはいけない、というルールは存在しないんだ。

 この教会にも恋人を持つ司教やシスターもいるからね。」

「ジーク司教様は聖職者の立場だから断ったという訳ではない、ということですよね。」


 私の言葉にそうだよと頷いて肯定するレト司教様は、そのまま話を続ける。


「きっとジークはソラティちゃんに自分の事を知られて、嫌われるのが怖いだけなんだ。」

「そうなんですね・・・・・・。」


 レト司教様は微笑んで紅茶を飲み、私もそれ以上は聞かずに紅茶を飲み切ってから作業を始めることにした。

あまり作業自体に時間はかからず、ホテイアオイを噴水にそっと浮かべて、もう少し育ったら株分けも行えるだろうと考えていたら、レト司教様に今日の作業はこれで終わりと伝えられたので、紅茶のセットを一緒に片づけてから教会を後にする。

今日は結局ジーク司教様と話すことはなかったな・・・・・・。

 はあ、とため息をこぼしてからジーク司教様の事を頭から追い出すように首を横に振って花屋へと戻っていく。

これからリヒシュとご飯なのだから変な顔をしないようにしないと。



「ソラティ、こっちだ。」

「ごめんね、リヒシュ。遅れてしまって。」


 静かな店内でウェイトレスに案内してもらった席にはすでにリヒシュが座っている。

結局あの後花屋でもぼーっとしてしまっていたせいでほんの少し遅刻してしまった私はリヒシュに謝りながら席に着いた。

私が席に着いてからシャンパンをグラスに注いでもらい、乾杯と同時に料理が運ばれてくる。


「勝手にいくつか頼んでしまったけど、追加で食べたいものがあったら注文してね。」

「ありがとう。」


 そこから互いの近状や学生時代の思い出に花を咲かせた。

リヒシュの方で注文してくれていた料理はどれも美味しくて、私が頼みたかった料理もしっかり頼んでくれていた。


「ソラティはずいぶん変わったんだね。」

「そうかしら。リヒシュの方が変わったと思うけれど。」

「僕は何も変わってないよ。しいて言うなら逞しくなったくらいかな。」


 そうかもねと笑っていると、リヒシュの顔つきが真剣なものに変わっていき、一息をついてからこちらに身を乗り出してねぇ、と言葉を続けた。


「ソラティさえよければ、一緒に色んな国を見に行かないか?」

「急に何を言い出すの。」

「本当は卒業する時に言いたかったんだけどね。タイミングを逃してしまったからね。でも、今回戻ってきた時に君に会えたことは運命なんだと思うんだ。」


 一緒に色んな国に行って、君は世界中の花について勉強したらいい。僕はソラティと一緒に行ったら楽しいと思ったんだ。

そう言われて私は頭の中がまた真っ白になってしまった。急な話過ぎてついていけないまま呆然としているとリヒシュはテーブルにおいてた私の手に手を重ねてきてさらに続ける。


「それとも、此処にいたい理由でもあるの?例えば、好きな人とか。」

「それは・・・・・・。」

「いるんだね。でも、その様子じゃいい関係ではなさそうだけど。」

「リヒシュ、何が言いたいの?」


 見透かされたような言葉に私は怒りがこもった目でリヒシュをにらみつけるが、彼はそれを見ても笑って私を見つめてくる。

 だが、その時私は見てしまった。リヒシュの瞳が赤く輝き、口元はピエロのように弧を描いてにやりと微笑んだのを。

先ほどまでそこそこ賑やかだった店内の声が小さくなっていき、何故か寒ささえ感じる。だが、リヒシュの赤くなった瞳から目が離せなくて、炎のように揺らめく赤い瞳を見ていると彼は笑ったまま話を続けた。


「僕にしなよ。僕ならソラティを大事にしてあげられる。」

「リヒシュ・・・・・・何を。」

「僕はそのために・・・・・・。」


 リヒシュが立ち上がり、私の胸の前に手をかざすとそこから赤い光がこぼれ、店内で悲鳴のようなものが聞こえたような気がした。

だけど、私はなぜか身体が動かせなくて。リヒシュの赤くなった瞳を見つめる事しかできないまま、意識がぼんやりとしてきた。


「君は・・・・・・ソラティは、僕が守ってあげるよ。」


 その言葉に何故か涙が出てきて、私はおぼろになっていく意識の中でジーク司教様の顔を一瞬だけ思い浮かべた。


「口説き文句としてはいまいちだな。」


 聞きなれた声を最後に私の意識はそこで途切れた。



すみません。

投稿遅れました・・・。

後編は23時頃には・・・!

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