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渡し愛  作者: 稲穂ぴす
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07_ツリガネソウ-後編-

読んでくださり、ありがとうございます。

感想や評価も大募集中です・・・!

微ではありますが残酷な描写が入りますのでご注意ください。

 全力で走って花屋から戻ってきた私は再び教会の門の前にいた。

普段はすでに閉じられている門が今日は開いている。ああそうか、今日は子供たちのお祈りだった。

息が上がったまま、門をくぐると庭園へ続く通路の入り口に私服姿のジーク司教様が立っている。肩で息をする私を見てこちらへと駆け寄ってくる。


「大丈夫か?」

「だ、大丈夫、です。」

「どう見ても大丈夫ではないんだが。」


 走ってきた私が可笑しいのか、くすくすと笑うジーク司教様をよそに、私はゆっくりと呼吸を整えてもう大丈夫ですと伝えて庭園へと一緒に歩き出す。

歩いている間、何を話したらいいのか分からず黙り込んでいるとジーク司教様が仕事について話を振ってくれる。


「最初は花屋で引き取った花だけだったのに、手伝ってもらってすまない。」

「いえ、教会でお仕事をさせていただけるなんて光栄です。それに、レト司教様から直々に指導もしていただけるので、こちらこそ感謝しています。」


 それならいいんだがと返された後、庭園へ着くとジーク司教様が私の方を向いて手を差し出してくる。


「暗いので、お手をどうぞ。」


 目の前に差し出された手におずおずと自分の手を重ねると、流れるような動作で腕を組むような形でゆっくりと歩き出す。

 少し歩いていると、フォリーが見えてきた。その周りにはレト司教様からもらったツリガネソウが沢山咲きほこっている。振り返って周りを見るとそこはちょうど木々に囲われていて教会側からは見えないような造りになっている。

フォリーの中にあるテーブルには小さなランタンが置いてあって、中で小さな灯がゆらめいて、とても幻想的な空間を演出している。

ジーク司教様のエスコートのままゆっくりとベンチに座ると、その隣にジーク司教様も座る。


「まず、この間ソラティに何があったか説明しよう。」

「はい。」


 ふうと一息したジーク司教様はゆっくりと話し出した。

あの日、私はムーマにとりつかれたリヒシュによって心を抜き取られようとしていた。リヒシュは私に好意を寄せてくれていたらしく、ムーマによってその気持ちを利用され、私は獲物として狙われてしまったらしい。

 ムーマが私の胸に手を突き刺そうとする前にジーク司教様が来てそれを退けると、ムーマはリヒシュの体を乗っ取ったままジーク司教様に襲い掛かったのだという。


「そして、オレはリヒシュの胸を司教杖で貫いた。」

「え・・・・・・。じゃあ、リヒシュは・・・・・・。」

「ムーマにとりつかれて時間が経ちすぎていた・・・・・・。助けられなかったんだ。」


 その言葉に私は言葉が出てこなかった。リヒシュはもうこの世にいないのだという事実に私の瞳からは涙があふれた。

リヒシュとの思い出が沢山あふれてきて、涙が止まらない私にジーク司教様は本当にすまないと小さな声で謝る。


「リヒシュは・・・・・・、彼はちゃんと天国に逝けたのでしょうか?」

「ああ、ちゃんと天国に逝った。ちゃんと、天国へ導いた。」


 その言葉に私は今度は声をあげて泣いた。泣き続ける私の横でジーク司教様は何も言わず、隣に座り続けていた。

 それから少しの時間が経った頃。ひとしきり泣いた私は、持ってきていたハンカチで目元の涙を拭く。


「リヒシュの葬儀は、もう終わっているのですね。」

「ああ、リヒシュのご両親と家族の立ち合いのもとで行った。」


 ほかの人には今は何も知らせないであげてほしいという家族の意向だったらしい。リヒシュの死は家族から友人たちには伝えると言われ、教会もそれを承諾したらしい。

それならあの時、司教様達が嘘をついたのもそういう事なのだろう。


「そうだったのですね。話してくださってありがとうございます。これでリヒシュにお別れを伝えられます。」


 そう言ってジーク司教様を見るが、その表情はまだ暗いままで。

ジーク司教様は私の方に身体を向けて話したいことがあると続ける。


「オレのように魔物を退治する司教は、特別な儀式を受ける。

だからあの時もムーマの発生に気付いて駆けつけたんだ。」

「特別な儀式、ですか?」

「そうだ。魔物退治をする司教は、死神と契約しなければならない。

そして、オレはその死神と人間の間に生まれた混血児なんだ・・・・・・。」


 一瞬何を言っているのか理解ができなかった。

死神?混血児?一体何のことなのか追いつけないでいると、ジーク司教様はオレも知ったのは儀式を受けた時だと言った。


「儀式を行う理由は、魂を天国に運んでもらうためだ。罪を背負った魂は天国に自力で行く事は出来ない。だが、オレのような司教が代わりにその罪を背負い、死神に魂を天国へ運ばせるんだ。

オレはその儀式を受けた時、契約する死神から言われたんだ。『お前は死神と人間の混血児だから契約は必要ない』と。」

「ご両親はそのことをご存じなのですか?」

「いや、オレは孤児で両親の顔も見たことがないんだ。」


 その言葉に返す言葉を探していると、ジーク司教様は諦めたような悲しそうな表情で私を見やる。


「それを知って、普通の人とも違う自分は魔物退治の司教として生きていこうと考えていた。・・・・・・だけど、ソラティ。オレはソラティを好きになってしまった。」

「ジーク司教様・・・・・・。」

「オレは普通の人間とも違うし、ソラティの友人を手にかけた・・・・・・。それでも、ソラティが好きなんだ。」

 

 ジーク司教様の真剣な言葉に、私はその瞳を見つめて気持ちを伝える言葉を探していた。





ツリガネソウの花言葉は思いを告げる。

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